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突然「この人,痴漢です」と言われたら


■問題
 もし,あなたが,突然,電車で「この人,痴漢です」と言われたらどうすべきでしょうか?


■結論
 駅のホームから動かずに,その場から,携帯で知り合いの弁護士か弁護士会に連絡すべきです。

 そして,「今から弁護士が来るので,それまでここで待ちます。移動しません。」と説明してください。

 それができないのであれば,すぐにスマホの録音・録画を始めてください(現在の状況を自分で喋って録音できるとベターです)。

 駅員室や鉄道警察の建物には移動しないでください(特に駅員室には移動しないでください。理由は後述します)。


【2014.06.05追記】弁護士会では即座に対応しきれないことがありますので,知り合いの弁護士がベストです。「知り合いの弁護士なんていない!」という方は,事前に,即時対応を謳う法律事務所等をネットで検索して,電話番号を登録しておいていただけると有益かと思います。


【2015.06.08追記】

【2017.02.08追記】




■弁護士の知り合いがいない場合の「参考」サイト

 逮捕されたら|刑事弁護フォーラム|弁護士以外の方へ - 刑事弁護フォーラム
http://www.keibenforum.net/public/arrest_faq.html 

「犯罪」相談やトラブルの無料法律相談 - 弁護士ドットコムhttp://www.bengo4.com/hanzai/ 

【6/5:追記】参考までに当番弁護士連絡先も載せておりますが,当番弁護は,制度としては,逮捕後の弁護を前提としております。迅速性という点では,個別の法律事務所に連絡するのがベストです。弁護士ドットコムのPCサイトの検索も有益です。


■ダメなパターン・その1
 逃げる。

 最悪です。たとえ,冤罪であったとしても,逃げるのは最悪の選択です。

 本当は冤罪であったとしても,その場にいる方達は「こいつは痴漢の犯人だ」と思っています。むしろ,その場にいる方達は,「あなた=痴漢犯人」と信じているからこそ,あなたを逃がさないようにしています。

 このような状況下で逃げると,「場合」によっては準現行犯として逮捕される可能性があります(刑訴法212条2項1号,4号同213条。但し,準現行犯逮捕については,後掲の裁判例に書かれているとおり,実務上,幾つかの論点がありますが,裁判例の紹介に留め,割愛します)。 

 逃げた場合,準現行犯として逮捕されなかったとしても,警察署に「任意」同行される可能性は飛躍的に高まります。なぜならば,「真犯人だから逃げた」という認識を警察――ひいては,裁判官にも――に持たせてしまうからです。

 そして,任意同行された警察署で「私はやっていない」と否認したとしても(冤罪が真実であるとしても),(1)被害者の供述がある,(2)逃げようとした事実がある,という状況では逮捕状が裁判官から発せられ,逮捕されてしまう可能性が極めて高いと言えます。


◎仙台高判昭和44年4月1日刑集27巻5号1170頁
「ところで,刑事訴訟法第212条第2項第1号にいう『犯人として追呼されているとき』とは,その者が犯人であることを明確に認識している者により逮捕を前提とする追跡ないし呼号を受けている場合を意味するものと解されるが,右同号による準現行犯人逮捕が許されるためには,いうまでもなく,犯人に対する右追呼の存在が逮捕者にとつて外見上明瞭であることが必要である。もつとも,右追呼が,逮捕者による逮捕の瞬間まで継続されていることは必ずしも必要でないものと解されるので,追呼者が,犯人を追呼中,自己の非力ないし他人の妨害等の事情により,やむなくその追呼を中止したような場合においても,追呼に関する右のような一連の状況が逮捕者にとつて外見上明瞭であつた限りにおいては,その逮捕は,なお『犯人として追呼されているとき』の要件を具備するものと解することができる。」

◎大阪高判平成8年9月26日判タ942号129頁
「刑事訴訟法212条2項1号について
 右号にいう『犯人として追呼されているとき』とは,その者が犯人であることを明確に認識している者により,逮捕を前提とする追跡ないし呼号を受けている場合を意味するというべき(後略)」
「同項4号について
 同号は,もともとそれだけでは,罪と犯人とを結びつけるものが乏しいため,同号に該当するとして,準現行犯逮捕をするには,同項1ないし3号以上に罪を行い終わってから間がないと明らかに認められることが求められるというべき(後略)」


■ダメなパターン・その2

 ネットの情報(例えば,以下のサイト)を無闇に信用して行動する。

痴漢に間違えられそうになったらどうすればよいんでしょうか? 今度電車に乗りま... - Yahoo!知恵袋http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1190235171 

 上記のサイトに記載してある情報は「全面的に誤り」という訳ではありませんが,多くは,不正確です。

 例えば,上記サイトでは,最初に,刑訴法217条を根拠として,身分証を提示して名刺を渡せば,現行犯逮捕できない,という旨が示されています。

 しかし,刑訴法217条は,犯人が逃亡するおそれがある場合には適用されません。そして,この逃亡するおそれ,という要件は比較的容易に認められてしまいます。住所や氏名を伝達すれば,論理必然に逃亡のおそれが無くなるという訳ではありませんよね。

 また,提示された住所や氏名が本人のものであると確証できない場合もあります。ですから,上記サイトに記載されているような言動をしたとしても,実際には「だから,何?」ということになるのがオチです。

 正確な法知識があなたを守ることは間違いありません。ですが,法知識は正確でなければ無意味です。


■駅のホームから移動してはいけない理由

 冒頭の「結論」で,駅のホームから移動してはいけない,と述べた理由は,駅員室や鉄道警察の派出所に移動すると,弁護士があなたに会えないからです。

 特に,駅員室は,基本的には民間企業のスペースであるため,弁護士であるからと言って当然に入って行ける訳ではありません。そして,あなたが弁護士と会えないでいる間に,警察官が駅員室を訪れ,警察署に連れて行かれる,これはよくあるパターンです。

 ある書籍では次のように指摘されています(尚,本書は痴漢冤罪の弁護に関する名著の1つです)。

「痴漢犯人と指摘された男性が実際に痴漢行為をやっていない場合であればあるほど,自らの身の潔白を晴らそうと思い,または駅事務室で話し合えばわかってもらえると思い,進んで駅事務室に行く場合が多い。ところが,駅事務室に行くと,女性とは隔離され,話し合うこともできない。そしてまもなくやって来た警察官に最寄の警察署に連れて行かれ,そこで女性によって現行犯逮捕されていたと告げられ,そのまま警察署に身柄を拘束されることになる。」(秋山賢三ほか編『続・痴漢冤罪の弁護』〔現代人文社,2009年〕25頁)。


■まとめ

 以上,長々と書きましたが,結局,痴漢冤罪でトラブルになった場合はすぐに弁護士,弁護士会に連絡してください。

 今のうちに携帯電話に弁護士や弁護士会の電話番号を登録しておいても損はありません。


【2023.5.16追記】
自分が痴漢をしていない場合(犯人ではない場合)は、以下の、原田國男判事の権利告知の内容を思い出してください。認めてはなりません。



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