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TCR 7 ロストワールド

「いまこの日本の中心って府中じゃん」
「うん。立川から国立を挟んで隣」
「大國魂神社跡に政府庁タワーがあるよね」
「そうだね。大國魂神社は府中本町のRound1の屋上に移転した」
「僕達は西暦3000年前後にWW121が終結してそれ以来この世界には戦争なんてないと教わった。世界は海で繋がりモノレールが走る。高層タワーで人々は快適な生活をしている。でもさ、いまは西暦12000年だ。9000年もこの地球上に戦争がないなんてありえるだろうか」
「でもTVとかネット見てもそんなこと言ってないよ。戦争があるとか」
「そんなものはいくらでも隠蔽できるよ。いまの技術ならいくらでも戦地は作れる。火星や月面、次元だってすこし歪めればいい。僕達の知らないところで戦争は起こっているんじゃないかな」
「そうかなあ」
「WW1から2にかけてもこの国は南の島などを戦地にしてきた。沖縄だってそうだよ。それらの土地はもうすべて海の底だけど」
「何か隠されてるのかな」
「人見が戦艦を見たって」
「ああ翠と同じクラスの」
「すぐ隠れるように政府庁のゲートに入っていったみたいだけど。何か秘密裏で着々と準備されているんじゃないかな。いや、もうすでに始まっている。そんな気がするんだ」
「9000年か……確かに変かもね、ずっと平和だなんて」
「軍事郵便ってのがWW1から2にかけてあってさ。兵士が内地の家族なんかに宛てる郵便は無料だったんだ」
「そうなんだ」
「明治27年……1894年の日清戦争をきっかけにその制度は確立された。昭和20年、1945年の終戦までそれは続いた。日清戦争では1240万通、日露戦争では4億6千万通の郵便が出された」
「そんなに?」
「それらはいまも多少は残ってる。でもWW3以降は手紙は過去の遺物になった。電子メールになったんだ。この世界は西暦3000年に1回滅んでいる。そのとき過去の電子データはほとんど失われた。本当はもっとあった筈なんだ、詠み人知らずの手紙や呟きが」
「いまもあたしSNSやってるけど昔もあったの?」
「あっただろうね。ごく普通の人達が恋やお金や仕事や食べたものなど自由に呟いていた場所が。すべて消え失せてしまったけど。万葉集だってそうだよ。西暦700年から800年にかけて編纂された和歌集だ。あらゆる身分の人の歌が4500首以上編まれている。なかには作者不詳の歌も多いよ。多摩川に晒す手作りさらさらに 何そこの児のここだ愛しき」
「それも作者はわからないの?」
「うん。親が子を思う歌だ。僕達は何万年経ってもきっと根本は変わらないんだ。きっとそうだよ」


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