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スマホで田んぼの水管理「paditch」下村豪徳さん(笑農和)インタビュー

下村豪徳さんは、スマート水門パディッチと言う農業機械を開発した。
スマホで田んぼの入水を管理できるツールだ。
エンジニア出身でソフトウェアが領域だが、現場のイシューは「水管理」だと見込んで、ものづくりへと着手した。

田んぼの水管理は、日陰な存在。
花形はトラコンタ(トラクター、コンバイン、田植え機)が颯爽と田んぼを舞う工程だが、その工程で品質の差別化は案外難しい。
美味しいお米の鍵を握るのは、水であり、その水を制するものは、お米づくりを制する。
そして、水管理は、時間がかかる。
かつて、農作業にかかる水管理がどれだけ負担なのかを研究しようとし、最後まで追いきれなかったことがある。農家は、Aの田んぼに入水する→水がたまる→水を止める→さあBの田んぼ...と言う作業をしない。
Aの田んぼに入水する→(Aの田んぼは概ね30分でたまると見込んで)その場を離れBの田んぼへ→Bの田んぼ入水→Cの田んぼ→Dの田んぼ→その後Aの田んぼへ行き、水がたまっていることを確認したら水を止める→Bの田んぼは水が溜まりにくいので先にCの田んぼへ水止めに行く...と言ったイレギュラーな作業をしている。まるまる水管理する時間でないことも多く、
Aの田んぼの畦草刈りに行くけど、その行きしなBとCの田んぼの水を見てから行く
なんてことを毎日のようにやっているもんだから、研究としては境界のあやふやなケースが多すぎてなんともまとまらなかった。
また、水管理は水取り合戦だったりもして、こちらがセギと言う止め板をはめて田んぼに入水し、別の田んぼに行っている間に下の田んぼの農家がウチのセギを抜いて自分の田んぼへ水を入れたりする。30分で水がたまる算段で戻ったら、思いのほかたまっておらず、見たらセギが一枚抜かれていた、と言うのは、日常ごとなので、水管理にかかる時間がさらにオンされるわけだ。
時間がかかる水管理というイシューを解決するべく、開発されたのがスマート水門paditch(パディッチ)だ。

パディッチがこの世に出てから、水管理ツールの開発は進んだ。
同じようにスマホで入水を管理できるもの、アナログなしつらえで入水するもの、状態をスマホで見えるようにするもの、多くの競合が参入することを、下村豪徳さんは歓迎するという。「それだけ業者が入ってくると言うことは、ニーズがある証。それに、競合が増えれば注目が集まる」

株式会社 笑農和は、とことん生産現場に寄り添う。
近年はカスタマーサポートに力を入れている。水管理の方針をヒアリングし、生育ステージと水管理を見比べ、異常値が発生したら生産者に連絡をしているのだとか。
「農家さんだけでなく、一緒に水管理をするようなカンジ」
種もみの伊東くんがそれを受け、「将来、スマート水門の会社が水管理をする未来もあったりするんですかね」と聞き
「それが良いか悪いかは置いておき、ありうる未来だと思う。担い手に田んぼが集約していき、一人が500枚の田んぼを管理する時代がくることは想定しておかなければいけない。田んぼをしながら水管理をしながら、適期適期に作業を、と言うのはとても難しい。」と、未来予想図を展開した。

スマート水門paditch(パディッチ)のもう一つの特徴は、スマホで記録が蓄積される点だ。水位がどの時点で水を入れ、生育ステージにあわせどう工夫しているかを、「見える化」しようとしている。
見える化をすることで、技術の伝承がスムーズになる、改善と検証を繰り返すことができると言った良さがある。
事業承継であるあるなのが、”先代が急な不幸で、急遽承継することになったが、かつてどのように営農していたか、全然わからーん”というもの。アナログでもデジタルでも、記録は取っていない農家も少なくなく、承継してもお手本がなく1からの再スタートになってしまう。営農こよみで地域としてどの時期に何をするのがベターなのかは示されているが、田んぼごとのクセ、試行錯誤を繰り返された先人の工夫は途切れてしまう。パディッチは、機械がデータをとり蓄積するので、記録をとる手間も省くことができる。
また、カイゼンにはデータは役立つ。品質向上や多収という目標に向かって、現状のやり方をどうすればなお良くなるか検討し、実践し、検証するためにも、感覚値を実データにする必要がある。それを繰り返すことで、ベテランのカンコツというものが生まれていくのだ。

DXだ、デジタルドリブンだという言葉が定義とは別にワイワイやっていたりするけど、現状、農業に置いてデータの活用方法は、「技術伝承のきっかけ」なんじゃないかと思っている。
田んぼがこうだったよ、という状態のデータ
ここをこう作業したよ、という作業実績データ
その二つが合わさることで、
「田んぼがこうだったからこうしたよ(AなのでBをした)」が見て取れる。

親子間では
「田植えのやり方と勘所を全部教えて欲しい」と言っても
「そんなこと1から10まで教えておれっかいや」と突っぱねられる。
データは、リテラシをつけることで、「ははーん、こういう時はこうすれば良いのか」を教えてくれる。

ビッグデータをだなぁ、いろんなプラットフォームから取り出してだなぁ、AIが〜というような話は、別の役割の専門家たちが取り組んでくれると良くて、データを扱う人間みんなが、球技大会のように一つのボールに集まっているのは「あるべき姿」ではない。

下村豪徳さんは現場主義だが、未来志向だ。
単に水管理を楽にするだけでなく、スマホを使ってデータ蓄積も行う一足飛びな発想でパディッチを生み出した。
そこには「現場改善とテックを組み合わせ、いち早い産業成長を手助けしたい」というロマンを感じる。その運動に呼応し多くのメーカーが参入し、ムーブメントが起きようとしている。これから競争は激しくなる中、リードオフマンがどう戦っていくか、注目していきたい。

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72 下村豪徳さん(笑農和)がゲスト。スマート水門パディッチと米づくり
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