会の解散に寄せて…医療と向き合うということ

ひだまりクリニック 小児科医 佐山 圭子

2007年から13年で、きちんと成果を上げて目標を達成して解散するということ、本当におめでとうございます。

私は主に、『知ろう小児医療守ろう子ども達の会』が立ち上がった初期の頃に、協力医として参加させていただきましたが、13年を経て、この会が大きく育って、見送る時期になったということなのでしょうか。

会の活動の影響を受けて、自分自身、大きな学びを得ることができただけでなく、「ひだまりクリニック」を開業するに至ったと言っても過言ではないので、感慨深いものがあります。

会の講座で講師をさせていただいたことがきっかけとなって、「一方通行でないお母さんとの語り合う場所が欲しい」という気持ちが芽生え、開業したのです。母親学級ありきの開業など、普通には考えられないことですが、それをしたいと思うようになるほど、会の影響は大きいものでした。

その後、予防接種や健診を仕事にし、やがて、やりたかった『産後ケア』を始めるに至ったのですが、それは、いつも会のポリシーとして聞いていた「できる人が、できることを、できるときに」という言葉と、自分のしたい方向性を大事にした結果です。医療資源の比較的恵まれている東京だから、できるのだとも思いますが、、、

パパママ向けの講座で講師を務める際、医療を語るにあたりよく使っていたのが、「納得」という言葉でした。「結果でなく、納得が大事なんだ」と、自分の妊娠や出産など、様々な体験を通じて、そのように感じていたからです。私自身は、妊娠出産の挫折体験だけでなく、子育てそのものにも、たくさんの悩みがあり、その体験が今の仕事につながっています。

その後、母を、続いて父を看取った経験からも、いろいろな場面、いろいろな立場で、医療と向き合って、やはり納得は大事だなと思っています。経過の納得ができていれば、どんな結果であれ、受け止めやすかったのです。

医療を受ける立場になると、医療はありがたいものだと実感することも多く、最近では、訪問看護や在宅医療などのシステムも変化し、とても使いやすいものに進化していると実感します。また、真摯な看護により、癒される経験もしました。

その一方で、「電子化が進んだ病棟で電子カルテを見ているのだから、診察は必要ない」と言い切る医師にも遭遇し、その態度に疑問を持つこともありました。そうした経験を通じて、自分の医療を振り返ることにもつながり、つくづく「人を幸せにする医療とはどんなものだろう」と考えるようになりました。

会の歴史であるこの13年の間でも、小児医療は大きく変わってきています。ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチン・水痘ワクチン・B型肝炎が定期接種化され、ロタワクチンの接種率も高くなりました。今年はロタワクチンも定期接種化されます。

私自身は地域での小児医療の中でも、予防接種と健診を主に担い、大きな病院での治療の最前線にいるわけではないのですが、以前と病気の種類が大きく変わってきたことをよく耳にします。細菌性髄膜炎などの重症感染症が極端に減り、胃腸炎の入院も減っています。予防接種の輝かしい成果です。

医療も変化しますね。もちろん、よりよいものになっていっているのだと思います。けれど、まだまだ子どもをとりまく問題は、いろいろあります。虐待のこと、貧困のこと、外国籍の子どものこと、発達の支援のこと、LGBTの子どものこと、、、世界に目を向ければ、さらに大きな問題も山積みです。

子どもを取り巻く大人たちが、子どもの幸せを願い、それぞれの立場で「できる人が、できることを、できるときに」を実現していくことで、少しずつ変化があると期待できるのだなと、会の発展と解散は、そういう気持ちにしてくれます。そしてそれは、医療職でも教育職でもない人でも、できることなのだと思います。

医療とつきあうということは、立場の違うそれぞれの人を尊重すること。自分を大事にしつつ、他人をも大事にすることから、スタートするのだと思います。

もちろん、普通の人間関係すべてがそうなのですが、医療は、そこに命そのものがからみ、不確実性が存在するところが、難しくなってくる要因なのでしょう。

よい医療を提供するためにも、よい医療を利用するためにも、お互いがいい状態にある必要があり、働き方改革・社会の意識改革も、取り組まないといけない課題だと思います。

会に様々な形で参加されている方たちとお付き合いすることもあり、みなさん本当にすごいなぁと思っていました。自分の子どもをかわいいと思えるだけでなく、その思いが社会の子どもたちをかわいいという気持ちに広がっているからです。そういう気もちがあるからこそ、小児医療という課題に取り組めるのだと思います。

不安な病気の経験があっても、子どもは育つし、「喉元すぎれば熱さ忘れる」というのが普通でしょう。自分の問題から始まって、それを社会の問題として捉え、よりよい社会にするにはどうすればいいか、という課題に真っ向から立ち向かってきたのですね。

私自身も刺激と力をいただいて、これからも、私にできる、世の中をより良いものにするためにできることを考えていきたいと思います。「できることをできるときに」していきたいです。

ありがとうございました!

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