I am a HERO
ある日私の元に一人の男が訪れた。
その男は私に告げる。
「あなたには天賦の才がある」
あまりに唐突過ぎて、私にはさっぱりわからない。
キョトンとする私に彼はさらにこう述べる。
「あなたにぜひ伝説の秘技の伝承者になって欲しい」
コイツは何を言っているのだ。
天賦の才?伝説の秘技?
マンガの読みすぎだろ。
そう思った私が断ろうとした瞬間、私は彼の不思議な技によって、一瞬にして気絶させられてしまう。気がつけばそこは、まるで映画にでも出てくるかのような中国の寺のような場所。
「おいおい、なんだこれは、カンフー映画の撮影か」
そんなことを心の中で呟いていると、先程の男が現れる。
「マスター」と呼ばれるその男の元で、何人かの修行僧風の男たちが修行に勤しんでいるようだ。
そのマスターが私に告げる。
「お前には、伝説の秘技、〈双竜〉の使い手となれる素質がある」
聡明な読者であれば、すでにお気づきかもしれない。
これは私が見た夢の話である。
「なんだ、夢オチか」
そう思うのも仕方がない、なにせ夢の話なのだから。
とにかく話を続けよう。
そのマスターが言うには、〈双竜〉とは、完全なる呼吸法だという。
人間は普段、呼吸を片方の鼻の穴だけで行っている。その為、肉体の全ての能力を使いこなせていないらしい。
しかし〈双竜〉を体得すれば、肉体を覚醒させ、真の力を発揮できるとのことだ。
マジか。
いや、マジではない。これは夢の話なのだから。
しかし夢の中の私は気づかない。
さらにそのマスターが言うには、その双竜を使いこなすには、一つ条件がある。 それは「鼻の大きさ」だ。
鼻が大きい=My sonも大きい。
そんな都市伝説がある。
しかしこれは伝説にすぎない。
なぜなら私がそうではないからだ。
だが、マスターは言う。
〈双竜〉を使いこなせれば、Your sonもドラゴンになれる、と。
それを聞いた私は愚かにも修行に明け暮れることになる。
なにせ鼻の大きさには定評がある私だ。
マスターもそこに目をつけたらしい。
修行は主に顔の筋肉を動かすトレーニングであったり、水中で呼吸をいかに止めるかというものだったりした。
どれだけの期間修行したのかわからないが、私はついに〈双竜〉を会得した。
呼吸を調えると、私の両の鼻の穴から、驚くほどの呼気が溢れる。
大きく息を吸い込んで、それを鼻の穴から吐き出せば、二筋の風が吹き荒れる。
その風の力は、大の大人を軽々と吹き飛ばすほど。
この呼吸が〈双竜〉と呼ばれる所以だ。
さらにこの〈双竜〉を使うことで、水の中に入っても、身体が一切濡れることがない。
いや、正直これはなんの意味があるのか理解できなかったが、ものすごいことだけはわかる。
ただ、〈双竜〉の呼吸法によって、少し長く水の中にいれるが、水中で呼吸ができるわけではない。調子に乗った私はもう少しで夢の中で溺れるとことだった。
そんな〈双竜〉、肉体の力を100%発揮できるのとは別に、副産物もあった。
それは、異様に女性にモテるということだ。
食事に行けば必ず女性が寄ってくる。
そして私の隣に座るやいなやキス。
それをみた他の女性も、取られてなるものかと、さらにキス。
私の人生で初のモテ期である。 俗に言うモテてモテて困る、MMKである。
そんなことも経験しつつ、しかし私はこの力を何に使えばいいのか悩んだ。
この素晴らしい力を、何に使うのか。
そう言えば世間では「スリーパーセル」とかいうやつらがいる。
などと言っちゃう不届きな連中がいるらしい。そんなわけのわからん妄想にとらわれて世界に分断をもたらそうとする奴らをやっつける。そして世界に平和をもたらして、綾瀬はるかに「キャー素敵!」なんて言われちゃう。
それこそが、きっと私に与えられた使命に違いない。
そう感じた私は、いつもより勢い良く布団から飛び出した。
もちろん、私の呼吸は、いつものように片方の鼻の穴で行われていたのであった。
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