漫画村のアクセスブロック(H30犯罪対策閣僚会議)

概要

昨今の社会問題の一つに取り上げられ、2018年4月に接続がついに断ち切られた海賊版サイト「漫画村」。その運営者が、7月7日、フィリピン入国管理局に拘束された。日本へ強制送還され次第、著作権法違反の疑いで逮捕される予定。続く10日、漫画村運営に関わっていた東京都内在住の男女2人が著作権法違反容疑で逮捕された、と言う。
この2018年4月と言うのは、犯罪対策閣僚会議が本件に対して緊急対策を発表した月である。『インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策』として発表された。運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできない海賊版サイトとして「漫画村」、「Anitube」、「Miomio」の3つのサイトを名指ししつつ、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組の中で、同3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが妥当と結論付けたものだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/kettei/180413/kaizokuban_1.pdf

インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策

同報告書においてはブロッキングの正当性が検証されている。ちなみに、その際に安心ネットづくり促進協議会 児童ポルノ対策作業部会「法的問題検討サブワーキング報告書」も引き合いに出されている。 https://note.mu/shizulca/n/n93105f37e24d

この報告書に比べると今回の報告書は枚数が少なく非常にコンパクトであるが、ロジックは同様であり、

① 著作権者等の正当な利益を明白に侵害するコンテンツが相当数アップロードされた状況において
② 削除や検挙など他の方法ではその権利を実質的に保護することができず
③ その手法及び運用が通信の秘密を必要以上に侵害するものではなく、
④ 当該サイトによる著作権者等の権利への侵害が極めて著しいなどの事情に照らし、
緊急避難(刑法第37条)の要件を満たす場合には、違法性が阻却されるものと考えられる

としている。

具体的には

ⅰ)現在の危難:
- 「特に悪質な海賊版サイト」に関しては、「現在の危難」は現実として存在すると言える。
- 月間で数千万人~1億人を超える訪問者が存在し、そのほとんどが日本からのアクセスとなっているような特に悪質な海賊版サイトであれば、被害額は、総額数百億円~数千億円に上ると推計されこのような場合は、著作権という財産の侵害行為が確実かつ深刻な程度で存在すると言える。
ⅱ)補充性:
- 補充性(やむを得ずにした行為)とは、当該避難行為をする以外には他に方法がなく、かかる行為に出ることが条理上肯定し得る場合を言う(最高裁大法廷昭和 24 年 5 月 18 日判決・刑集 3 巻 6 号 772 頁)。
- この点、権利者が、①特に悪質な海賊版サイト運営者への削除要請、②検索結果からの表示削除要請、③サーバー管理者・レジストラへの削除要請・閉鎖要請、④インターネット広告の出稿停止要請、⑤特に悪質な海賊版サイトへの訴訟・告訴の対応等、考えられるあらゆる対策を取ったものの、当該サイト運営者側が、侵害サイトの匿名運営を可能とするサービスを利用する事等によって運営者の特定が実質的に困難なケースなどのように、いずれの対策も実質的な効果が得られない場合には、著作権者等が、これら特に悪質な海賊版サイトから、自身の権利を保護するためには、現状ブロッキング以外の手法は存在し
ないと考える余地がある。
ⅲ)法益権衡:
- 法益権衡とは、保護法益と被侵害法益を比較し、「前者が後者を越えない」ことを意味する(大谷實「刑法講義総論」新版第 4 版 300 頁)。
- 特に悪質な海賊版サイトに関するブロッキングの場合、保護法益は著作権であり、被侵害法益としては通信の秘密、サイト運営者の表現の自由及びユーザーの知る権利等の可能性が考えられる。
- この点、2010 年における児童ポルノのブロッキングの議論においては、関連する論点として、著作権を保護法益とするブロッキングにつき、以下のような整理がなされている。
(略)
上記見解ほど限定的に捉えるべきかは差し置くとしても、法益権衡の判断については「具体的事例に応じて社会通念に従い法益の優劣を決すべきである」(前掲大谷 300 頁)などとされるのが一般である。この点、上記 2010 年における議論は、昨今のように大量の著作物を無料公開し、現行法での対応が困難な特に悪質な海賊版サイトが出現する前の状況を前提としたものであり、現在の状況とは異なる点に留意が必要である。昨今では、侵害サイトの匿名運営を可能とするサービスを利用する事等によって運営者の特定が実質的に困難な中で訴訟による被害回復が実質困難な状況も生じているところ、「財産権であることをもってすなわち回復可能」と断じるのではなく、こうした特に悪質な海賊版サイトに係る状況を勘案した上で、事例に即した具体的な検討が求められる。その際には、保護されるべき著作物が公開されることによりどの程度回復困難な損害を生じ得るかという観点などから検討が行われるべきものと考えられる。


最高裁大法廷昭和 24 年 5 月 18 日判決

さて、この報告書で参照されている同判決は、緊急避難の定義づけを行った判例で、

(判決文)
そもそも緊急避難とは「自己又ハ他人ノ生命身体自由若クハ財産ニ対スル現在ノ危難ヲ避クル為メ已ムコトヲ得ザルニ出デタル行為」をいうのであり、右所謂「現在ノ危難」とは現に危難の切迫していることを意味し、又「已ムコトヲ得ザルニ出デタル」というのは当該避難行為をする以外には他に方法がなく、かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味するのである。又自救行為とは一定の権利を有するものが、これを保全するため官憲の手を待つに遑なく自ら直ちに必要の限度において適当なる行為をすること、例えば盗犯の現場において被害者が賍物を取還すが如きをいうのである。

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