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『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』刊行記念 岸田奈美トークライブ&サイン会<イベントレポ>

2020年12月2日(水)19:30~21:30、岸田奈美さんによる講座「『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』刊行記念 岸田奈美トークライブ&サイン会」が開催されました。

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『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、岸田さんが家族との笑えて泣けるエピソードを綴ったエッセイ集。今回のイベントは、岸田さんが同書の製作や読者からの反応を通して感じたことについてのトークライブとサイン会という二本立て構成で開催されました。

まずはトークライブから。
「今日ここまでで既に3つほどやらかしているんですけど……」と、軽快に話し出した岸田さん。「やらかし」のひとつだった「台本を楽屋に忘れる」というハプニングなどまるでなかったかのように、執筆の裏側について次から次へとエピソードを語ってくれました。

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ここでは、その中でも特に印象的だった本のデザインのお話をご紹介します。

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岸田さん(以下、岸田):
この本、ページ番号のフォントを弟に書いてもらっているんです。「うちの弟、障害があるから字が書けないんですけど、大丈夫ですか?」とブックデザイナーの祖父江慎さんに伝えたら、「全然大丈夫。書けると思うから頑張ろうよ」って言われて。出来るか心配していたんですけど、弟に伝えたら「しゃあないなあ」って言って本当に「0」から「9」まで書いてくれたんです。それを祖父江さんに送ったら、今度は「オッケーオッケー、じゃあこれで4パターン書いてよ!」って言われて、また弟に書いてもらって送ったんです。そしたら、「77」とか同じ数字が並んでいる箇所も一個一個違うパターンの番号を手で貼ってくれて。作ってくれた祖父江さんの事務所の方はめちゃくちゃ大変だったろうなって思うんですけど、そうやって弟を参加させてくれたのはすごいことだなあと思ってます。

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あと、表紙のイラストはね、私が描いたんです。私、これまでちゃんとした絵を描いたことなかったんですよ。トナカイとかコアラを描いてTwitterにあげたら、リプライで「狂気」とか「夢に出てくる」とかしか言われなくて。「そんなんやったらもう描かへん」って思ってたんですけど、今回「描いて」って言われて。「え、私絵をまともに描いたことないんですけど大丈夫ですか」って言ったら、「うん、大丈夫です。僕が教えまーす」って言われたんですよ。で、実際に描いて、スキャンして、祖父江さんの事務所に送るじゃないですか。そしたら祖父江さんが直筆で「靴履かせましょう」とか「ここのラインはもうちょっとふわっとやるとすっごくいいと思います」とかって書いて返してくれて。そんな感じで2か月、めっちゃ絵の特訓したんですよ。オンラインで文通みたいなやりとりをして。実際、祖父江さんのアドバイスのとおりにしていったら、ほんとによくなったんです。

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で、2か月経って。ほんとはね、表紙だけじゃなくて扉絵なんかも入れて40点くらいイラストを描く予定だったんですよ。私としては祖父江さんの特訓もあって「これは描ける!」と思っていたんですけど、祖父江さんから、すごい渋そうな顔で、「うん。岸田さん、ごめんね。言うね。下手」って言われて(笑)。「へっ!?」って感じだったんですけど、「40点描いてもらうよりも、表紙だけ一生懸命描いてもらって、渾身の一枚出しましょう」と言われて、そうすることになったんです。だから実はちっちゃいボツ絵が扉絵とか帯の裏とかに入ってるんですよ。これは私の画力が追い付かなかったってことなんだけど、でも、それもこうやって載せてくれるのがね、祖父江さんの優しさなんですよね。

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なんかこんなこと自分で言うのも何なんですけど、愛されてるなって思いました。だって私に絵を描かせるために、納期が2か月も遅れたんですよ。でも小学館さんは「待ちます」って言ってくれて。で、すごい嬉しいことに発売翌日に重版が決まったんですけど、祖父江さんが造本にこだわり過ぎて、重版ができるまで1か月もかかってしまって(笑)。でも、それだけ造本を考えてたり、手触りとか本を読んでいる人の心の動きを考えたりして、ネットで読めるものをわざわざお金を出して手元に置いておくような楽しみっていうのを作ってくれたのは、嬉しいな、愛だなって思いました。

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普段noteに綴っている文章のように、面白おかしく、テンポよくトークを披露してくださった岸田さん。ブックデザイナーの祖父江さんのキャラクターが伝わってくるモノマネも交えながら楽しそうに話す岸田さんの様子を見て、会場は何度も笑い声に包まれました。

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また、事前に参加者から寄せられた質問にも答えてくださいました。

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Q
自分のことを面白いと思い始めたのはいつですか?

A
すごいこと聞きますね! 「思ってねえわ!」っていう(笑)。私は自分のこと面白いと思ったことはないし、自分の人生を面白いって思ったこともないんですよ。

ただ、私居酒屋とかで家族の話をしまくってたんですよね。で、そういう時って、人が笑うものと笑わないものがあるじゃないですか。その中で、笑ってもらった話をちょっと覚えてるんですよ。それで、面白いって笑ってもらった話でどこを笑ってもらえたかを見ておくんです。私は『宇宙兄弟』っていうマンガから「二人以上から同じことを言われたらそれは真実」って教えてもらったので、二人以上笑ってくれたらそれは面白い話と思っていて。あ、ただ、同じ場じゃないですよ? 愛想笑いって言うのが日本には存在するので、それは信じてはいけないなと。

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これはうちのおとんの遺伝なんですけど、私は面白くなりたいわけではなくて、基本的に人を楽しませて生きていきたい、そうして自分も楽しんでいきたいって思っていて。それがあるんで、人がどこで笑ってくれたかものすごく気にしてるんですよね。そうすると、思ってもいなかったところで笑ってくれる人とか結構いて、「あ、そこが面白いんだ」って発見があるんです。例えば私の場合、弟が万引きを疑われたけど実際はコンビニで優しい店長さんが助けてくれてたとか、赤べこってワードが面白いとか思ってなかったんですよ。(※岸田さんのnote『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』を参照)ただただ「赤べこに見えるなー」って思ったんでそう書いただけなんだけど、そこをすごく笑ってくれたりして。実は、赤べこの記事って最初はタイトルに「赤べこ」ってワード入ってなかったんですけど、Twitterで「赤べこ最高」とか書いてくれた人がいたので、私こっそりnoteの題名に「赤べこ」って追加したんですよ。そうしたら「赤べこの人」って呼ばれるようになったんです。

だから、面白いと思ったことはないですが、自分が面白かったなって思う話を人に話して、面白がってるところを覚えておいて、それを煮詰めて書き続けているっていう。つまり、すごく大事なのは居酒屋で酔っぱらって話すってことなんじゃないかな、と思います(笑)

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この他にも、「ハプニングへの対処法は?」「生きる上で大切にしていることは?」など参加者から寄せられた質問に、時間ギリギリまで答え続けてくれました。

休憩をはさんで、次は参加者のみなさん待望のサイン会へ。

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参加者の方一人一人と笑顔で会話されている様子や、「自分の順番を待つ間も退屈しないように」とスペシャルムービーを用意してくださる心遣いから、「みんなを楽しませたい」という岸田さんの想いを改めて感じました。

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また、今回のサイン会では、当日会場を訪れた方だけではなく、オンラインで参加した方に対しても一人一人名前を呼び、事前に寄せられた質問やコメントに答えながらサインをしていく「オンラインサイン会」も実施されました。遠方からでも参加できるだけではなく、文字で質問を伝えられるため、対面だと緊張しやすい人でも安心して質問ができるというのも嬉しいポイントで、広まっていってほしい仕組みだなと感じました。

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以上、イベントの様子をお伝えしました。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は小学館から絶賛発売中です! 話題となった「赤べこ」の話以外にも、岸田さんとご家族との笑顔あり涙ありのエッセイが詰まったこの本。祖父江さんとの特訓の成果である表紙や細部にある岸田さんのイラスト、弟である岸田良太さん作のフォントもあり、読んで・見て楽しめる本になっているので、ぜひ実際にお手に取ってみてください!

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編集/小川利奈子 文/三橋七緒
2020.12.23 作成

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