shiwasu

引っ越しをきっかけに文章を書く衝動に駆られた人。 北海道から気ままに日々を綴ります。

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最近の記事

ちゃぶ台の上から#6

春が眠い目をこすりながらもぞもぞと起きて来た。 庭先に積み上げた雪もあっという間に溶け、去年の秋口に僕の母が勝手に植えた「ナントカ」の球根も濡れた土から芽を出している。 去年の夏の終わりに引っ越したので、この新居で迎える最初の春だ。 この家は窓を開けるとよく風が通る。角地に面しているため、遮るものが少ないからだろう。 天気が良いので、今年に入って初めて窓を開けて、生ぬるい風が家の中に入り込んでくる感覚を味わった。 出窓に置いた植物達も少しずつ新しい葉を出し始めている。

    • 暇にて#1

      僕のバディを語りたい。 僕にはバディがいる。もちろん仕事のだ。 年齢はもう70歳を過ぎている。 少し猫背で分かりにくいものの、身長は180センチを超え、体格もがっしりしていて、白髪で、いつもオールバック。 ギョロッとした大きな目で、ギロリといつも眼光を光らせている。 イメージするなら金剛力士像なんかを思い浮かべてもらえるといいと思う。 性格も荒いし、口も悪い。昔話も同じストーリーをもう何回聞いたかわからない。 現代の最前線で活躍する人達が、淘汰しようとしているものがそっく

      • 僕たちは日々と踊る#3

        気がつくと、夜が更けてしまった。 もちろん酒の勢いもあっただろうが、文字通り泣いたり、笑ったりしている間に目論んでいた解散の時刻はとうに過ぎていた。 同じレールの上を、おそらく同じスピードで走っていた仲間達がそれぞれの道を自分で選んで、バラバラになった。 いや、元からバラバラだったのかもしれないし、たまたまタイミングが長く重なっただけなのかもしれないが。 でもこうして、途中で下車して、同じ駅のホームで言葉をいくつか交わして、またそれぞれ別の列車に乗り込んでいく。 例え

        • 僕たちは日々と踊る#2

          案の定、友人達は定刻には間に合わなかった。 そしてなんの前触れもなく現れて、悪びれもせずドカドカと部屋に上がり込み、ジロジロと部屋を見回す。とりあえずと言わんばかりに「いい部屋だ」と褒めてくれたりもした。 酷くデリカシーのない連中と思われるかもしれないが、そんなことはない。 ここではそう、というだけで、なんなら僕たちの間でも、最低限のマナーと距離感を間違えない信頼のおける友人達だ。 気は使わない。代わりにお前も気を使うな。と言われているような気分になる。 おそらく友人達はそ

        ちゃぶ台の上から#6

          僕たちは日々と踊る#1

          友人たちを集めて、一杯やろう。 そんな気分になった。 中学、高校を共に過ごした腐れ縁とも言うべき友人たちをだ。 僕ももう"いい年齢"と言って差し支えない歳になったわけだから、同級生たちも世帯を構え、家族がいる者がほとんどだ。 さらに言えば、それがうまくいかず離婚を経験したりする者も少なからず出てきた。 働く場所や時間もみんなバラバラ。 そうなれば会おうと思っていてもなかなか出来なくなる。 社会とやらに出てしまえば、会えるのは盆や正月だけになり、いつしかそれも徐々に難しくなっ

          僕たちは日々と踊る#1

          灯りを見つめて#3

          よく晴れた休日だった。 雪も降らず、どうやら一日中晴れるとの予報だ。 屋根の雪下ろしをしなければならなかったので、寝癖も直さず防寒具を着込めるだけ着込んで外へ出た。 キンと張り詰めた朝の冷えた空気を吸う。 積もった雪も朝日に照らされてキラキラと光っていた。 徐々に眠気が覚めていくのを感じながら、道具を準備する。 梯子を屋根にかけ、上まで登り、屋根に乗っかっている雪をスコップですくい、落としていく。 これをしなければ雪の重さで家が傷んでしまうらしい。賃貸とはいえ、短くても数

          灯りを見つめて#3

          灯りを見つめて#2

          髪を切った。 2ヶ月ぶりだ。前髪は鼻先まで伸び、整髪料を付けても思うように動いてくれなくなる。 ここ数年はもっぱら床屋に行くことが多い。 顔剃りもしてくれるし、何よりそこの店の雰囲気が好きなのだ。 店主は僕より少し年上くらいだろうか。 落ち着いた口調ではあるが、茶目っ気があって、会話の端々にユーモアが折混ざる。 話をしながらも、仕事はきっちりこなしてくれる。 伸び切った僕の髪が手際良く、クリッパーと鋏で刈り取られていく様を眺めるのは、なんだか気持ちがいい。 今年、髪を切

          灯りを見つめて#2

          灯りを見つめて#1

          夜が長くなった。 夕方の4時にはもうすっかり日が暮れるし、朝も6時を過ぎるまで明るくならない。 最近は休日でも早めに起きることが多くなったので、夜がだんだんと明けていく様をゆっくり眺めることができる。 暗い時間が増えることで暖房や照明をつけている時間も長くなった。 少し前から寝室の近くにポータブルの石油ストーブを導入した。火力が強く、短い時間でよく温まるけれど、燃費が悪いところが悩ましくも可愛らしい。 得手と不得手がちゃんとあって、折り合いがつくようにあれこれ考えを巡らせ

          灯りを見つめて#1

          ちゃぶ台の上から#5

          話したいことがある。 割とたくさんある気がしている。 けれど文字に起こすとなんだか違う気がして、消しては書き、書いては消して。 そんな風に文章を作っている。 仕事の合間やソファでくつろいでる時に、文脈を思いつくのだが、あっという間にそれは泡のようにどこかにパチンと弾け飛んで、そのまま帰ってこない。 この瞬間を写真のように切り取って保存できたらとも思うが、それもまた無粋な気がして、メモなどに残すこともできない。 思いついたことを、今、そのまま、ありのままに書いて楽しめたらそ

          ちゃぶ台の上から#5

          ちゃぶ台の上から#4

          白髪が増えた。 そりゃあ、そうだ。 もうすぐ35歳になるわけだから。 分かっていても案外ショックなもので。 若作りを意識しているつもりはないが、せめて気持ちくらいはフレッシュにいたいし、見た目も少しは格好良くしたい気持ちもある。 それでもやはり歳を追うごとに、少しずつ、何かが変わっている。 諸先輩方が口を揃えて言っていた、脂っこいものが食べられなくなったとか、今は肉より魚を食べることが多いだとか、そういう変化もしっかり自分の身に起きている。 焼肉屋に入ってメニューを見ても

          ちゃぶ台の上から#4

          ちゃぶ台の上から#3

          冬が来る。 初雪からそのまま2、3日降り続き、雪はあっという間に町を白く塗りつぶしたけれど、その後の暖気でさっぱり解けてしまった。 それでも地面の熱は少しずつ奪われ、きっと次に降る雪は解けずに積もり続けるだろう。 北海道ではそれを“根雪(ねゆき)”と呼ぶが、良い表現だと思っている。文字通り雪が地面に根を張り、春が来るまで居座り続けるのだ。 北海道に生まれ育って、34年。 その歳の分だけ冬を越してきたことになる。 飽きるには事足りる回数だとも思うし、実際に辟易しているところも

          ちゃぶ台の上から#3

          ちゃぶ台の上から#2

          ちゃぶ台を手に入れた。 引っ越しをして、荷物が少し片付くと、どことなく物足りなさを感じた。 そして、その正体をテーブルが足りないからではないかと決めつけた。 試しにテーブルをインターネットで検索していたが、ふと思い出した。 実家に使われていないちゃぶ台があったな、と。 リビングには元々使っているテーブルがあるし、和室に置くにはおあつらえ向きではないだろうか。 良いじゃないか、週末にでも実家に行ってみよう。 仕事をしていると、割とあっという間に平日が過ぎていく。多忙という

          ちゃぶ台の上から#2

          ちゃぶ台の上から#1

          引っ越しをした。 前に住んでいたアパートから車で5分ほどの近場だ。 木造平屋の小さな一軒家。 職場も境遇も変わらず、何かを変えたいと思うこともなく、いや、少しはあったのかもしれないけれど。 強いて言えば周囲に気を使わずに、気ままに生活したいと思ったくらいなもので。 新居での生活も2ヶ月ほどが経ち、ある程度落ち着いたところでこの文章を書いている。 前のアパートには10年住んだ。 居心地の良い部屋だったし、光熱費なんかも安く押さえられる物件だった。 けれど長く住むとモノも

          ちゃぶ台の上から#1