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離乳食を俯瞰して考える(BLW,レスポンシブ フィーディング, etc.)

前回記事、『BLWの始め方』でBLWの概要は掴んでいただけるかなと思いますので、今回はもうちょっと俯瞰した視点で離乳食について考えてみたいと思います。

赤ちゃんが主導する離乳法であるBLW。
それを実践するための手段として固形食を手づかみするスタイルになることを前回解説しましたが、そこでも私はチラッと「従来法とのハイブリッドもあり」と述べました。
BLWの書籍の中ではスプーンで与えることはしないとされていますが、私個人としては必ずしもそうでなければいけないとは思っていません。

Responsive Feeding(レスポンシブ フィーディング)

BLWとよく似た概念の言葉として"Responsive Feeding(レスポンシブ フィーディング)"という言葉があります。
実はBLWも、母乳を与える際に計画授乳ではなく赤ちゃんが欲しがるままに与えたほうがよいという考えを離乳に応用したところに起源があるのですが、Responsive Feedingも同様に赤ちゃんの様子をよく観察して授乳しようという考え方であり、これを離乳に応用したものと捉えてよいと思います。

この考え方はWHO1)やユニセフ2)も解説しています。

BLWの場合は、開始についても、何をどれだけどう食べるかも、全て赤ちゃんが主導するので、養育者は自然にResponsive(反応する)な状態、といっても赤ちゃんの前に食べ物を並べてやるくらいではありますが、そういう立ち位置になります。
スプーンで与える場合のResponsiveとは、赤ちゃんが食べたそうな様子やどの食品を欲しがっているのかなどをよく観察して、それにタイミングよく対応してあげることを示します。

WHOの解説にもありますが、「食事の時間は学習と愛情の時間」です。
決して「栄養摂取のための時間」というだけではありません
無理に食べさせたり、まだ口に残っているのに次のひとくちを口元に運んだりということは好ましくありません。

どんなときにハイブリッドで行うとよいのか?

前回の記事の中では、アレルギーや栄養のためにハイブリッドを考えてもよい、と表現をしました。
アレルギーについては私の専門から離れますので概要を述べるにとどめますが、アレルゲンとなりやすい食品をわざわざ避けて開始を遅らせてしまうと、かえって発症のリスクが高まることがわかってきています。

赤ちゃんが「やってみたい!」の様子を見せて自分で食べ始めるのを待ってしまうと、その子によっては7ヶ月、8ヶ月という月齢での開始になることもあります。基本的にはそれでも問題はないのですが、もしアレルギーのリスクについて心配だから早めに開始したい、という場合は、与える側がResponsiveな姿勢を忘れずにスプーンでピューレから与えてみるのもダメではないよ、というニュアンスですね。
栄養に関しても同様です。
ただしスプーンで与える場合も、おかゆからスタートした場合にはすぐにアレルゲンとなりうる食品を取り入れる訳ではないですし、栄養についても同じことが言えますので、いずれにしてもさほど大きな差にはならないと思われます。

ちなみにBLWの場合は、アレルゲンとなりうる食品を初めて摂取する際もいきなり大量に摂取することは基本的にはありませんので、それほど問題にはならないと言われています。実際に体が反応してしまう食品についてはあまり食べたがらない、とも。早期に様々な食品を試すことができるので、むしろ保護的に働く可能性もあります。ただしこのことについては質の高い根拠はまだありませんので、従来法と同じく、初めて提供する際には何かあってもすぐ医療機関にかかれる時間帯に試すなどの工夫はしておきましょう。
少なくとも現在までにBLWがアレルギーのリスクになると示す根拠はありませんので、過度に心配する必要はありません。

あとは、BLWだとどうしても避けられない、「汚れ」。
食べ物を散らかされてしまうのがどうしてもガマンができない!という方もいらっしゃるでしょう。
片付けやすくする工夫はある程度できますが、汚さないというのは無理ですので、この場合もハイブリッドで導入していくとよいかもしれません。
汚れやすい食品については大人がResponsiveな姿勢を忘れずにスプーンで与え、そこまで散らからない食品についてを本人に手づかみさせていく、というスタイルですね。

なぜここまでBaby-Led(赤ちゃんが主導)やResponsive(与える側は赤ちゃんの意思に従う)にこだわるのか。

これまでBLWの利点やハイブリッドの場合でもResponsiveな姿勢を重視してお伝えしてきましたので、なぜそんなにそこにこだわるの?と思われるかもしれません。
従来法においても赤ちゃんの意欲を重視する点は変わらないのですが、これまでの離乳食に関してはどうしても、「月齢」であったり、「どの食材を」、「どのように調理するか」に焦点が当たりやすかったのではないかと思うのです。
それゆえに、BLWが日本で注目され始めたときにも「最初から手づかみ」ということや「いきなり固形食」という点で、専門家からも違和感を持たれることが多くありました。その名前が「Baby-Led(赤ちゃん主導)」とあるにもかかわらず。
離乳食は赤ちゃんが主体的に関わるべきものという認識があればそのようなことは起きないはずでした。
これは専門家も離乳食のステップや食材や調理法に意識が向いてしまっていたからにほかなりません。

ここまで読まれた皆さまはすでにご理解のことと思いますが、BLWは決して固形食を手づかみで始める離乳法、ではないのです。
ある意味で徹底的なResponsive Feedingであり、固形食を手づかみするのはあくまでも手段です。

養育者も赤ちゃんも離乳期を安全に楽しく過ごす鍵が、赤ちゃんが主導し養育者がResponsiveな姿勢であることにあるからこそ、これを重視したいのです。
かつて授乳についての常識が変革されていったときのように。

赤ちゃんは、指導された手順を守ったり、一生懸命調理をしたから食べてくれるわけではありません。
自ら食べたいという欲求があればこそ、食べるのです。

どうやって調理するか?なにをどの月齢で与えるか?どんな手順で?どんな道具で??
これらを模索することも大切ですが、もっともっと大事なこと。
それがBaby-Led(赤ちゃん主導)でありResponsive(大人はそれに対応)なのです。
スプーンを使っちゃダメとか、ベビーフードじゃなくて手作りでとか、従来法を否定するとか、そういうものでは決してありません。
何から始めるか、どう調理するかに実は科学的根拠はありませんし、そこで思い悩んでしまうよりもまずは赤ちゃんを見てあげてほしい。
そのほうがうまくいくし、楽しいのです。

家族がみんなで食卓を囲む。そこに一緒に加わることの幸せ。
大人が食べているのを見て学ぶ、その学習能力。
試行錯誤して、うまくいかないときも一生懸命なその姿の愛らしさ。


そういう幸福感があるからこそ、大変なこともたくさんあるけど、子育てっていいな、赤ちゃんってかわいいな、という気持ちが持てるのではないかと思っています。
かけがえのない離乳期をみんなが楽しく幸せに過ごしてもらえますように。

1) "RESPONSIVE FEEDING: SUPPORTING CLOSE AND
LOVING RELATIONSHIPS" unicef
2) "Infant and young child feeding" WHO 9 June 2021

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