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クリームコロッケと深夜高速

通院の帰り道、必ず駅前のスーパーに寄る。

そこにはクリームコロッケがある。

なんの変哲もないよくあるクリームコロッケなのだけれど、わたしはいつも2つ入りのそれを買って、ひとつを駅のベンチで食べる。
もうひとつは、明日の朝の楽しみに。

気分が良ければノンアルコールのレモンサワーも一緒に飲む。少し前までは毎日のようにお酒を飲んでいたのに、薬を始めてから飲めなくなった。ノンアルは飲めば飲むほど身体が冷えていって、寂しくなって、聴いていたロックミュージックの音量を上げる。


通院を始めた頃は雪が降っていたのに、もう風は暖かくなって、次の季節がやってくる。

バスを待ちながら、大学に行けなくなった半年前のことを思い出す。



元から毎日通えるほど体力も精神力も無い学生だったが、それでも夏休みまでは2日続けて休むことは滅多になかった。

秋に入った頃、教室に入ろうとしたら呼吸が苦しくなって、手先が冷えてきて、だめだ、と思った。頭だけは冷静で、殆ど通えなかった高校時代のことがフラッシュバックした。

また、戻ってしまった。



それからは、休む連絡をするたびに、心の中で安心するわたしと、いろんな人への罪悪感に苦しむわたしが現れるようになった。苦労して大学に入った過去の自分と、学費を出してくれている親と、教授と、授業で同じグループの人と、他にもたくさん。謝って欲しいわけではないだろうが、謝罪の気持ちと自分への苛立ちが溢れ出して腕に傷を作る。

少し経つと、今度は出席の代替課題の山に苦しみだす。ご飯を食べることすら一苦労なのに課題なんてできるわけがなく、だんだん欠席メールも送らなくなって、今期は単位をほとんど落とした。当たり前なのに、成績を見てまた自分を嫌いになる。

わたしはこの半年間、何をしていたんだろう。


家にいて、時間が過ぎるのを待っていただけで何もできなかった。何度も変わろうとしたのに、何も変われなかった。知らなくていい長い薬の名前をいくつか言えるようになったことを変化と呼ぶのなら、変わったのかもしれないけれど。



バスが来る。
食べかけのコロッケをカバンにしまって、急いで乗り込む。

1番後ろのいつもの席に座ると、フラワーカンパニーズの「深夜高速」がちょうどサビに入ったところだった。

「生きててよかった そんな夜を探してる」

そんな夜を探しているのだ。わたしも。



いつかこのクリームコロッケを買わなくてよくなる日が来るんだろうか。
五パーセントのレモンサワーを、迷わずに手に取れる日が来るんだろうか。
大学に、また通える日が来るんだろうか。

全部全部、今考えても無駄なのだけれど。


夜に向かって走るバスの中で、今までの人生で何千回と聴いてきた歌詞を心で叫んだ。

「生きててよかった そんな夜はどこだ 」

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