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雲海 【散文詩】



思い出は泡だから、壊れやすいのは当然で、毎日があったことを忘れないためにも丁寧な暮らしを何度もしよう、未来に繋がっているのは健康だけで、何歳になっても私たち、呼吸をしてれば生きていける。

この空も、水も、空気も、夜風も、八月のためにあるものだと思っていた。それなのに九月が迎えにきて、すべてをさらっていく。わたしの口や鼻から夏が抜け、絵や写真でしか確認することができなくなり、一番きれいだった夏、ふくらむような明るさに恋をしたことを思い出す。夏が体から抜けて、足りなくなった分を補給するために、吸い込めるものは何でも吸い込んだ、こうして体内では秋が、冬が、春が、自動で作られて、永遠を錯覚するような感覚。

花緑青のけやき並木、喫茶店前のゼラニューム、午後の日向道、意味のある景色、意味のある今日、意味のある人生で、誰にも気づかれず、食べ残した季節が枯れるように燃えている。



きみのために風は吹いている そう思えるのはきみのかけがえのない生活が、日々が、 言葉となって浮かんでくるからだと思う きみが今生きていること、それを不器用でも表現していることが わたしの言葉になる 大丈夫、きみはきみのままで素敵だよ 読んでいただきありがとうございます。 夜野