赤ちゃんの「鉄欠乏性貧血」と母乳

TMGあさか医療センター
(旧 朝霞台中央総合病院)
小児科部長 小林真澄

赤ちゃんにとって母乳は素晴らしい栄養です。
それは世界共通で、WHO(世界保健機構)とユニセフでも、世界母乳育児週間を作り、母乳育児をすすめています。

特に衛生環境の悪い国々では、母乳が一番安全でしょう。
ただ母乳について正しい知識がないと、せっかくの素晴らしい母乳もデメリットになることがあります。

ここ数年、小児科の外来で「鉄欠乏性貧血」の子どもが増えてきました。
ほとんどが完全母乳のお子さんです。特に1才前後で保育園に入ってから、しょっちゅう熱を出すとか、一度熱が出るとなかなか下がらない、ということで検査に来られるお子さんに多いのです。

保育園に入園するとしばらくは、すぐ風邪などを引いて熱をだしたりするものですが、それにしても長引く場合に鉄欠乏性貧血がよくみられます。
そのようなお子さんは、完全母乳というだけでなく、離乳食が進んでいないケースがほとんどです。

小児科医になって30余年、今までも完全母乳の子どもはたくさんいたはずなのに、なぜ、最近になってこれほど貧血が増えてきたのか、色々理由はあると思いますが、どうも「赤ちゃんには母乳さえあげていれば大丈夫」というような、間違った情報がインターネットなどを介して広がっているのも一因ではないかと危惧しています。

赤ちゃんは1才近くなると胎内でもらった鉄が減ってきて、生理的に貧血気味になります。
特に完全母乳の場合、生後6ヶ月を過ぎると貧血のリスクが高くなることが知られています。

そのため欧米などでは、母乳だけの場合は生後4ヶ月頃から鉄剤を投与したり、離乳食に鉄分を強化するなどしています。
乳幼児期の鉄の不足は神経の発達に影響するというデータも出ています。
日本ではまだまだ、小児科医の中でもその意識が低いようです。

授乳中のお母さんは意識的にタンパク質、鉄分、カルシウム、ビタミンなど、バランスの良い食事を心がけて、赤ちゃんにはきちんと離乳食を進めていくことが大事です。

「欲しがる時に欲しがるだけ母乳をあげればよい」というようなことを言われますが、それは新生児から3か月くらいまでの話です。
赤ちゃんは3~4か月くらいになると、睡眠も含めて一日の生活リズムが作られ始めます。
お腹がすいた、いっぱいになったというリズムもできてきます。

そこで泣くたびに母乳をあげていると、いつもお腹が中途半端にいっぱいで、リズムができません。その結果、離乳食も進まなくなりがちです。
赤ちゃんはお腹がすいた時以外でも泣くわけですから、「泣いたらおっぱい」というのは赤ちゃんにとって、どうでしょうか?

少しずつ授乳の間隔をあけていって、月齢に応じた離乳食を進めて、最終的には1歳から1歳半くらいまでに、きちんと3回の食事が主食になるようにしましょう。

なかなか食べてくれないと母乳をやめることは難しいと感じると思うのですが、それは逆で、母乳をやめると、食事が進むことがほとんどです。

私個人的には、いつまでに母乳をやめなければいけない、ということは言いません。
人それぞれでいいとは思います。ただ、きちんと3回食が確立されることが前提です。

最近では鉄不足だけではなく、カルシウムやビタミンD不足からくる「くる病」も見られるようになりました。
くる病には日光を極端に避けようとする現代の生活も影響していて、適度に日を浴びる重要性が見直されています。

母乳は大事ですが、それだけでは赤ちゃんは育ちません。
体も脳もどんどん成長する乳幼児期、授乳中であればお母さんもしっかり栄養を摂って、そして赤ちゃんには「食べることは楽しいこと」というように覚えさせてほしいと思います。

何も手作りでなくて全然構わないと思います。
買ったものであっても、お母さんと(お父さんでももちろんいいですよ)、「おいしいね」と言って食べること、それが楽しい食事につながっていきます。

娘の友達がフェイスブックで楽しそうに「息子(2歳)の主食、おっぱい」と書いていたそうです。
もしそれが本当なら、お母さんにとっては何となくうれしいことかもしれませんが、子どもにとっては、決して良いことではないのです。

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