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まるでラボ? 好奇心を刺激する『ナノグールド』(全国バー行脚⑮北海道・札幌)

 この全国バー行脚はなぜか初回を北海道の網走から始めているのですが、今回、北の国に回帰。北海道2回目は、ど真ん中の札幌です。

■水割りは3種のウイスキーで

 札幌・すすきのには「狸小路」という一画がありまして、その付近にはバーが点在しています。その中で、私にとって最も大切なバーが『nano. gould(ナノグールド)』です。

 カラオケの派手な看板がかかったビルをエレベーターで4階へ。そのビルの風情には似つかわしくない、黒く重厚な扉があります。少し躊躇するかもしれませんが、遠慮せず開けましょう。その先に広がるのは、暗めの照明の中、12席程度のカウンターと、4人掛けのテーブル席を設置したオーセンティックバーです。バックバーの上部が障子造りだったり、店内の所々に和のイメージが漂います。

 ナノグールドは、出すお酒一つひとつが個性的。多くのオリジナルカクテルを打ち出しているだけでなく、ジントニックのような定番カクテルも、ウイスキーの水割りも、個性的な「ナノグールド流」を貫いています。

 たとえばジントニックは、5種類のジンにジュニパーベリーを更に漬け込んでいるそうです。また、下の写真はウイスキーの水割りですが、3種類のウイスキーを10mlずつ使い、丁寧なステアをします。今月伺った際は、▽グレンリベット12年▽シーバスリーガル12年▽タリスカー10年―を使用。飲んだことのない風合いでした。ちなみに氷は使いません。

3種のウイスキーを使った「ナノの水割り」

 オリジナルでは「煙のカクテル」を頼みました。写真ではわかりませんが、ウイスキーと薬草のリキュールを、専門の道具を使って目の前で瞬間的に燻製します。グラスに注ぐ際に、たゆたう煙と燻製香。癖になりそうです。

煙のカクテル

 以前、冬に訪れた際はアイリッシュコーヒーをいただきましたが、注ぐ際に独特な器具を使うのが見ていても面白い。煙のカクテルで使う瞬間燻製機もしかり、既存のウイスキーを混ぜ合わせる水割りもしかり、まるで化学者がラボで実験をしているような雰囲気があります。

 アブサンがたくさんあるのも嬉しいポイント。薬草好きな自分は、やはりアブサンも好きです。

アブサン。左は横浜、右は北海道の物

 お酒を作るのは、主にオーナーバーテンダーのTさん。今月、2年10カ月ぶりにお店を訪ねたら、一目見るなり破顔一笑「お久しぶりですね!」と迎えてくれました。

 私は一時期、私用で2カ月に1度程度のペースで札幌へ行っていたのですが、その頃から必ず伺っていたのが、このナノグールド。穏やかに楽しく過ごせることに加え、いつも好奇心を刺激してくる唯一無二のバーです。

■女性バーテンダーの草分けが営む『ドゥ・エルミタアヂュ』

 狸小径には、他にも好きなバーがあります。ナノグールドのほど近くに建つビルの10階、『ドゥ・エルミタアヂュ』はお勧めです。

 古き良きバーの面影を残す店構えに、15席ほどある長いカウンター。奥には6人掛けのテーブルもあります。手書きのメニューもいい味出してますね。

 お酒を作ってくださるオーナーバーテンダーNさんは、日本の女性バーテンダーの草分けです。初めて伺った2020年の時点で76歳、バーテンダーになって50年。「駆け出しの頃は女性バーテンダーはほとんどおらず、ホテルでも採用しない時代だった」と言います。私よりもはるかにまっすぐ伸びた背筋でカウンターに立ち、立ち居振る舞いも鮮やか。今年の夏にも伺いましたが、なんとも「お元気+格好いい」

 いただいた物からひとつ紹介するのはこちら、オリジナルカクテルの「サンスマイル」。ジンベースとテキーラベースを選べまして、これはジンベース。黄色いトマトジュースを使っているとのこと。爽やかで、するりと体に溶けていくような飲み心地に酔います。

サンスマイル

 ともあれ、エルミタアヂュの魅力はバーテンダーのNさんでしょう。最近、私が古くから知っている女性バーテンダーが独立して都内でバーを構えたのですが、その話をしますとNさんは嬉しそう。帰り際、お見送りをしてくれまして、エレベーターの扉が閉まる際に両手の親指を立て「その方にお伝えください、がんばーっ!」と笑顔。ありがたや。格好いいだけじゃ終わらない。チャーミング!

■空港内に構える『ジアス ルーク&タリー』

 さて、札幌と言って良いかどうかの問題はありますが、札幌への「入口」となる新千歳空港内のバーにも触れたいです。『ジアス ルーク&タリー』第1回の網走編で触れたジアスの、空港内店舗になります。新千歳空港ターミナルビルの3階。空港内とは思えない本格的なバーです。

 そもそも私がジアスを知ったのは、この空港店がきっかけでした。これほど素晴らしいバーが空港内にあることに驚嘆し、店長のSさんに網走の本店のことを教わり、実際に本店にまで行っちゃったというのが真相です。

  ちなみに女性店長のSさん、まさにプロ。場所柄、短時間で席を立つお客が多く、入れ替わり立ち替わりの状況が続きがちですが、そうした忙しい店内をものすごい手際で捌きながらも笑顔を欠かしません。この夏、久方ぶりに訪れた私にもすぐに気づいてくれました。もう一度言いますが、プロフェッショナルです。

■酒とつまみと温泉と

  さて、札幌に用がある度に新千歳空港を利用するわけですが、私の行動パターンとしては、まずこの空港内のジアスへ。帰りも早めに新千歳空港に着いてジアスへ。結局、札幌を一度訪れる度に、2度行っていることになります。

 行く度に新しい驚きがあるのが、この空港ジアスの特徴でもあります。直近で行った今年の8月は、オホロのミントジン(ニセコ蒸溜所)とやらを使ったジントニックをいただきました。香りが鮮烈。癖になりそうです。

オホロジンはじわじわ知名度を上げてます

 もちろん、ジアス得意の流氷を使ったハイボールや、オリジナルカクテル「プラネット・オブ。ブルー」、みんな大好きパーフェクトサッポロクラシックもあります。

流氷ハイボール
プラネット・オブ・ブルー

 食事もできるので、新千歳空港で時間ができたらここで落ちつくのが一番。エゾシカのカレーや知床ポークのスパカツなど、北海道名物の料理がさまざまあります。私の定番はカラフトマスやホッケを使った、オホーツクの恵みが味わえるフィッシュ&チップスですね。厚岸のウイスキーと牡蠣のセットや、ホッケサンドもお勧めです。

北海道フィッシュ&チップス
厚岸ウイスキーと生牡蠣
食べ応え抜群のホッケサンド

  お酒を飲み、北海道の食事やつまみを楽しみしつつ、空港内を行き来する人々を見るのもオツなもの。蛇足ですが、新千歳空港には、これまた空港内とは思えない温泉があります。露天もある本格派。もはや空港で一日過ごすのもありかと…。(了)


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