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憧れの「一人帰り」

 最近、娘は週1回だけ、憧れの「一人帰り」を始めた。バレエ教室の同じクラスに通う友達が学童クラブに3人いるので、バレエのある日だけ、歩いて約5分の教室まで4人で行くことになったのだ。

 学童の連絡帳には「一人帰り」という欄があって、お迎えがない場合は一人で学童を出る時間を前もって書き入れる。娘は「『一人帰り』って書いた? 書いた?」とうれしそうだ。友達のみくちゃんは入学当初から夕方6時に一人帰りをしていたので、うらやましかったのだ。

 親たちは少々心配だったが、4人は喜び勇んで学童を出ていったそうだ。娘は興奮と緊張のためか途中で転び、両ひざから流血の騒ぎとなったという。お友達がランドセルを持ってくれ、バレエの先生がばんそうこうを貼ってくれたそう。記念すべき「一人帰り」となった。

 これまで習い事をする際にネックだったのは送り迎えだった。午後4時半に保育園(学童)からバレエ教室に連れていき、午後6時に迎えに行かなければならない。結局、電車で40分ほどの所に住む私の父が出動してくれていた(レッスンの間は私の家で待っている)。

 でも、両親は娘が誕生したころから相次いで病気を抱えている。父はパーキンソン病、母はがん。父のパーキンソン病は、今は小康状態だけれど、学童からバレエ教室まで子どもだけで行き、帰りは私が少し会社を早く出るなどして何とかすれば、父の負担をなくせるのではないかと考えた。

 ところが、がっかりしたのは父と娘だった。2人はとても仲がいいのだ。娘は一人帰りもしたいけど、じーじに迎えにも来てもらいたい(ついでに何か買ってもらいたい)。じーじも娘に会いたい。というわけで、行きは子どもだけ、迎えはこれまで通りじーじに来てもらう、というあまり意味のない形になった。

2009年7月19日

【追記】

 父は2018年、母は2020年に亡くなった。

 父にとって、私の娘を迎えに行くのはとても幸せな時間だったと思う。

☆2009年から2012年まで子ども向けの新聞につづった連載を改編したものです。

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