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BLWの始め方

イギリスで始まり世界中で多くの方が取り組んでいるBaby-Led Weaning(BLW、赤ちゃん主導の離乳)
日本ではまだまだ情報が少なく、どう取り入れたらいいのか困ってしまっている方もいるのではないでしょうか。
今回は、BLWに関する基礎知識と実践の仕方についてご紹介します。

まずは基礎知識。

この項目は実践方法を知りたい方は飛ばしていただいてもかまいません。
BLWってイギリスから来た手づかみ食べで固形食だけでやる方法でしょ?なんか海外のやり方をそのまま日本でやっていいのか不安だし、いきなり固形食とか消化の問題とか窒息とか危険じゃないの??
多くの方は初めてBLWのことを聞いたとき、そのように感じたのではないでしょうか。
現在主流となっているやり方(従来法)では、おかゆから始めて一食ずつ、ひとさじずつ与えていく、とても慎重にみえる方法であるために少々乱暴な考えのように感じてしまうかもしれません。
しかしこの従来法の考え方のルーツはアメリカにあり、明治時代に導入された文献が残されています。
その後、戦後の小児の栄養不足を解消するために昭和33年提唱された「離乳基本案」。
これが現在のやり方のもとになった考え方です。1)
ではそれ以前はどうだったか?
書籍には以下のように記述されています。2)

「離乳食はもちろん幼児期の食品もなかった」
「おとなの食物を利用することになった」
「日本の伝統的な離乳法は、『ありあわせ離乳』」

意外なことに、現在の手法は比較的最近に確立されたもので、それ以前はこれから紹介するBLWに近い方法が取られていたことが分かります。
この考えが導入された直後は、お母さんたちは「新しいやり方」として導入し、それを見たおばあちゃんたちは「いまどきのお母さんたちのやり方はそうなのね」と冷ややかな視線を送っていたという記述もあります。
ある意味今のBLWの置かれている立場と同じだったのかもしれません。
BLWは本当は「海外から入ってきた新しいやり方」というわけではなく、本来の日本伝統の手法に近いものであるということですね。
さて、その他の不安に関しては後半で解説いたしますので、次は実践方法をご紹介したいと思います。

BLWを実践する前に大事なポイント。

赤ちゃんの手指舐めやおもちゃ舐めが見られるかどうかが大切です。

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発達に問題のない赤ちゃんであれば生まれる前から指をしゃぶるような行動がみられ、いったん生後2ヶ月頃までに減少したのちに、再度よく見られるようになります。
一般に「指しゃぶりは歯並びに悪い」という認識があると思いますが、この時期の指しゃぶりやおもちゃ舐めはやめさせる必要はありません。
むしろ、どんどんさせていきたい行動です。
赤ちゃんはこの手指舐めやおもちゃ舐めなどを通して食べるための準備をしているのです。
離乳開始前の指しゃぶりはどんどんさせてあげましょう。

こうした行動が見られたあと、食べ物に限らず色々な物に手を伸ばして口に運ぼうとするようになってくると思います。
その時期には大人が食べる場に赤ちゃんを同席させてみてください。

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こんな感じで「やってみたい!」という動作?(笑)を見せることも出てくると思います。
従来法と同様に体の発達の目安として、ある程度自分で座れることや腹ばいで上半身を起こすことができることなどということもあるのですが、それらを厳密に守らなければいけないわけではありません。
ましてや月齢は関係ないと言ってしまってもいいと思います。
「やってみたい!」を見せてくる時期はその子によって大きく異なります。
4ヶ月より前に始めることは原則避けるべきと思いますが、6ヶ月だからやらなければいけない、ということでもありません。
とはいえもちろんアレルギーや栄養に関する心配をされるケースもあると思いますので、このあたりは従来法とのハイブリッドを考えてもよいと私個人は考えています。

さてこうした行動が見られてきたら、いよいよ最初の一歩です。

どんな食材から用意したらいいか?
やっぱりお米からのほうがいいんじゃないか?
色々考えてしまうと思いますが、これ、本当に「なんでもいい」のです。
もちろん窒息の危険性の高い形態のものやはちみつなど一般的な離乳食でも避けるべきとされているものは与えてはいけませんが、そうでなければ本当になんでもいい。
なんでもいいと言われてもどうしたらいいか分からないよ、となってしまうと思いますのでここで一例だけご紹介。

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人参とブロッコリーですね。
開始初日の様子ですので、まだまだ工夫が足りない段階ですがこんなものです(笑)
いずれも手で持てるけれど歯茎で崩れるという程度に煮てあります。
なお、お皿はないほうがいいです。特に絵柄はないほうがいい。
赤ちゃんがどこに食べ物があるのかを認識しにくくなってしまうからです。
テーブルに直に置いてもかまいません。
ただ汚れたあとの始末が大変だと思いますので、まっ平らなシリコンマットかビニールシートをかけておくと便利です。

いきなりこんなもの食べられるの?と思うと思いますが、もちろんほとんどの場合は食べません
ですが、なんでも口に運ぼうとする時期です。
手で持って口に運ぶ行動はみられる可能性は高いです。
それだけで十分。口に入らなくてもOK。
手で触りもしなかったとしてもOKです。
何回かトライしていくうちに、触り、手で持ち、口に運び、偶然口の中に残り、口から出したり、偶然飲み込んだりしていくようになります
そうして少しずつ食べ物の扱いが上手になっていき、明確な意思を持って「食べる」ように徐々になっていくのです。
ですので、明確にいつ食べ始めたかを言うことは難しくなります。
まさに開始そのものも赤ちゃんが主導するのです。

BLWが固形食を手づかみするというスタイルになる理由がここにあります。
大人がスプーンでドロドロした形状のものを与えるとしたら、このように赤ちゃん自身が試行錯誤しながら開始していくことはできません。
ピューレ状のものは手づかみできませんし、大人が意図的に口に運んでしまうからです。
固形食を手づかみすることは目的ではなく、赤ちゃんが主導するための手段なのです。

なお、開始初期は「お腹が空いていないとき」に実践します。
ある程度お腹が満たされていて機嫌の良い状態のほうがいいからです。
目的は食べることではなく、食べ物に慣れていくことですから。
食べ方は大人が食べているのを見て学んでいきますので、一緒に食卓を囲むことは食べる能力の発達のためにも大切です。

開始するときに重要なポイントがもうひとつあります。
赤ちゃんが食べるためのイスをどうするか、という点です。
原則として赤ちゃんがまっすぐに座れるようにしてあげることが大切です。

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膝が直角に曲がったときに足の裏がぺたっとついて、腰もまっすぐにでき、肘をおろした高さにテーブルが来るのが理想です。足を置く台の面積が広く、高さの調節ができるイスを選びましょう。
ローテーブルの場合も姿勢の原則は同じです。
最近よく見かける赤ちゃんのお尻がはまり込むタイプのイスはあまりおすすめできません。
これらは窒息防止のためにもとても大切です。
赤ちゃんは急に「食べたい!」という意欲を見せ始めることもありますので、早めに準備しておくと良いと思います。

このようにスタートしたあと、どのように進めたらいいかについて説明します。

・・・とはいえこれは本当に、その子その子で試行錯誤するしかないというのが実際のところです。
これぐらいの固さなら手でつかめるかな?口の中で処理できるかな?
ということを、赤ちゃんの様子を見ながら調節していきます。
赤ちゃんもどんどん上手になっていきますので、昨日できなくても今日できることはあるし、意欲の問題で昨日食べたのに今日は全然食べないということも当たり前です。
ですので調節するというものの、細かなルールはなく、だいたいでいいのです。
大人の食事を味付け前にとりわけて並べてみる、という感じで大丈夫。
たとえばお味噌汁を作るときに出汁で具材を煮て、それを取り分けてから、大人用に味噌を入れる、といった感じ。
赤ちゃん用に別に用意しなくてもいいのです。
インスタ等ではものすごくバエる写真なども見かけますが、そんなきれいな見た目にする必要はまったくないです。
ほんと、焼き肉に出てくる感じの皮付きのカボチャとかもすごく優秀ですから。

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ね、全然バエない(笑)
でも皮の部分が硬いので持っても崩れにくいし、中身の部分はペースト状にほどけていくので口の中で処理しやすい。
大人用には少し小さくしたものを味噌汁の具材にしちゃえばいい。
そういうことです。
残念ながらベビーフードにこういう形状のものはあまりないですから、手作りするっちゃするのですが、どうせ大人の食事を手作りするのだったらそれを使えばいい、ということです。
第一子を従来法で育てた方たちはみんな一様にBLWのほうが圧倒的に楽ちんだとお答えになられます。
それでいいんです。
赤ちゃんが選べるように、3,4種類用意できるとよいですが、この中で何をどれだけ食べるかは赤ちゃんの自由です。

BLWの唯一の欠点。

それは汚れることです。
これはもうしょうがない。
シリコンマットや新聞紙などを使って片付けやすくするくらいしか・・・。
動きを制限しないエプロンやスモックで覆うか、むしろ素っ裸で食べさせてすぐにお風呂、みたいなお話も耳にします(笑)
あまり気になる方にはあえてBLWはおすすめしないかもしれません。
ストレス抱えてまですることじゃないですから。
どんな方法でも基本的には元気に育つはずです。
BLWの一番の魅力は「楽しいこと」ですから。

BLWに対する不安について。

前半で触れた消化や栄養、そして窒息についての不安を感じる方も多いと思いますので、ここでそれらについても解説したいと思います。

まず消化についてですが、従来法でもBLWでも初期には消化できない食品はあります。
形態に関わらず消化についてはその能力の発達を待たなければなりませんので、そのままの形でウンチに出てきてしまうことはどの方法でもあります。
こうした視点から開始月齢に5ヶ月を含めないほうがよいという見解3)も示されていますが、基本的に赤ちゃんが元気で便そのものにも大きな問題が見られなければ与えていてかまいません。

栄養については、たくさんの研究がなされており、
BLWと従来法に栄養摂取に関する差はないという結論となっています。4),5),6),7)
早期に不足しやすい鉄や亜鉛については、BLWでも従来法でも積極的に取り入れていきたいですね。
特に日本においては従来法の場合はお米(おかゆ)からの開始は基本だと思いますが、BLWについては五大栄養素すべての食品を開始期から導入できますのでむしろ有利な側面もあります。

窒息について。

これは不安を感じる方がとても多いと思いますので少し丁寧に説明させていただきます。
まず先に結論を述べれば、BLWだから窒息の危険性が高くなるということはありません
これを支持する研究8),9)がきちんとあります。
後者の研究ではむしろBLWを実践していたほうが固形食での窒息の頻度が低くなるという結果が示されています。
これはなぜなのか。

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BLWでは、食べ物をどう扱うかを赤ちゃん自身が試行錯誤して学んで行きます。
そのため開始してしばらくすると、食べ物を詰め込みすぎたり、長いものをそのまま奥につっこんで「オエッ」と吐き出したり(咽頭反射)、「ゴホゴホッ」と咳き込んだり(咳反射)することがあります。
これらの反応が見られた場合、不安になるとは思いますが、原則的には見守ってあげて大丈夫です。
こうした経験をとおして、安全な固形食の扱いを学んでいきます。
ただし窒息事故は万が一にも起こしてはならないものです。
窒息の状態は上記の反射が見られず、呼吸ができないため声も出せずに青ざめた状態になっていきます。
もしもそのような状況になってしまった場合は、まず救急車を呼びましょう。
そのあとに窒息解除の対応をします。

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こんなことになったらやっぱりこわい!と思いますよね。
でもこれは、従来法でも同じ頻度で起きうることであり、むしろ食べ物以外で起きることのほうが多いのです。
子育てに携わる方は必ず知っておくべきだと思いますので、しっかり学んでおきましょう。
これについては日本BLW協会も動画を作成していますのでご参照ください。
https://youtu.be/PqlIGzdF4BY

それで結局BLWのどんなところがいいの?

ちょっとこわい話もしましたので不安に感じた方もいらっしゃると思いますが、現在までにBLWだから危ない、ということが示されたものはありません。
従来法でもBLWでも気をつけなければいけないことは同じということですね。
ちなみにBLW発祥の地であるイギリスでは、NHS(国民保健サービス)が公的にBLWに準ずるものを推奨しています。
https://www.nhs.uk/start4life/weaning/
ここでは書ききれなかった様々な情報がこのホームページから得られると思いますのでぜひ読んでみて下さい。翻訳サイトなどを活用すれば日本語で読めちゃいますから。

なぜBLWを日本にも紹介したいと思ったかと言うと、離乳食に関する悩み10-p10)の上位のほとんどが、従来法のやり方に原因があると思われたからです。
BLWは基本的に大人の食事の取り分けを少し工夫すれば用意できるし、食べさせるために大人がつきっきりになる必要はないし(一緒に大人が食べることで手本を見せてあげてください)、もっともっとおおらかに離乳食に取り組むことができるのです。

1回食から始めて2回食、3回食へと増やすという原則もありません。
赤ちゃんに意欲があれば早期に回数を増やしてもいいし、どうも今日はそういう気分じゃなさそうだなと思えば減らしたっていい。

離乳食が大変そうと感じたり、なんとか乗り切っていくものという思い込みを解消したい。
赤ちゃんと一緒に大人も楽しんでほしいと思うからです。

離乳食の時期はたった一年程度の、本当にかけがえのない時間なのです。
その時期を辛い、大変と過ごすのはやっぱりおかしいですよね。
もっと楽しく幸せに過ごすことができるはずです。

まだまだBLWについて精通した専門家が少なく、
学ばずに誤解されたまま否定されたり、
科学的事実と異なった発信も見られてしまう現状ですが、
離乳期を楽しく過ごしていただくために、この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。

1) 今村栄一「離乳食、幼児食に関する研究 –わが国の離乳の経緯−」平成3年度厚生省心身障害研究
2) 松田道雄「定本 育児の百科」岩波書店
3)Sakashita R, Inoue N, Kamegai T. From milk to solids: a reference standard for the transitional eating process in infants and preschool children in Japan.Eur. J. Clin. Nutr 2004; 58: 643–653.
4)Daniels L, Taylor RW, Williams SM, Gibson RS, Fleming EA, Wheeler BJ, Taylor BJ, Haszard JJ, Heath AM. Impact of a modified version of baby-led weaning on iron intake and status: a randomised controlled trial. BMJ Open. 2018 Jun 27;8(6):e019036. doi: 10.1136/bmjopen-2017-019036. PMID: 29950456; PMCID: PMC6020950.
5)Daniels L, Taylor RW, Williams SM, Gibson RS, Samman S, Wheeler BJ, Taylor BJ, Fleming EA, Hartley NK, Heath AM. Modified Version of Baby-Led Weaning Does Not Result in Lower Zinc Intake or Status in Infants: A Randomized Controlled Trial. J Acad Nutr Diet. 2018 Jun;118(6):1006-1016.e1. doi: 10.1016/j.jand.2018.02.005. PMID: 29803269.
6)Boswell N. Complementary Feeding Methods-A Review of the Benefits and Risks. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(13):7165. Published 2021 Jul 4. doi:10.3390/ijerph18137165
7)Pearce J, Langley-Evans SC. Comparison of food and nutrient intake in infants aged 6-12 months, following baby-led or traditional weaning: A cross-sectional study. J Hum Nutr Diet. 2021 Sep 2. doi: 10.1111/jhn.12947. Epub ahead of print. PMID: 34476858.
8)Fangupo LJ, et al. A Baby-Led Approach to Eating Solids and Risk of Choking. Pediatrics. 2016
9)Brown A. No difference in self-reported frequency of choking between infants introduced to solid foods using a baby-led weaning or traditional spoon-feeding approach. J Hum Nutr Diet. 2018
10)平成27年度 乳幼児栄養調査 厚生労働省

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