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TCR 2 ハイブリッド レインボウ

 僕達は放課後によくTACHIKAWA cross rainbowに腰掛けて話す。IKEAタワー(100階建てだ)で買ったコーラなんかを飲みながら。西の方角には富士山のシルエット。夕陽が山頂にかかる。

「綺麗だね、翠」
「ほら、サカナクションの三日月サンセット。夕暮れの歌だよ。葵も好きでしょ」
「サンセットって夕暮れだっけ。授業でやった?」
「どうかなあ」
「夕日赤く染め 空には鳥 あたりまえの日没の中で♪」
「鳥飛んでるね」
「歌とおんなじー」
「君は今背中越しに♪」
「背中あわせる?」
「えー」
「ほら、おんなじ」
「なんか照れるなー」
「ばっか」
「あはは」

 僕、翠(スイって読むよ)と葵は1万年前の歌ばっかり聴いている。いまの西暦12000年も素敵な歌はいっぱいあるけどね。Oswald'sってバンドなんて結構いいよ。でも昔の人は偉いよね。武器は放棄したけど楽器は守り通したんだ。だいたい3000年前後のムーブメントだったみたい。Alice in Last WWの頃だね。
 だからいま僕達は有難くもこんな太古の音楽を
聴けるんだ。タブレットでがんがんかけてさ。

「翠って将来なんになりたいの」
「そうだなー。ギターが好きだからギタリスト。
でも量子学の研究もしたいな。アニメ好きだからアニメーターもいいな。宮崎駿みたいなアニメ撮ってさ。映画監督もいいな。でも料理研究家もいいかな料理好きだし」
「よっくばりー」
「葵は?」
「あたしは断然パイロット!」
「調布の海上飛行場よく行ってるもんね。西府のOKタワーのLINDBERGH CAFEもよかったね」
「あそこ飛行機好きが集まるから。また行こうね〜」
「僕はパイロットにはなれないな」
「なんで? 怖いとか? 水上バイクは飛ばすのに」
「いや色弱なの」
「しきじゃく?」
「色の区別が曖昧なんだよね。赤緑の区別もよくわかんないし桜の花だって僕には白にしか見えない。血はなんだか黒っぽく見える。色弱だとパイロットの免許は取れないんだって。事故防止なのかな、よく知らないけど。色弱は男性は20人に
1人だから結構多いよ。L'Arc-en-Cielのヴォーカルだって色弱だ。そういえばL'Arc-en-Cielはフランス語で虹だね」
「TACHIKAWA cross rainbowだあ」
「pillowsのハイブリッド レインボウもかっこいいよね。で、そうそう色弱は女性は1000人に1人だって」
「なんでかなー」
「女の人のほうが色彩に敏感だったりするもんね」
「ふーん」
「色弱は医者にもなれない。やっぱ命を扱う仕事だからかな」
「うち病院じゃん。結局あたしが跡継ぐとかいう話になってる。大学も医学部とか行かされそう。兄弟のなかであたしが一番優秀なんだって」
「へえ」
「じゃあパイロットは趣味になるのかなあ」
「僕が仮に葵と結婚したらさ、お父さん反対するかもね。色弱って遺伝もあるんだ」
「パパ厳しいしね。それにあたし達ただの幼なじみだし結婚なんかしないよー」
「あはは」
「あたしのこと好きなの?」
「好きだよ?」
「えー」
「like」
「ばか」
「でもさ、医者とパイロット以外なら僕は何にでもなれる。そうでしょ?」
「じゃああたしのお婿さんとか?」
「どうだろね〜葵と結婚したら大変そう。ガサツだし料理下手だし」
「なんだとー」
「わっ落ちちゃう」
「海に突き落とすぞ!」
「やめて〜」

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