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「良いデザイン」は人間の購買意欲を高める事が実証されていた話

ビジネスにおけるデザインの有効性を証明するのは難しいですが、いわゆる「審美性(人間が美しいと感じる事)」が消費者マインドにどのような影響を及ぼすのかを研究した興味深い論文がありましたので、そのダイジェストをご紹介します。

参考論文:審美性知覚と消費者行動の接点

商品パッケージ比率が黄金比に近づくほど、購買意欲は高まる

デザインにおける黄金比(1:1.62)の縦横比を持つ商品パッケージは、購買意欲にプラスの影響をもたらす事が明らかになっているそうです。

”正方形と長方形(縦横比 1:1.38 と, 黄金比である 1:1.62 の 2 種類)の CD ケースを用いて, それらに対する購入意向と選好について調査が行われた。 その結果,正方形よりも長方形のほうが,そして縦横比 1:1.38 より 1:1.62 の長方形のほうが購入意向,選好ともに高いことが示されている。
”さらに彼女らは,パッケージの寸法比率と市場シェア の関係についても論じている。分析においては,スーパーマーケット等で消費者が一般的に購入し,かつ立方体ないし直方体のパッケージに包装された消費財の中から, 消費者にとって重要度の高いカテゴリーとして石鹸と洗剤,重要度の低いカテゴリーとしてシリアルとクッキーのパッケージが選出された。それぞれのパッケージの寸法を測定し,市場シェアとの関係を分析した結果,パッケージの縦横比が黄金比に近いほど,当該製品の市場シェアが高い傾向が確認された。

黄金比は「人間が最も美しいと感じる比率」であると言われていますが、それが直接的に売上に貢献しているかどうかまで検証する機会は、そうないでしょう。本実験結果は非常に興味深いものです。

「青色」は購買行動のポジティブな反応を引き起こす

青を基調にした商品または空間でも、購買意欲にプラスの影響をもたらす事が明らかになっているそうです。

”色相の観点では,文化や国にかかわらず,大半の人は青を好む。こうした青に対する半ば普遍的な選好形成には人の進化過程における環境適応や生存本能が深く関係しているという。”
店舗の内装が青の場合,赤の場合に比べて小 売店の利用意向や製品の購入意向が有意に高いことが確認された。また,こうしたショッピング行動に対する青の効果は,青色が消費者にもたらすポジティブな感情反 応と関連していることも示された。”

かつてGoogleが検索結果のCTRを最大かするために検証を重ねた結果、最終的にリンク色を青色に決定したという歴史もあります。青色は私たちの行動を促す効果が高いのかもしれません。

「赤色」は待ち時間を実際より長く感じさせる

赤色には人の注意を引きつける効用がありますが、それが裏目に転じる場合もあるようです。

"不動産企業のウェブページのダウンロード画面の背景色を色相,彩度,明度の次元で操作した実験を行い,色の心理的覚醒および鎮静効果が,ダウンロード時間の知覚に与える影響を検証した。その結果,色は3つの次元すべてにおいてウェブページのダウンロード時間の知覚に影響を与えており,いずれの次元でも,心理的鎮静を促す色がそうでない色よりも主観的な待ち時間を縮めることが確認された。すなわち,色相では黄色や赤に比べて青が,彩度の次元ではそれが低いほど,また明度の次元ではそれが高いほど,知覚される待ち時間が短くなることが示された。"

刺激的な色には覚醒効果があるぶん、ダウンロードの待ち時間など何もできない状況においては苛立ちを産んでしまうかもしれません。確かに真っ赤な背景のローディング画面が会ったら、全く落ち着かなそうです。

色の持つ視覚的効果が多岐にわたる事は、すでに多くの研究で実証されています。それぞれの色には得手不得手があり、デザインにより何を成し遂げたいのかで色の選択は変わってくるでしょう。

曲線は直線よりも購買意欲を高める

多くの心理学的研究から、人は直線よりも曲線で構成された形状を好む事が示されているそうです。

"チョコレートのパッケージ形状(立方体もしくは角が丸い立方体)とパッケージに表示されるロゴの形状(直線的もしくは曲線的)を操作した実験1では,パッケージとロゴのいずれにおいても消費者は曲線的なデザインをより美しく感じること,また購入意向も曲線的条件のほうが直線的条件よりも高いことが示された。"

曲線的なフォルムというと、iPhoneやMacなどのApple製品が思い浮かばれます。スティーブ・ジョブズはプロダクト開発の際に曲線的なデザインを極めて重視していたことでも有名ですが、直感的に曲線の持つ力に気づいていたのかもしれません。

しかし一方で、直線が好まれる状況もあるようです。

"30の生活用品や家電(テーブルランプ,キャンドル,ティーポットなど)の製品カテゴリーを対象とした調査を行い,消費者は情緒性が高いと判断する製品については直線的なデザインよりも曲線的なデザインを好むのに対し,機能性が高いと判断する製品については,曲線的なデザインよりも直線的なデザインを好む傾向が見られることを報告している。"

消費者が求めるものによって、求められる形状もまた変わるということですね。

中央に配置された商品は選択される可能性が高い

位置という概念も、デザインにおいては非常に重要です。

"一般人と芸術専門家の区分にかかわらず,また創作に用いられたデザイン要素の種類にかかわらず,創作物の中心バランスは画面の中心とほぼ一致することが確認された。こうした一連の研究では,対象の空間配置において,人は空間の中心に対象を置くことを好むこと,またそうしたセンター配置を美しいと感じることが示されている。"
"いずれの製品においても,ブランドの種類に関係なく,中央列に配置されたブランドが左右列に配置されたそれよりも有意に高い確率で選択されることが示された。また,アイトラッキングデータの分析から,消費者は中央列のブランドをその他の位置のブランドに比べて有意に長く注視すること,また,中央列のブランド配置が消費者のブランド選択に与える影響は,そのブランドに対する視覚的注意(visual attention)の持続時間によって媒介されることが確認された。"

空間デザインにおいては、さらに上下の位置関係も人の意識に影響を及ぼします。

"対象を平面空間に配置する際,下側配置が上側配置よりも対象について重量感の印象を高めるという現象に注目し,製品パッケージにおける画像配置が消費者の製品評価に与える影響を検証している。この研究の実験3では,通常タイプと健康タイプという2つの製品特徴を設定した上で,同一のクッキー画像をパッケージの上側もしくは下側に配置した刺激を被験者に提示し,パッケージの印象評価を求めた。その結果,通常タイプのクッキーでは,画像を下側に配置したほうがその反対よりもパッケージの評価が高い一方,健康タイプのクッキーでは,画像を上側に配置したほうが,その反対よりもパッケージの評価が高いことが確認された。"

商品の特性により上が良いのか下が良いのかも変わるようです。この点は逐一検証していくのが正しいでしょう。

良いデザインとは何か

これまで見てきたように、デザインは人の意識や購買行動に大きな影響を与えている事が明らかになってきています。しかし「良いデザイン」とは「売れるデザイン」なのか言うと、それはちょっと違うのではないかとも思います。

「良いデザイン」とは「課題解決のデザイン」であると僕は思っていて、売り上げを伸ばす、ブランドの物語性を演出する、機能をわかりやすく訴求する等、様々な目的に応じてその表現方法を変えていくべきでしょう。

とはいえ、美しいデザインがビジネスにプラスの効果があるという事実は、勇気の出る話ですね。自信を持って美しいデザインを追求する事ができそうです。

この記事を書いたひと

マネーフォワードという会社でWEBマーケターをやっています。SEO、LPO、ログ解析まわりが得意です。UI/UXもがんばります。

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