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白目相談室「まだ何もしてないのに疲れるのはなぜ?」

臨床心理士/公認心理師として精神科で勤務しながら、夜な夜なSNS 界隈で漫画家活動やLIVE配信などをしております。白目みさえと申します。活動内容などはこちらでご覧くださいませ。

今回の記事はこんな内容

まだ嫌なことが起きてもいないのに疲れてしまう、嫌になってしまうのはなぜ?嫌なことならまだわかるけど、楽しいことが待っているとわかっても面倒になってしまうことってありませんか?

これは脳内で「感覚の再現」をしていることが原因かもしれません…!
「感覚の再現」とは何か?そして「何もしていないのに疲れた」にならないようにするための方法は…?

今回のご相談はこちら

■相談内容

・今とても疲れている
・疲れすぎて浪費に走っている
・毎日仕事に行きたくない
・家で家事をする必要はない
・自分へのご褒美を買ったついでに温泉旅行をすることにした
・サイコーの気分だったが、その先に待っている「仕事」という名の日常に気づき絶望している
・旅行までの期間楽しめばいいのに早くもロスっている
・私はどこかおかしいのでしょうか?

■感想

冒頭で「理由はわからない」と書かれていましたが、「仕事が嫌」であることは伝わってまいりました。
今の「疲れ」に直結しているかどうかはわかりませんが、「仕事」は「嫌」なんですねきっと。

「春」になると普通「進級」や「進学」など変化が多い時期なはずなのに、大人になるとそんなに変化はありませんので、変化がないこと自体に脳や身体が「あれ?」となったり、別れの時期であることを思い出してちくりと心が痛んだり、繁忙期で忙しい場合もあれば繁忙期が過ぎて気が抜けたという場合もあるでしょう。

基本的には業務が変わっていないのなら「春」だからといって急に仕事が嫌になることは多分あまりないと思いますが…。

時期的にも寒暖差が激しく、花粉症でない人でも花粉やら黄砂やらが飛び交う時期ではありますので、体調を崩しやすいかもしれません。

でもまあそんなこと言うてたら「穏やかな時期」なんかあんまり日本には存在していないので、暑かったり寒かったり湿ってたり乾いてたり。
何かしら変化はあるので、「春」だけが特別ではないかもしれません。

ただ「春」というのはなんだかあちこちでみんなが「ウキウキ」していたり「ドキドキ」していたり、変なテンションになる人も多いので、それが微妙に伝染して疲れてしまうということはあると思います。

さて。こんな風に「春ってこんな事情で疲れがちよ」と解説しようと思えばなんとでも言えるし、自分の好きな理由を採用して納得できるならそれでいいのですが…。

私も先日子どもの進級、進学にあたって部屋を片付けたり衣替えをしたりして疲労困憊ですけれど、それもまあ「春のせい」と言えば春のせいです。

でも「春のせい」ってなってもそれはどうしようもないので、違う視点から考えてみたいと思います。

「脳内旅行」も「脳内仕事」も始まっている

■ガラスの仮面に見る「感覚の再現」

まずちょっと私の大好きな『ガラスの仮面』からあるシーンを簡単に紹介しますね。興味ない人、知ってる人は読み飛ばしてください。
ちなみに15巻に載ってます。

主人公の北島マヤは『ふたりの王女』という作品の中で、誰からも愛される美しい姫アルディスを演じることになります。見た目も平凡で幼少期から貧乏で苦労してきたマヤは、アルディスのイメージと自分がかけ離れているので、演じ方がわからず悩んでしまいます。

そんな時、かつて『オペラ版・ふたりの王女』でアルディスを演じた歌手北白川藤子と会ってその極意を教わることに…。

まず北白川さんは、バラの花をマヤに渡して「なんてきれいなバラ」と言ってみるよう指示します。マヤは「なんてきれいなバラ」と素直にそのセリフを口にしました。
そして次に花の部分を切り取って「もう一度同じセリフを」と指示します。するとマヤは少し困りながら「なんてきれいなバラ…」と言います。
北白川さんは「それは嘘ね」と指摘し、実際にきれいなバラを見たときの感覚を思い出してそれを再現するように伝えました。そう言われたマヤはきれいなバラを頭の中で想像し、「なんてきれいなバラ」と言います。それを見て北白川さんは「とてもよかったわ。いまのが"演技をする"ということなのよ」と教えたのでした。

出典:『ガラスの仮面』第15巻 白泉社

いい話ですね。

これはこれで演技ってそういうことなーってなりますが、今回の話で取り上げたいのは『感覚の再現』というところです。

■不登校のお子さんは「脳内登校」している

不登校のお子さんが、学校に行く前に腹痛や頭痛、吐き気などを訴えることがあります。
学校で何か嫌なことがあるのはわかるけど、まだそのストレスには直面していないのにどうして?と思われるかもしれません。

この時不登校の子の頭の中では何が起きているかというと。

脳内ではもう学校に行っているんです。

単純に考えると、学校が嫌だったとしても、学校に行かなくなって家にずっといるのであれば、元気になってもいいはずですよね。

でもなぜかずっと調子が悪い、行こうとすると調子が悪くなる…。

それはどういうことかと言うと、脳内ではずっと本人は登校していて、嫌だった思い出をずっと脳内で体験しているんです。

酷いいじめなどがある場合はまた別ですが、実際の「学校生活」では「嫌なことばかり」ではありません。行ってしまえば、「嫌なこともあるけど良いこともある」という体験ができる可能性があります。

でも「脳内学校」というのは基本的に嫌なことしか起こりません。本人が体験した「嫌な思い出」が凝縮されたような「最悪学園」で生活を送ることになります。

「学校に行こう」と想像しただけで、もう脳内は勝手に「最悪学園」に登校してしまうのです。

そりゃストレスですよね。実際に登校するよりも何倍も嫌な体験とストレスを味わっていることになります。

脳というのは「感覚」を直接的に体験させてくれます。
普通は「熱い」ものに触れて「熱い」という感覚を感じますが、脳が本気出したら熱くなくても「熱い」という感覚を作り出すことはできます。

熱々の鉄を見せた後で目隠しをし、その後冷たい鉄を腕に当てて、後ろで焼き肉などをして「ジュウ〜」と聞かせると、目隠しをした人の腕にはミミズ腫れができた…なんて話もあります。

この話がどこまで真実かは分かりませんが、人の脳や心というのは本当に複雑で。実際に今目の前では起こってはいないものでも、脳の中で再現できてしまうというメカニズムがあります。

「病は気から」と言いますが、これもあながち間違いではありません。
スポーツ選手は「イメトレ」が大事と言いますが、これも実際にトレーニングをすることにプラスして、脳のトレーニングをすることによって「上手なイメージ」を焼き付けていると言えます。すると脳は「この上手なイメージでできる人なんだな」と勝手に勘違いしてくれます。逆に言えば失敗をイメージしているとそっちにそっちに寄っていきますし。

そんなこんなで不登校のお子さんは「感覚の再現」によって、苦しめられていると考えることができます。

■相談者様は「感覚の先取り」をしているかも

さて。相談者様の場合は「旅行」は楽しい行事ですよね。
「あんなことがあるかな」「こんなところに行こう」「何を食べようかな」あれこれ想像は膨らんでいるはずです。

過去の体験から「楽しい感覚の再現」をしていると考えられます。

こんな楽しい「感覚の再現」ならいくらあってもいいんじゃないかと思いますよね?
でも残念ながら「楽しい」ことを先に想像してしまうと、脳は「飽きて」しまいます。

最初の内は「旅行10」「そのほかの仕事なんて0」くらいの割合で考えていたとしても。段々と「旅行」の想像に飽きてきて8、7、と減っていきます。

そして不思議なことに「嫌な想像」っていうのはあんまり飽きないんですよね。いくらでも想像できてしまってしっかり嫌な気分になってくれます。

最初は「楽しい旅行」を想像していましたが、段々と飽きてきて「楽しい旅行」の中に「でも帰ってきたら仕事だ」とか「帰りの電車はちょっと嫌だな」というように、「楽しい」以外の感覚がどんどん入り込んできます。

これが「何もしていないのに疲れる」の正体です。

相談者様の中では、もう旅行に行っているし、仕事も始まっています。
つまりもう「終わって」いるんです。

だから「楽しくない」し「ロス」に陥っていると言えます。

じゃあどうしたらいいの?

①どうせ考えるならこっちを考えてみては?

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