就活用革靴を買いに行った日

 私は幼い頃からよく、失くし物をする子だった。それがあまりにも酷いので、親元を離れてからは常に気を張り、大分ましにはなった。特に財布や携帯といった貴重品は、より敏感にその存在を意識しながら生活し、上京してから3年間携帯や財布を失くしたことはない(携帯を海へ放ったことはある)。

 しかし人間、時に思いがけない物を失くすことがある。私の場合、その最たるものが革靴だった。

 革靴が無いと気づいた時には我ながら驚いた。人ってこんな大きな物まで失くすのかと他人事の様に感心すら覚えた。しかも、どこでどう無くしたのかすら、分からないのだからお手上げだ。

 物忘れの病は1度、医者に診てもらうとして、
新しい革靴が必要だ。大学4年の私は就活をしなければならず、まさかスニーカーで企業の面接に行くわけには行かない。N○KEやa○idasの就活は、スニーカーでも良いのだろうか。
いやいや、そういう大手スニーカーブランドは
革靴とかも地味に手出してんのよ!と1人で突っ込んでサファってみたら(googleよりsafari派)、
両者1足も出してなかった。       

 そういう訳で、革靴はasicsが出しているものを購入することにした。

 よ!アシックス!
 我らがメイドインジャパン! 
 日本万歳!!
 和食最高!!


 サファってみると、どうやらアシックス商事が出しているテクシーリュクスというモデルが、スニーカーの様な履き心地で人気らしい。

 よし。私は早速、テクシーリュクスを取り扱っている虎の門にあるグリーンシューズという店舗に伺うことにした。靴は履かなきゃ分かんない。

 店内は、長細い作りで決して広くはないが、アシックス製の革靴がぎっしり並んであり、これなら気に入った革靴が買えそうだ。が、しかし店員がいない。奥の部屋にいるのかと声をかける。

私「すいませーん。」

眼鏡を掛けた60歳くらいのおばちゃんが出てきて、コロナを警戒してか私の3m先くらいで止まった。

私「革靴、試着したいんですけど。」
婆「何cm?」
私「26か25.5くらいで…」
婆「はいよ」

婆が箱を持ってくる。
革靴を出した途端、婆が言う。

婆「こりゃ大きすぎるね。あなたの今履いている靴は何cmなん?」
私「26ですね」



婆「ダメ!!!!!」



私「(ダメ)!?」

店員が客に使うにしては、珍しすぎる単語に思わず顔に出して驚いてしまったが、どうやら革靴とスニーカーでは、サイズの考え方が違うらしくスニーカーの2cm程小さいサイズを選ぶのが一般的らしい。

先言ってよ、おばちゃん…。

 なんだかんだで、おばちゃんとは打ち解け(急展開)購入した革靴を受け取る時には、初対面の3m超えディスタンスが嘘のような距離感で

「これ履いて就活頑張るんだよ。」

と、声をかけていただいた。ありがとうね、おばちゃん。

 内定貰ったら報告にでも行こうかな、と一瞬だけ 私の心が動いたが(良いやつ)、どうせおばちゃんは俺のことなんか忘れて、またあの強烈ディスタンスで迎えられると思うとやめといた方がいいだろう(悪いやつ)という結論に至った。


何はともあれ、新しい革靴は買えた。
よかったよかった。


人生、一期一会。
一生、青春。
ずっと親友。
出逢いに感謝。
足はアシックス。


ちなみに、帰ってから革靴の箱を見たらカンボジア製だった。





アジア万歳!


#試着したのに革靴やっぱちょっとデカイ
#それもまたアジなんじゃない
#アシ
#アシックス
#アジ
#アジア
#アジフライ

                  白鳥晴瑠


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?