TCR 6 Fantasista

「葵、SNSとかしてるんだ」
「うん、飛行機とかさ、綺麗な花の写真を撮る人とかフォローしてる。ほらこの桜綺麗でしょ。ほのかな薄ピンクで」
「白にしか見えないんだよね」
「あ、翠って色弱だっけ。なんかごめんね」
「謝るようなことじゃないよ。マジョリティか
マイノリティかの違いってだけで。色弱はわりと
多いしね。男性は20人に1人だ。吃音は100人に
1人だったかな。ウィリアムズ症候群なんかは日本人は1~2万人に1人って言われてる」
「何? それ」
「ヒトは22対からなる常染色体と1対の性染色体を
持っている。子どもは父親と母親から一対ずつ染色体を受け取っているんだ」
「なんか難しいな」
「ウィリアムズ症候群は父親か母親どちらかの7番目の染色体の一部が欠けてなくなってしまって
起こると考えられている」
「どうしてそういうことが起こるの?」
「遺伝子のミスコピーかな。それが生存に適してたら進化に繋がる。進化っていうか分化かな。そうやってヒトは気の遠くなるくらいの時間をかけて変貌してきた」
「じゃあそういう人達って進化のカギを
握ってるの?」
「そうかもね。突然変異はfantasistaだ。それまでの流れを変えるキーパーソンだよ。エポックメイキングだね。新時代の到来だ。ウィリアムズ症候群の人はすこし特殊な顔立ちだ。エルフみたいだとも称される。妖精だね。音楽が好きで社交的だとされている」
「なんで症候群なの? 病気?」
「才能と障害は人間が勝手にラベリングしたものだ。役に立てば才能で日常生活に支障があれば障害。本当はそこに差なんてない。ウィリアムズ症候群は、精神発達のおくれや視空間認知障害、歯の異常なんかもある。先天性心奇形の疾患とかね。まれな疾患だから国に難病として指定されている」
「そうなんだ」
「妖精様顔貌症候群とも呼ばれてるよ」
「なんかかっこいいね。あたし色弱もかっこいいと思うよ。ほかの人が見えない景色を見てるなんて素敵じゃん」
「そうかもね。前に補正メガネをかけてみたけどさ。なんか鮮やかすぎるんだ。赤味が強いっていうかさ。僕は僕の見えかたでいいよ。血はコールタールのようにどす黒くて桜は白い花だ。明度の同じ色彩は混ざりあって区別がつかない。それでいいんだ、それが僕にとっての世界なんだから」

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