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「神様、明日晴れにして」第二話

(八意思兼命の家)
「おい、狛犬!戻り方がわからないってどういうことだよ!」
「いやぁ~こんなこと10万年仕えてきて初めてのことでして!…八意殿が悪いんですぞ!勝手に付いてきたんすから!」
「俺だってこんなところ来たかったわけじゃないんだけど?狛犬が勝手に連れてきたんだろ。早く戻せよ。」
「無理を言わないでください!できないことを言われてもですね、こちらは何もできません!」
「使えない狛犬だなー。」
「なんと無礼な!それからさっきから狛犬狛犬おっしゃいますけどね、私には八意思兼命殿がつけてくださったコマという名前がございまするぞ!」
「しらねえよ、そんなの!」
「まぁまぁ。うるさいからとりあえず、静かにせぬか。」
「申し訳ありませぬ、八意思兼命殿。この人間がうるさくしておりまして。すぐに、黙らせますので。」
「コマ、お主もじゃ。」
「も、申し訳ございませぬ…。」
「だっさ。」
「人間、言葉を慎め。」
「…。」
「だっさ。(にやり)」
狛犬のしたり顔で睨み返す。
「お主らは、似た者同士じゃの…。」
「そんなことございませぬぞ!」(同時)
「そんなことない!」(同時)
「ははは、言うことまで似ておる。」
「八意兼一殿。ここから帰れないのは、我からも謝らせておくれ。どうやったら戻れるのかは我が調べておくとしよう。家に人間を置いておくのは正直乗り気にはなれぬが、外に出たところで、戻ってこれず永遠にこの世界をさまようことになるだろうからな。(笑い)」
「出ても、行くあてもないから別に、ここにいてやってもいいけど。早く戻る方法見つけてきてくれよ。あんたらのせいでずっとこんなところにいなきゃいけないなんてごめんだ。」
「人間、無礼な言い方を!!!」
「コマ、大丈夫だ。兼一殿ここに居ていい代わりに一つ、お願いを聞いてほしいのじゃが。」
「お願い?神様なのに、人間にお願いするのか?」
「ははは、神にだって感情はある。悩みの一つや二つあるものじゃ。」
「まぁ、聞くだけなら別にいいけど。」
「恩に着る。この話は兼一殿にとってもいい話だと思うぞ。」
「いい話?」
「そうじゃ。ところで、お主は我についてなにか知っていることはあるか?」
「あんたが天気の神様だってことくらいしか。」
「はっ、そんなことしか知らぬのか!お主は馬鹿じゃのう~!」
「コマ、ちゃかすでない。まぁ、お主の顔は初めて見る顔じゃし、明日の台風を変えたい一心でたまたま我のところに来ただけなのじゃろう。」
「し、知らなくてもしょうがないだろ。神様なんてたくさんいて、正直みんな名前の読み方もわかんねぇし、どこになんの神様がいたって、俺には関係ないし。」
「何かにすがりたいときに、都合よく祈りをささげる人間がほとんどじゃ。そう思う者がおっても仕方がないことだと思うぞ。兼一殿、少々、我の話をしてもよいか。」
「別に、暇だし、聞いてもいいけど。」
「ありがとう。我は生まれたときから、考えることが得意での。一つのことを聞けばそのあとどうするべきか的確にこたえることができた。」
「え、頭がいいっていう自慢?」
「まぁ、そういうな。幼少期、神として求められることを教え込まれるのだが、兄弟の中でも群を抜いて覚えるのが早かった。だから、岩戸、国譲り、天孫降臨の時は我に重要な役割を与えてくださった。」
「岩戸?国譲り?天孫降臨?」
「知らぬのなら戻ってから調べてみるといい。話を続けるぞ。何十年、何千年、何万年という月日を知恵を絞り、世の中をよくするために頭を使ってきた。見ての通り、我はもう、老体じゃ。」
「いや、見た目若いけど。」
「見た目で判断するとは、まだまだ青いやっちゃの。お主ら人間が思う、何百何千倍も我々は生きている。そうすると、仕事の量もどんどん増えてきたんじゃ。それはもう、抱えきれない量の仕事じゃ。人間たちからの願い事も数えきれないほど聞いてきた。気づけば、我の考えは人間の考えに近くなってきた。一人二人、三人と願いを聞くごとにじゃ。だからかの。我に願い事をすることで知恵が降ってくると人間に喜ばれるようになった。そこから知恵の神と呼ばれるようになったんじゃ。」
「天気関係なくない?」
「天気の神と呼ばれるようになったのは、天岩戸の時じゃ。太陽神である天照大御神が天の岩戸にお隠れになったんじゃが、太陽は消え、真っ暗な世界になった。暗闇が好きな悪霊たちが天災をもたらすようになった。神々が集まり対策を練る会議で、父上は我に意見を求めた。だから我は、祭りを行うことを提案した。父上はまだ未熟者であった我の言葉を信じ、祭りを実行してくださった。その結果、天照大御神は天の岩戸から出てきてくださったんじゃ。神々はそれはそれは喜んでくださっての。父上もよくやったとほめてくださったものじゃ。それがうれしくて、天災が起こったときは我が率先して交渉してきた。今では、晴、曇、雨、雪、雷、風、霜、霧それぞれの神との太いパイプができ、信頼関係を築くことができ、人間界の天気は我に任せてもらえるようになった。時折、神々の怒りで我にも制御できないことはあるんじゃがな。」
「だったら、明日の台風だってどうにかできるんじゃないのか?」
「まぁ我の話を最後まで聞いてはくれぬか。確かに神々とのつながりはできた。ただ、我の仕事は天気を操ることだけが仕事ではない。知恵の神としての役割も担っている。そこでじゃ。我が一人で管理するよりもそれぞれに担当させるのがいいのではないかと考えた。そのほうが効率がいいからな。そう思って我の孫たちに晴、曇、雨、雪、雷、風、霜、霧の役割を与えたんじゃ。」
「じゃあ、その孫とやらにお願いしたら台風じゃなくなるのか?」
「そう考えるのが順当だと思うぞ。しかしそれには問題がある。」
「問題…?」
「いやぁ…どうも、孫たちは仲が良くないようでな。」
「え?」
「知恵の神と呼ばれる我じゃが、子育てというのは、先を読んで動くことができない。なぜなら、彼らにも個性があって、我自身ではないからじゃ。」
「はぁ。」
「他人をどうのこうの変えることは難しい。だからやりたいようにやってもらおうと思って見守っておったのじゃが…。」
神が気まずそうな顔をしている。
「まぁ、あれじゃ。自由にやりすぎて、個性というものが強くなってきてだな。自分のすごさを見せつけるように仕事をするようになった。その結果、人間界の天気は荒れてきてしまった。」
「異常気象ってやつ?」
「人間界ではそう呼ぶのかの。雨が強く降ったり、晴れ過ぎてしまったり。まぁ、加減を知らない元気な孫たちでなぁ。は!は!は!」
「つまり、その孫たちに仕事を引き継ぐのを失敗したと。」
「失敗ではないぞ。元気なことはいいことじゃ。」
「ごまかすんじゃねえよ。つまりそのせいで6月頭に大きな台風が来ることになって、俺はこんなところに連れてこられたってことだろ。迷惑なんだけど。」
「ここに連れてきてしまったことは申し訳ないと思って居る。しかし、人間たちにも怠慢があるとは思わぬか?」
「怠慢?」
「そうじゃ。兼一殿が必死に止めたがっている台風が6月に来るのだって、人間たちが自然を大事にしなかったことが原因ともいえるではないか。」
「今あんたが孫たちが原因ですって言ってたじゃないか。」
「確かに元気すぎる孫たちにも要因はあると思う。しかし、地球上に住んでいるのはお主たち人間じゃ。我らが用意した土地では飽き足らず、海を埋めて、住まうところを増やしたり、もともと存在しなかったものを生み出してCO2を増やしたり。お主たち自身が、住まう環境を壊したことで、孫たちが雨をちょっと降らすつもりで行った仕事が地球では大げさに作用してしまったのかもしれない。我はそう考えておる。」
「人間が悪いって言いたいのか?確かに地球温暖化とかテレビで言ってるけど、俺だけのせいではないだろ。なんなら俺が生まれる前から生きてきたやつらの責任だろ。俺に押し付けるなよ。」
「おっと。お主のせいだといったわけではないのじゃ。原因はどちらにもあって、解決しなければならない問題ととらえておる。お主はたまたまかもしれんが、この世界へやってきた。我は長く生きてきたが、人間と話をしたのはこれが初めてじゃ。この問題を解決するのにいい機会だとは思わぬか?」
「思わない。」
「そうか、思うか。話の早い人間で助かる。」
「じいさん、話聞いてる?」
「まぁ、そう言わずに。前置きが長くなってしまったが、我がお主に孫たちの仲を取り持ってほしいとお願いしたくてな。」
「いやです。」
間髪入れずに答えた。
「明日の台風が日本に来る前に消滅するようにすると約束すると言ったら?」
「やる!!!・・・あ。」
しまった、台風がなくなると聞いてつい言ってしまった。
「ほ、ほ、ほ。単純な人間でよかったぞ。今、やるといったのをちゃんと聞いたからな。じゃあ頼むぞ。あ、コマ。」
「はい!八意思兼命殿!!」
「コマと兼一殿は仲がいいようじゃ、孫たちのところへ案内してやってくれ。」
「私がですか⁉そしたらその間八意思兼命殿をお守りできなくなってしまいます!」
「マコがおる。心配するでない。」
「八意思兼命殿ぉぉおおおおお!」
俺は、台風消滅の為に神の孫とやらの面倒をみなければいけなくなった。
これからどうすればいいのかわからず、途方に暮れた。
(2話 完)

#神様 、明日晴れにして
#神晴
#カミハレ
#2話


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