TCR 9 陽はまたのぼりくりかえす

 僕は鳥になりたい。いつも鳥の眼を持っていたい。僕達は重力という足枷をつけて生活をしている。
 この世界は監獄だ。抜け出るには死ぬか狂うか。ドラッグなんかは一時的なものだ。アートや音楽に没頭するのも悪くはないかもしれない。浮揚できる。でもまた僕達はくだらない日常に舞い戻る。この地球は奇跡的な回転で突き進んでいるのに僕達はそれを体感できない。日はまた昇り繰り返す。それだけで奇跡で神の存在証明だ。なのに僕達は今日は昨日の続きで惰性で生きている。もっと、もっと鳥瞰するんだ。全速力でここから飛び立ちたい。僕達はいつもそこにある幸せに気づかない。
 メーテルリンクの青い鳥。L'Oiseau bleuだ。
探し求めていた鳥は実は鳥籠のなか。僕達はすでに神の胎内にいる。空気という羊水のなかで微睡む覚醒できない永遠の虜囚だ。西暦12000年の水没した世界。

「七日後に洪水は起き、40日40夜の間、地上を吹き荒れた。 最後に方舟はアララト山の上に漂着した。 雨がやむとノアは木々の頂が見え始めた、土地を探すためにノアは鳥を放った。
 はじめにカラスを放そうとしたが、カラスは『自分たちはひとつがいしかおらず死ねば全種属が絶滅してしまう、別の鳥にしてくれ』と不平をいった。しかしノアはそのことを聴かず空に放った。カラスは戻ってこなかった。 次にハトを放った。 ハトは地上にとまる所が見つからず方舟に戻ってきた。」

 旧約聖書の創世記だ。

「七日後、ノアはふたたびハトを放った。 しばらくしてハトは嘴にオリーブの小枝をくわえ戻ってきた。 その小枝は、聖地オリーブ山からくわえてきたものであるらしい。 それでノアはもう少しで方舟から出られると考えた。もう七日まち、三回目のハトを放った。 ハトは二度と戻ってこなかった。 ノアは扉を開き地上に降り立ち動物達を放した。アダムの子孫は、彼ら以外のすべてが死んでしまったので、ノアたちが人間の新しい祖先となった。」

 ハトは何処に行ったのか。ドードー鳥の祖先になったという話もある。もう絶滅してしまったマダガスカルの鳥。

 葵は僕のセックスがとても巧いという。彼女は僕しか知らないくせにね。僕は10歳から手ほどきされた。相手は僕の母親だ。うちは母子家庭で僕は父の顔も知らない。母はいつも強い酒とドラッグに溺れている。いつも男がいないとダメな依存体質なんだ。そして僕もその対象になった、ただそれだけのこと。
 僕は結婚しないだろう。恋人だってつくる気もない。葵はいいところのお嬢さんだ。家はこの地区で一番の大病院なんだ。葵がそこを継ぐという話もある。
 色弱はどういう確率で遺伝するのかな。遺伝しないかもしれないけどね。色弱は医者とパイロットにはなれないんだ。色弱以前に母親と姦淫している僕を葵が知ったらどう思うか。軽蔑するかな。僕はドードー鳥のように絶滅すればいい。ただそれだけのことなんだ。


作者註:1とキャラなんか違うな?まあいいか


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