見出し画像

【童話】選択的天草四郎ライフのすゝめ #ウミネコ文庫応募

むかーしむかし。あるところに天草四郎が住んでいました。

実は。彼にはひとつ、大きな悩みがありました。
それはみんなが彼を天草四郎だと認めてくれないこと。
彼がどんなに声高に「ボクは天草四郎だ!」と訴えても、だーれもそれを信じてくれないのです。

「違うよ。おまえはどー見たって勝海舟だよ」
「勝海舟なんかじゃない! ボクは天草四郎だッッ!」
「いーや、勝海舟だね」
ってなかんじ。

ところがある日のこと。

唐突に、彼は気づいてしまうのです。
自分が勝海舟だったということに。

「本当だ。みんなの言う通りボクは勝海舟だった・・・・」

真実に気づいてしまった『自称・天草四郎』。
彼の取るべき道はふたつにひとつ。

ひとつは勝海舟として生きる道。
そしてもうひとつは、なにもかもぜーんぶわかってて、それでもなお天草四郎として生きる道。

どちらを選んでもかまわない。
それがほんとうに君自身の選択の結果なら。


「っっボクはーーーー」





ぺらぺらの小冊子をぱたんと閉じて、彼は頭上に輝く大きなお月さまを見上げました。

今夜は満月。

月の光を浴びながら、彼はゆっくりと立ち上がります。

小さな湖のそばまで歩いてゆくと、そのふちから、彼はそっと水面みなもを覗き込みました。
そこに映っているのはつやつやと青白く発光するイカ型宇宙人。
彼はボタンのように大きな目で湖面に揺れる己の姿をじっとみつめます。

ーーーと。

彼は触手のようにも見える細いゲソをのばして、頭のてっぺんについている三角をつぽん!と取り外しました。そして、うんと勢いをつけてその三角をぺいっと湖に放り込んでしまったのです。

つるんと丸くなった彼の頭。

もうイカ型宇宙人じゃない。
タコ型宇宙人とも違う。

三角のなくなった彼は、イカ型でもタコ型でもない『なにか』になった。

「☆◎※Ψ◇€∇Ж○~~~~!!!」

うれしそうにくるくると回りながら彼が何事かを叫びはじめます。
青白く発光していた全身はみるみる桃色に染まり、小型UFOに飛び乗った彼は、っっびゅーーーーん!!と、惑星Ψ∇ΘЖを飛び出してゆきました。

ゴロゴロと石の多い赤茶けた地面の上に残されたのは、彼の読んでいたあのぺらぺらの小冊子だけ。
風に煽られ冊子がぱらら・・・とめくれます。

『選択的天草四郎ライフとは、かつての天草四郎ライフとは似て非なる第3のーーー』


『選択的天草四郎ライフのすゝめ』
            シロクロ著



それはしらじらと月の明るい、静かな夜のできごと。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?