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TACHIKAWA dystopia 10 Amethyst

「なんかやっちゃったな。すげーよかったよ」
「審査会がアナルと外出しならいいって」
「何? その審査会って」
「子どもが出来るとまずいんです、この時代に」
「何かよくわかんないな」
「私にも1本ください、マリファナ」
「気管支炎じゃなかったの?」
「セックスのあとはすいたいんです。とくに気持ちいいと」
「ありがと」
「ボスの肩って赤い竜の刺青があるんですね、キレイ」
「赤い竜はウェールズの象徴でさ。国旗にもあるのね」
「イングランドってもうなくてウェールズですもんね。100年前……アイスランドが海面上昇で海に沈んだとき」
「そうそう。俺の親父ウェールズの人間なのよ」
「ハーフなんですか、ボスって」
「うん、母親はトーキォだよ。ここエイジアのね」
「お父さんのこと好きなんですね」
「違うよ逆」
「逆?」
「俺の父親はママ……俺の母親を殺したんだよ。
ルート69が開通した28年前、俺が10歳のとき」
「…………」
「父親は祖国へ逃げた。俺は絶対あいつを殺そうと思った。14歳でアヤセ連合に入ってさ、アダチの。そのとき刺青を入れたんだ。この憎悪の感情を風化させないために」
「…………」
「その4年後には抗争に巻き込まれて妹は死んだ。俺は守れなかったんだ、ただ一人残された肉親を。ママのことも守れなかった。父親はその2年後にあっけなく病気で死んだ。肩には赤い竜だけが残った。遺産があるって言ったよね。俺はロザリアっていう婆さんに躰を売ってさ。それで遺産を相続したんだ。使い切れないくらいの莫大な金。だからこんな仕事のない探偵事務所なんかやれてる」
「…………」
「なんだか父親が死んだ二十歳のときから何か……泡の抜けたジンジャーエールみたいな感じでさ。3年前、俺はショーワキネンパークでお前に声かけただろ」
「ただのナンパでしたよねあれ」
「何か妹に似てるって思ったんだ。妹もハーフだろ? 眼の色が似てる。アメジストのような深い紫」

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