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「神様、明日晴れにして」第三話

雪天、登場

「なんで私がこんな不躾な人間の世話なんてしなきゃならないんだ!崇高な八意思兼命殿に仕える狛犬だというのに。八意思兼命殿はコマを嫌いになったのだろうか…。はぁ。」
半べそをかいた狛犬がとぼとぼと歩いている。
「俺だってさっさと帰りたいんだけど。」
「人間、なんでついてきた!」
「逆になんで連れてきた!」
「ぐぬぬ・・・」
「さっさと孫とやらのところに連れて行けよ。解決してお互いもどりたいところに戻ろうよ。」
「そうか!人間を元の世界に戻せばまた、八意思兼命殿にお仕えできるのか!」
コマの目が輝いた。
「人間!孫殿は手ごわいですが、ちゃちゃっと問題解決してくだせえ!」
「わかったから、早く連れて行けよ。」
一喜一憂の激しい狛犬だ。
「どなたからお会いしましょうか。」
「誰でもいいよ。」
「八意思兼命殿のお孫さんは8人おられます。晴天殿、曇天殿、雨天殿、雪天殿、雷天殿、風天殿、霜天殿、霧天殿でございます。」
「覚えられねぇ。」
「名前はおいおい憶えていただければいいですぞ。皆様優秀な方ではございますが、何故、個性が強くて…。」
「そこで何をしておる。」
初めて聞く声がした。振り返ると、細く白い髪の長い女性が立っていた。
「雪天殿!」
「雪天…。」
白く長い髪がふわっとなびく。切れ長な目が一度見ると忘れられない顔だ。よく見ると顔が深山に似ているきがする。そういえば深山今頃何してるんだろう…。勝手に明日とかなってないよな?あぁ、早く会いたいな。
「コマ、そやつは何者じゃ。」
「雪天殿、この方は人間界の者でございます。ちょっとした手違いでこちらの世界に迷い込んでしまったようでして。」
「人間⁉早くそのようなものは杜から追い出せ!」
「申し訳ございませぬ、八意思兼命殿から、とどまるよう申し受けておりまして。」
「チッ、あの爺さんめ。」
「雪天、俺は兼一。よろしく。」
手を差し出したが退けられてしまった。
「え?」
「触れるでない、汚らわしい。人間のような下等なものと一緒になど居とうない。仕事の邪魔じゃ。さっさと去れ。」
「はぁああ?」
俺は、雪天の胸ぐらをつかもうとした。しかしコマの制止が入った。
「放せよ!」
「いけませぬぞ、人間!ここでもめてもいいことはありませぬ!孫殿の仲違いを収めるのが使命でございます!ここは穏便に!」
「くそう。」
「フッ、さすが下等な人間。すぐに感情にまかせ動くのか。汚らわしい。…そうじゃ、コマ。我は疲れたから部屋で休むとする。その間雨天に任せたと伝言を頼む。」
「かしこまりました、雪天殿!ゆっくりおやすみくださいませぇ。」
「頼んだぞ。」
雪天は振り返りもせず、自室へと戻っていった。
「おい、狛犬。」
「・・・。」
「聞いてるのか狛犬。」
「コマです。」
「は?」
「ですから、私はコマです!!」
「名前呼ばれなくてすねてるの?」
「・・・」
「はぁ、コマ。」
「何でしょうか人間。」
「あいつの態度は何なんだよ。深山に似てるからかわいいな~とか思ったのに性格は深山の逆だな。顔だけ良くても性格終わってたらかわいくねえ。なぁ、みんなあんな感じなのか?」
「雪天殿は冷たく見られがちではございますが、心優しいお方ですぞ。まだいい方かと…」
「あれでいい方…?」
「まぁ、お会いしてみればわかるかと思いますぞ。とりあえず、雨天殿のところへ行きまするか。」
「あぁ。なぁ、雨天とかいうやつはどんな奴なんだ?」
「雨天殿は雨を司るお方です。基本的にはほかの皆様の言いなりというか…特に雷天殿と風天殿との相性はあまりよろしくないようで、一緒にお仕事をされる際は、いつも泣いておられます。」
「同じ孫にいじめられてるのか?」
「いじめといいますか、指導といいますか…。まぁ、見ていただければわかると思いますよ。ちなみに今日の当番は…あ、雷天殿と風天殿とご一緒のようですね。」
「早速修羅場を見る感じか?」
「さぁ、どうでしょう(苦笑)」
そういうとコマは口を閉ざしたまま、廊下をひたすらに歩いた。
もう、30分は歩いたように感じる。
そういえば中学、高校でもいじめはあった。だけど、いじめには我関せずでその場を乗り越えてきた俺だ。これから会うやつがどんなやつなのか、戦々恐々としていた。

(人間界USA-04 area)
「人間殿、つきましたぞ。」
「あ、あぁ。」
扉に手をかけようとしたその時。
ドンッ!と大きな音がした。
「な、なんだ⁉」
(扉の向こうの音)
「何ちんたらちんたら水落としてんだよ!もっとざっと落とせばすぐ終わんだろうがよ!とろいな!!」
「ソーダソーダ!」
「す、すみません、雷天さん!!イタッ!」
「お前が遅いせいでな、俺の仕事が遅れるんだよ!わかってんのか?」
「ソーダソーダ!」
「すみませんすみません!わぁーやめてよー!」

「なぁ、コマ。」
「何でしょう、人間殿。」
「これは、中に入らなきゃいけないのか。」
「そうですね、入っていただかないと。」
「そうだよな…。」
頭ではわかっているが、扉の向こうで、痛みを伴う何かと罵詈雑言があるのを分かっていて、入れる人間はいるのだろうか。逃げてばかりだった、俺は少なくとも入りたいとは思えない。この喧嘩が落ち着いたころに入らせてもらうか、3人がバラバラになったタイミングを狙うか、正解は、果たして―――。
「コマ、この喧嘩が終わってからじゃ…」
「ダメですね。」
「ダメですよねー。じゃあ、コマだけ行くのは…」
「ダメですね。」
「そうですよねーダメですよねー。はぁ。」
仕方がない、行くしかない!
ガチャ
「失礼しまーす・・・」
ドアを開くと大泣きした雨天と楽しそうに雨天をいじめる雷天、遠くで椅子に座りながら口笛を吹く風天の姿があった。
部屋にはモニターのようなものがあり、人間界の空の様子が見える。
アメリカ上空はひどく降る雨と雷がこだましていた。
(3話 完)

#神様 、明日晴れにして
#神晴
#カミハレ
#3話


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