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コンサーティーナより美しい楽器ってある?

タイトルは誇張表現で、もちろんすべての楽器には固有の美しさがあります。しかし、それでも推したいコンサーティーナの話です。


緑の国、アイルランドの楽器たち

楽器の内部です。何だかわかりますか?

アイルランドという国で、伝統音楽が盛んなことをご存知でしょうか。

アイルランドは、地図上ではイギリスの左側にある島国です。アイルランドの有名な黒ビールであるギネスビールには、優雅な弦楽器であるハープのマークがついていて、ハープというのはこの国を象徴する楽器になっています。また、ヨーロッパの各国にはそれぞれ微妙に異なるさまざまな種類のバグパイプが存在していますが、アイルランドのパイプスはイーリアン・パイプスと呼ばれています。

コンサーティーナは、その次に名前が挙げられる楽器です。ハープやバグパイプがそれなりに一般的にも知られていることに対して、コンサーティーナという楽器の名前を聞いたことがある人は少ないと思います。少ないというか、世界の民族音楽に興味があるとか、ケルト音楽好きや蛇腹楽器好き、もしくはアイルランドの文化について何か関わったことがあるというのでない限り、日常生活で目にすることはまずないはずです。

コンサーティーナはアコーディオンの仲間である小型の楽器で、19世紀のイギリスで発明されました。盛んに生産されたのは20世紀の初頭で、当時の質のいい楽器は、現代でもそれなりのお値段で取引されています。コンサーティーナのような楽器は、大切に扱えば100年以上前の楽器でも十分に実用に耐えますし、実際に私が普段弾いている楽器もそのようなものが多いです。

ここから先は楽器オタクのコレクション自慢だ!

これを全部売ると普通車が一台買えます。

どーん! 私が所有するコンサーティーナのすべてです。

そもそもこの記事は、noteのお題「#私のコレクション」を目にして、「オッそれじゃ〜私の楽器コレクションを載せたるか!」と思って書き始めたものなので、一般向けのわかりやすい楽器解説などを目的としていません。単純に「見て見て〜私の楽器ちゃんたちかわいいでしょ〜!」という話をしたいだけなのです。ごめんね〜〜!!

この写真に写っているのは、ボタンの並んでいる楽器の側面で、エンドと呼ばれています。コンサーティーナのエンドには、素材によって木材のウッドエンドと金属のメタルエンドというのがあります。どちらも美しい模様が施されているのが特徴で、これこそがコンサーティーナという楽器を知った私に「この楽器をやりたい!」と思わせたものです。のちに私がすごく真剣に取り組むようになって、人前でライブなどをやるようになったこの楽器も、最初は外見のかわいさから入ったんですね。えへ。

ここにある6つの楽器のうち、半分の3つはWheatstoneというメーカーの楽器です(写真の上段中央と、下段左と中央)。これはコンサーティーナを発明したチャールズ・ホイートストンが立ち上げたメーカーで、元祖ということもあって、楽器の品質には定評があります。

下段中央の楽器は、私が楽器を始めた最初の年に購入したWheatstoneの楽器です。製造年としても私の手元の楽器ではいちばん古くて、楽器の内部にあるシリアルナンバーから販売店が推測した製造年は「1853年前後」です。実に170年前の楽器なんです。革や紙でできている部品はさすがに交換されていますが、金属や木材の部分は170年前の姿を残しているはずです。すごいですね。

上段中央の楽器は1923年製造、つまり現在ちょうど100歳の楽器で、メタルエンドの左下をよく見てみると、メッキが剥がれてしまっているのがわかります。ここは演奏者の腕が当たる部分なので、きっと前の持ち主がたくさん弾いてあげていたのでしょう。楽器は見ていているだけでも美しいですが、やはり演奏で使ってあげてこそです。これに対して、下段左下の楽器は1906年頃のWheatstoneで、amboynaと呼ばれる非常に美しい木材でできています。これもよく見ると部分的にエンドの木材の割れ(クラック)が少しだけ存在しているのですが、楽器全体としてのコンディションは非常によいものです。

これらの3つのWheatstoneはすべて、今はお店を畳んでしまったアメリカのButtonBoxというアコーディオン販売店から購入しています。アンティークの楽器の購入というのは一期一会で、特に最後に述べた1906年頃のamboynaエンドの楽器を手に入れられたのは、本当にラッキーだったと思います。楽器というのは同じメーカーでもモデルによってけっこう音色が違っていて、この楽器はやや甘く柔らかい印象の音がします。音色や弾きやすさを見ても、外見の美しさと状態を見ても、総合的に考えて、私の手元の楽器の中ではこれが最高のものです。お値段もトップクラスでしたが、そこは頑張って耐えました。

写真の上段中央には、ひと回り小さい楽器が写っていますね。これはLachenalというメーカーのもので、おそらくカスタムメイドで製造されたであろうミニチュアコンサーティーナです。推定製造年は1920年前後です。Lachenalは高品質な楽器から入門用のものまで、幅広いモデルを作っていたメーカーで、現代でも流通している楽器はLachenal製のものがいちばん多いと思います。ちなみに、このミニチュアの楽器を以前メンテナンスのために分解したとき、内部に「C & R DIPPER」というスタンプが押されていることに気づきました。これは現代のコンサーティーナの有名メーカーであるDipperのことで、この楽器が私の手に渡る前に、そこでリストアが行われたということでしょう。なるほど、弾き心地がいいはずです。

下段右下はMorseというメーカーの楽器です。アコーディオン販売店としてのButtonBoxは、Morseのブランドで楽器メーカーとしての事業も行っていて、質のよいコンサーティーナを製造していました。製造は2020年で、私が持っている楽器では唯一の現代のメーカーのものです。外見は標準的な楽器と同じですが、バリトンという普通の楽器よりも1オクターブ低い音域を持っています。

写真をよく見た方は、上段右上の楽器だけがボタンの配列が異なるということに気づいたかもしれません。ベルトの構造も違いますね。コンサーティーナは大まかに分けるとアングロ、イングリッシュ、デュエットという異なるボタン配列が存在していて、私がメインで弾いているのはイングリッシュです。この上段右上の楽器だけがアングロです。実は、アイルランド音楽で主に使われるのはアングロで、イングリッシュを弾いているアイルランド音楽奏者というのはアイルランド本国にもあまりいないと思います。日本国内でコンサーティーナを弾いているという人も、そのほとんどがアングロを持っているはずです。私はマイナーな楽器の中でも、さらにマイナーなタイプの楽器を弾いているわけですね。

というわけで、私の楽器についての話をオタク早口でお届けしました。一気に喋ったので、肩で息をしています。

素敵な音色も聴いてくれ〜!

蛇腹は紙で装飾されていることもあります。

今回の記事では、主にコンサーティーナという楽器の美しさについて語りましたが、演奏についても動画を載せておきます。現代のアイルランドの著名なハープ奏者、Michael Rooneyという人の作曲した曲です。この曲は、私の好きなアイリッシュフルート奏者の須貝知世さんのアルバム「Thousands of Flowers」で知りました。

私は正直、楽器の演奏に関してはあまり才能がないほうです。もう8年くらいこの楽器に真剣に取り組んできて、人前での演奏もやってきましたが、アマチュアという括りで見たとしても、演奏者としてはそんなに高いレベルには届いていません。このことは残念に思っていますが、楽しいから続けられるという感じです。逆に、下手でも続けたいと思うのは、やっぱり自分は本当にこの楽器が好きなんだなってときどき思います。

この記事を読んで、コンサーティーナという楽器やアイルランド音楽という文化について興味を持ってくれた人がいたら嬉しいなと思います。アイルランド音楽を演奏する人というのは日本国内にも意外といて、地域のコミュニティも各地にあります。SNSでのやりとりも活発ですし、YouTubeなどで演奏を公開しているプレーヤーさんもいます。今回の記事で触れたようなアンティークの楽器の購入はややハードルが高いですが、国内で比較的廉価なコンサーティーナをネット販売している楽器店さんも存在するので、これを読んでいるあなたも、やろうと思えばすぐに始めることができます。

Apple Music等のサブスクのサービスでも聴けるコンサーティーナの音源としては、Mary MacNamaraの「The Blackberry Blossom」、Jack Talty & Cormac Begleyの「Na Fir Bolg」あたりをおすすめしておきます。ぜひ聴いてみてくださいね。以下はApple Musicのリンクです。

さきほど触れたアイリッシュフルートの須貝知世さんのアルバムについても載せておきます。名盤です。

マイナーな趣味語りのとっても長い記事でしたが、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

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