薬剤耐性(AMR)について

国立研究開発法人
国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター
藤友 結実子

【薬剤耐性(AMR)とは?】

皆さま、「AMR」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?

「AMR」というのは、「AntiMicrobial Resistance=薬剤耐性」(と訳します)、つまり、細菌が変化して抗微生物薬が効かなくなる、もしくは効きにくくなることを言います。わかりやすく言うと、「肺炎や尿路感染症になっても、抗生物質が効かず、病気が治らなくなること」です。

今、AMRは世界的な問題となっています。現在AMRが原因で、世界中で約70万人が亡くなっていますが、このまま何も対策をしなければ、2050年には1,000万人が死亡すると予測されています。これは、現在がんで亡くなっている820万人を超える数値です。

【AMRの原因は?】

AMRの原因の1つに、「抗微生物薬」、中でも「抗菌薬(抗生物質)」の不適切な使用が挙げられます。「抗菌薬(抗生物質)」とは、細菌をやっつける薬です。

※巷では“抗生物質”と言っていますが、抗菌薬とほぼ同じ意味ですので、以下「抗菌薬」とします。

抗菌薬を不要な場面で使ったり、量や治療期間を守らずに使用すると、薬剤耐性の原因となるのです。

人間の体には、例えば、腸管や皮膚には、たくさんの常在菌がいます。中には、もともと抗菌薬の効かない薬剤耐性菌も混じっているのですが、多数の常在菌とバランスを保って体内環境を作っています。

ここで、抗菌薬を投与すると、病気の原因となった菌だけでなく、投与した抗菌薬が効く他の菌も一緒にやっつけられてしまいます。残った薬剤耐性菌がどんどん増え、病気を起こしてしまうと、治療が大変難しくなるのです。

【日本の現状】

日本では抗菌薬の約9割が、病院やクリニックの外来で処方されています。中には、抗菌薬が必要ない場面で処方されているのも事実です。

いわゆる風邪、すなわち「ウイルス」が原因で咳や鼻水、咽頭痛といった症状が出る感冒には、抗菌薬は効果がありません。なぜなら、抗菌薬がやっつけるのは「細菌」だからです。「ウイルス」と「細菌」は、大きさも生き様も全く違う微生物なのです。

【私たちにできること】

風邪をひいて医療機関を受診して、薬を処方されたとき、分からないことがあれば医師、薬剤師に訊ねましょう。

医師は患者さんを診察してさまざまな可能性を考え、薬を処方しています。抗菌薬を処方された場合は、指示通り内服が必要です。また、具合が良くなったからと途中で内服をやめ、抗菌薬をとっておいたり、とっておいた抗菌薬を別の機会に内服したり、他の人にあげたりしてはいけません。病気によって、人によって、必要な抗菌薬の種類と量が異なります。

その他にも薬剤耐性菌対策として、全ての人にできること、やってほしいことがあります。それは、「手洗い」と「咳エチケット」、「ワクチン接種」です。実は特別なことはなく、これは日常的に誰もがやっている感染対策です。

感染症の原因となる病原体は、しばしば「手」を介して人から人へ感染し、広がっていきます。いわゆる風邪の原因となるウイルスが含まれている咳やくしゃみのしぶきは、約2m近く飛びます。

咳エチケットや手洗い、またワクチンを接種することにより、感染する機会を減らすことが大切です。感染症にかからなければ、病院を受診したり、抗菌薬を使用する機会が減るからです。予防できる感染症は、予防に努めることが大切です。

【AMR臨床リファレンスセンターとは?】

2017年4月に設立された「AMR臨床リファレンスセンター」では、厚生労働省の委託事業として、薬剤耐性対策に取り組んでいます。

薬剤耐性やその対策について理解してもらうため、講演会を開いたり、インフォグラフィックや動画を作ったり、小学校で出張授業を試みたりしています。詳しくは国立国際医療研究センターの情報サイト(http://amr.ncgm.go.jp/)をぜひ御覧ください。

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