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突然、ぼくとギターのドロップ2

ドロップ2

「オレのこと、覚える気はない?」とドロップ2が話しかけてきた。

ぼくが本屋さんで、ギターの教則本をパラパラとめくっていた時だったと思う。ドロップ2のことは以前から知っていたけどあまり関心がなかった。だからその時は「ふーん」とあいまいに答えると、本を棚にもどしてお店を後にした。

それから2ヶ月くらいして、また声をかけられた。何気なくYou Tubeを眺めていた時だった。

「オレを覚えたら、ギターで4声の転回形が弾けるようになるんだぜ?」とドロップ2が話すのを聞いて、ぼくのアタマになにかが閃いた。

ぼくはかつてトライアドの転回形を練習していたんだった。

トライアド

去年のぼくは、トライアドにすっかり夢中になっていた。とあるギター講師の紹介がきかっけで知り合ったぼくらは、すぐに付き合い始めた。ぼくは彼女の魅力に惹かれ、寝ても覚めてもトライアドを弾く、そんな生活を送っていた。約1年ぼくらの蜜月は続いた。

「じっさいのところ、3和音じゃものたりないんだ」ある日、ぼくはひどくトライアドを傷つけ、二人は自然と距離をおくようになった。彼女の行きたい場所と、ぼくの進みたい方向がすこし違っていたのかもしれない。

転回形

弾き語りのサイトには知ってるコードの押さえ方ばかりが載っている。たまにみかける知らない押さえ方もすぐに覚えられた。「ここはルートで、五度の音がフラットするから…」と、知っていたかのように解説することだってできた。当時のぼくは「ギターでコードが弾ける」のだと、すっかり勘違いをしていた。

誰だって、自分の力不足をみとめるには勇気がいると思う。ぼくは以前から
「ギターが弾けるようになりたい」とか、「ギターの秘密を知りたい」というようなことを口にしていた。それはきっと、自分の努力不足を棚に上げ、広い世界から目を背けていたのだと思う。

転回形。
ぼくが弾けなくて弾きたかったのは、コードの転回形なんだ。そのとき始めてドロップ2のことをちゃんと知ろうと思った。

新しい日々

こうして、ぼくらの付き合いは始まった。
ギターを触ればドロップ2を弾く生活。教則本や動画には、肝心の付き合い方について触れているものはほとんどなかった。でも未来への期待と興奮しかなかった。なんとなくヤツとはうまくやっていけそうな気がしたからだ。

しかしその後、たくさんの問題に向き合っていくことになるとは、当時のぼくにわかるはずもなかった。


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