TCR 5 持ち主のないギター

「…………」
「どしたの葵。なんか飲む? ペリエでも持ってこようか」
「…………」
「ん?」
「……翠ってすごいエッチなんだもん」
「すごい声出てたね」
「やだ、もう」
「痛かった?」
「……そこまでは」
「じゃあよかった?」
「……うん」
「あはは。葵って可愛い」
「もう」
「葵の躰ってエッチだった。ギターみたい。こっちが弄るとすごくいい音が出る」
「14歳が言うセリフ? それ」
「感度いいよね」
「やめてよ恥ずかしい」
「もう1回する?」
「足とかガクガクしちゃってる」
「かーわい」
「どこで覚えたの? ああいうの」
「秘密だよ」
「何それ。エッチな動画とか?」
「ああいうのはヴァーチャルだからね、そのまま
してもたいしてよくないよ」
「そういうものなの?」
「うん。過剰な表現になってる。女の人はね、ギターを扱うようにちゃんとチューニングをあわせてさ。優しく、ときには激しく爪弾くの。そうするととてもいい音が出る。手入れが大切なんだ。素敵だよ、って声かけてね」
「……翠って本当に中2?」
「ギター好きだからなんでもギターで考えちゃう。人体はギターだ。弦で繋がっている、上と下が。だから例えば足を緩めたら頭も緩む」
「フットバスとか気持ちいいもんね。全身が
ぽかぽかする」
「葵は名器だよ。そうだな、ストラトキャスター
かな。変な癖がない。フェンダーだよ」
「翠がいつも弾いてるやつ?」
「うん。レスポールもいいけどね。ギブソン。結構重いんだよね。ネックも太い。僕そんなに手が大きくないし。モンゴロイド向けでもないのかもね、ああいうの。アメリカのだから」
「そうなんだ」
「いま世界は全部海で繋がってるじゃん。そのぶん湿気も強くてさ。ギターにはよくないよね」
「いまの人ってもっと軽くて小型のやつ弾いてるよ。そういうギターなんて1万年前のものでしょ」
「好きなんだ、この質感と重さが。本だって僕は紙がいい。今日びあんまりないけどね」
「本当にギターが好きなんだね」
「うん。葵のことも好きだよ」
「あたし達これで彼氏と彼女ってこと?」
「なんかピンとこないね。いいんじゃない? いままで通りで。葵も刑部先輩とつきあってもいいし」
「なんかそういうの寂しくない?」
「葵、僕のこと好きなの?」
「うーん……好きは好きだけど」
「好きだからあんなに濡れてたの?」
「馬鹿、エッチ」
「あんなに声上げてさ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「かーわい」
「……意地悪」

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