THE BACK HORNという灯火の話

「音楽が好きです」と自己紹介がてら話すと、
決まって「誰が好きなの?」と尋ねられる。
THE BACK HORNである。
生涯殿堂入り不動のナンバーワンバンドである。

1998年結成、2001年「サニー」でメジャーデビュー。
2023年に25周年を迎えた大御所的存在にして、熱く瑞々しい楽曲を今も世に放ち続けている。

片田舎で小説を読み漁っていた中学生の私が宝物のように読み返していた、乙一という作者の短編集「ZOO」。
作品が実写映画化されていると知り、予告編を見ようと検索すると「奇跡」と言う主題歌のMVがYouTubeにアップされていた。
暗闇を走る一台の車の映像から、断片的に差し込まれる乙一の世界。鋭くきらめくギターのイントロに重なるベースとドラムの重低音。
長髪で気だるげに、どこか獣のような目つきで歌うボーカル。

「歌いよる人えらいイケメンだな...」
蝉の合唱に自室で汗を流す夏の午後、その先何度も魂を救われるTHE BACK HORNとの出会いだった。
たまらない衝撃に動画を見せた母親の第一声は
「この人、えらい口大きく開けて歌わすねえ」。

凍てつくような触れがたい空気を纏うこのバンドが訛り全開のほんわかMCをする人々と知るまでに、さほど時間はかからなかった。

寝る間も惜しみ音源を聴き尽くし、ツアーのチケットを申し込み、地元のタワレコで手形ならぬ"足形"を押して握手をしてくれるという謎イベントにボーカル山田さんとギター菅波さんが訪れる頃には1年近くの月日が流れていた。

「受験で行けないんですが、、武道館応援してます!」
「おう!ありがとう、がんばれ」
私の中の菅波栄純記念日となった。
緊張であれほど口の中が乾いた日は生涯一度きりに違いない。

受験に向かう道すがら、車の中でおまじないのように聴いた「コバルトブルー」。
THE BACK HORNをこの世に生み出した
バンドの生命線とも言って支障ないギタリスト・菅波栄純が、知覧の特攻平和記念館で受けた衝撃を曲にした唯一無二のメロディが、不安に胸にした私を奮い立たせた。

音楽好きの友人と語り合った高校生活は足早に過ぎ、大学に受かり意気揚々と上京の準備をする最中に3.11が起こり、東北にルーツを持つTHE BACK HORNが急遽リリースした「世界中に花束を」は、
悲しみに溢れた人々の心を優しく、その体温で包み込んだ。

夢の東京暮らしにも慣れ、
憧れのライブハウスに足を運び、
武道館や野音のステージを見つめる視界の先に立つ、
出会った頃と変わらず情熱と柔らかな旋律を奏で歌い続けるTHE BACK HORNの姿に胸を震わせた。

社会人になり、仕事の楽しさとその何倍もの苦しさで音楽を聴くことさえも辛くなっていた時期、ふと聞き返した「初めての呼吸で」に嗚咽を漏らしながら夜を超えた。

喉の不調に苛まれたボーカルの休養を経て、歌い方や表現を変えても、お互いとその音楽に敬意と信念を持ち、ありのままの姿を届けようとするバンドは昨年25周年を迎えた。
改めて心の底から、おめでとうございます。

時を同じくしてファンとなり一緒にツアーに通った母は、今や地元のライブハウスに1人で足を運び感想を送り合う同志となった。
(遥々遠征に送り出してくれていた父も、学生の私のライブハウス通いを止めないでくれた良き理解者である)

今までもこれからも、
誰かの灯火になる楽曲たちを生み出すこのバンドを、世界のほんの片隅の、一番近い場所でそっと眺めていたいと思う。

THE BACK HORN、私の人生に存在してくれてありがとう。
また生きて会いに行きます。

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