EaM 6 Across the Universe end.

「……で? そのモモってコが来るの?」
「うん。ここ府中第五小学校に。一と百は立川だけどさ、僕はここに通ってたんだ」
「なんか話聞いたけどさ、なんなの? お前もクスリやってんの?」
「やってないし。お前『も』ってなんだよ」
「俺らはいんだよ、立川市民だもん」
「なー」
「何それ」
「立川生まれ錦町育ち悪そなやつはだいたい友達……」
「しょうもな」
「だいたいブスが来たらどうすんだよ」
「画像あるよ、ほら」
「うわ、めちゃめちゃ可愛い。お前これネットから拾ってきたろ」
「違うし」
「こんなに可愛いの? 嘘くさいな。どうせアプリで盛ってんだろ?」
「どうかなー」
「この石の輪っかのモニュメントから来るの?」
「だって。ここから別の宇宙と繋がれるって。あとこのへん古墳多いじゃん。そっからも繋がれるんだって」
「ますますヤク中くせーな」
「あと府中は宇宙なんだって」
「は?」
「FuchuとUchu」
「駄洒落じゃん」
「寒っ」
「音が大事らしいよ」
「俺とおなじ名前じゃん、モモって」
「本名は違うらしい」
「ハンドルネームってこと?」
「うーん、なんかむちゃくちゃ長いしこっちの言葉じゃ言えないって」
「お前はなんなの? なんかハンドルネームなの?」
「アース」
「ぶっ」
「笑うなよ」
「アースって」
「うける」
「……ほら、約束の17時だ」
「なんか夕焼けが綺麗だな」
「黄昏時だね」
「異世界に通じる扉……」
「うける」
「あ、ほら、なんか輪っかのなかが光ってる」
「え? あ、本当だ」
「マジで?」
「怖っ」
「だいたいそいつ来ても言葉とか通じるの?」
「飜訳アプリがあるって。脳にプラグするんだって」
「よくわかんねーな」
「あ、」


「…………」


「…………来た」
「…………アース?」
「モモ」
「……えっめちゃくちゃ可愛い」
「画像より可愛くない?」
「初めまして、モモ。僕がダイチ。アースだ。こっちの金髪がイチ、こっちの茶髪がモモ。おなじ顔でしょ。彼らは双子なんだ」
「こんにちは。本当だ、似てる」
「……ちは」
「ちっす」
「よろしくね。イチくん、モモくん」
「あ、ああ」
「よろしく」
「ここは僕の通っていた府中第五小学校だよ。西府駅前だ。府中市。日本だよ、地球の」
「ここのことはあっちの世界でも検索できたの。ここが一番繋がりやすかった。私の好きな人にも
聞いたの」
「そか、モモって好きな人いるんだよね」
「うん。大人なんだけどね。大人っていうか
こっちでいう大人にあたる人。先生、みたいな」
「センコーか」
「モモちゃん、俺とかよくない?」
「イチは黙ってて」
「ここの校章は四つ葉のクローバーなの。この地区の植物なんだって。希望・信仰・愛情・幸福、
あとHead・Hand・Heart・Healthって意味がこめられている。今日4人集まったよね。4という数字が必要だった」
「へ〜」
「四つ葉ね」
「明晰な頭脳・よく働く手・暖かい心・丈夫な体の4Hだ」
「マジで」
「すげーな」
「あと第五、ね。太陽系にはかつて5番目の木星型惑星があったの。この星は海王星に近い軌道に乗った後、約40億年ほど前に姿を消した」
「そうなの?」
「地球が第三。太陽から水星、金星と並んで3つめが地球だ。いま太陽系内に存在する4つの木星型惑星は木星、土星、天王星そして海王星がある。気体で構成され、地球型惑星のような固体表面をもたない惑星だ。この失われた天体に関して間接的な証拠がある。それは未知の氷の塊、クラスターの中に見られる。これらはカーネルと呼ばれる天体でカイパー・ベルト上に存在する。カイパー・ベルトは原始惑星の破片からなり、広大な領域で太陽を中心に海王星の軌道外まで円状に取り囲んでいる」
「俺よくわかんなくなってきた」
「俺も」
「その惑星はいまは私達の宇宙にあるよ。次元の狭間にひっかかって弾き出されたの、そっちの宇宙から」
「へ〜なっるほど〜」
「イチ、ちゃんとわかってる?」
「私達の惑星にわりと近い位置にあってね。その干渉がこちらへの移動をスムーズにさせた。とくに府中第五小学校への」
「ジェイムズ・P・ホーガンのSF小説で第五惑星を扱ったものがある。巨人たちの星だ。僕のお父さんが好きでさ」
「ああ、裁判官のお父さん?」
「お前って俺らと違ってお坊ちゃんだしな。俺らんちなんて本棚すらねーわ」
「僕の家はお母さんも読書好きだから。ロシア文学とかさ。二人は書店で知りあった。まあそれはおいといて。惑星の名前はミネルヴァだ。詩・医学・知恵・商業・製織・工芸・魔術を司るローマ神話の女神の名前だ。アートでは彼女の聖なる動物であり知恵の象徴でもあるフクロウと共に描かれることが多い。音楽の発明者でもある」
「えっ俺らの聴いてる音楽ってそいつがつくったの?」
「話が壮大だな」
「この小説は2500万年前にあったミネルヴァの話だ。地球人はあるメッセージを送信する。そして返信がくる」
「私とアースみたいだね」
「どこに送信したの?」
「それは自分で読んでよ。いろいろ話が複雑なんだ」
「俺、本とか読んだことねーな」
「俺も」
「まあ、星新一とか読みやすいんじゃない?」
「なんかよくわかんねーけど今度貸して」
「いいよ。バリー・B・ロングイヤーもあるよ。映画、第5惑星の原作の小説だ」
「まだあんのかよ、第五」
「ダイゴも連れてくればよかったかな」
「でもそれじゃ四つ葉になんないし」
「そか」
「まあ小説より映画のほうがみやすいかもね。映画をみてから小説読んでもいいし。ビジュアルが想起しやすいだろ?」
「なーる」
「TSUTAYA行くか」
「モモ、君にもいろいろ持ってきたよ。これは全部あげる。返さなくてもいいから」
「わっすごいね。これがCDとか漫画っていうのなんだ。私達の世界のものとは全然違うね。漫画、ってのもないかな。絵本みたいなのならあるけど」
「最初は読みにくいかもね。でもじきになれるよ」
「ありがとう。あ、時間だ」
「え、もう?」
「うん。結構このワームホールって制限あるの」
「モモちゃん、ワームホールって何?」
「時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのような抜け道のことだよ」
「お前に聞いてねーよ、ダイチ」
「じゃ、またね。またメッセージ送信するから」
「うん、ありがとう。またこれる?」
「ちょっとまだよくわかんないな」
「これたら教えて」
「うん」
「モモちゃんいくのか。さみしいな〜」
「いっそのことこっちに住めばいいのに」
「ありがと。イチくん、モモくん」
「ああ。またね」
「また来てね。で、俺といいことしようぜ」
「イチはいらないこと言うなよ」
「いいことね。先生とならしてる」
「えっ、それって」
「ばいばい、またね。アース、イチくん、モモくん」


「行っちゃったな」
「いいことって何だ?」
「そりゃもうあれだろ」
「あれか」
「モモちゃんって大人の女なんだな……」
「ぶっ」
「しかしイチとかモモってまだやってなかったの? そんななりして」
「俺は本当に好きな人としかしねーんだよ。純潔を守るんだ」
「ぶっ」
「俺はただ単にタイミングの問題だな。ダイチ、お前もドーテーなんだろ」
「それはどうでしょう」
「えっお前まさかもうやってんの?」
「秘密」
「おい、何だよそれ。早く言えって。まさかイキってんじゃねーの?」
「さ、帰るかー。てか立川のカラオケでも行って
IKEAでメシでも食べる?」
「おいごまかすなよ」
「俺何歌おうかな」
「最近だとあのバンドがいいよ」
「あの、って?」
「なんだっけ。CMでかかっててさ」
「モモちゃん、可愛い声だったな。なんか相対性理論のヴォーカルみたい」
「あーわかる」
「相対性理論歌おうぜ」
「俺歌えるかなー。女の歌ってあんま」
「モモちゃんが俺らのバンドにはいればいんだよ」
「おっいいじゃん」
「Pentangleだね」
「何? それ。ダイチっていつも古いやつしか歌わねーからな。それもどうせ昔のバンドだろ」
「うん、お父さんが好きでさ、その影響。60年代後半から活動しているイギリスのフォークロック・バンドだ。5人組」
「じゃ、ダイゴもいれるか。あいつドラム叩けるし」
「pentangleは5つの点をもつ星のことだ。五芒星ね」
「あ、あの星のマークか」
「人も結局ひとつの星でさ。引き合ったり衝突したりしてまた新しい宇宙ができるんだ。面白いね。出逢いは必然なんだ。すべての出逢いには意味がある。synchronicityだ。意味のある偶然の一致。共時性のことだ。同時発生」
「なんかよくわかんなくなってきたな。まあカラオケ行こうぜ。ダイチは何歌うの?」
「Reflectionかな、Pentangle」
「カラオケにはいってる? そんなの」
「あー、ちょっとわかんないな。なかったらBeatlesでも歌うよ。Across the Universeとかさ」
「昔の歌すぎてぴんとこねーな」
「宇宙を渡る歌だ。Across the Universeだから。Jai Guru Deva OM」
「?」
「インドのマントラだ。彼らはインドにかぶれていたから。我らが導師、神に幸あれ。感謝するってこと」
「ふうん」
「感謝か、なるほどね」


end.


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