中古のオンボロ高級靴を復活させた話

とりあえずメモで経緯を残す。

私はエドワード・グリーンの靴が好きで2足持っている。どちらも中古だが、サイズ違いで適当に2足買ったんだが、ひとつが202ラストのドーバー、サイズが9 1/2、これがちょうど私の足の形にピッタリ。もう一つはサイズ9のモンクストラップだが、こっちはちょっときつくて履けるには履けるが、長時間歩くのは厳しい。

長時間歩くといえば、私は通勤で電車をパスして職場まで歩くことが多く、往復で8-10kmを一日で歩くこともザラだ。なので足に合っていない靴は履くのは難しいという事情がある。ちなみに家から職場は電車で地下鉄3駅。バスなら1本で通勤時間は30分かからない。単に運動不足解消のために歩いている。

で本題のボロボロの元高級靴の復活だが、そのエドワード・グリーンの202ラストのドーバー9 1/2をネットオークションで見かけたので即買いしたところからとりあえず始まる。(同じ靴をもう持っているので、こいつはバックアップ用、もしくは色を変えるつもりで購入した。薄茶色で全く同じ靴だ。)

ちなみになぜ「とりあえず始まる」と書いたかと言うと、これまでにボロくなった靴の修復は素人ながらいろいろチャレンジしてきたので、そこから書くと長くなるという意味でとりあえずだ。

<1.靴の状態>

で再び本論に戻って、その買い込んだエドワードグリーン・ドーバーだが、異様に安い3万円台のものだった。正規新品は定価20万円くらいの靴、オークションで新品で13-15万円、良質の中古が8-10万円、中程度で5-7万円なので、3万円台というは相当質が悪い証拠でもある。

そしてやってきたドーバーだが、期待通りのボロボロ感。薄茶色の革の銀面はところどころ焦げ茶の線が浮き出し、ワックスを落としてみたら靴先の革の銀面には穴、傷、めくれた箇所が現れた。ここからが高級靴の復活の物語である。

前述の通り浮き出している焦げ茶の線を確認し、ほかはどうかしらとワックスを落としてみたら靴先の革の銀面には穴、傷、めくれた箇所が現れたという次第だ。意外とひどい。

まずは焦げ茶の線が何かの確認をした。靴用クリーナーでは落ちない(←固化しているかこすり傷で焦げている)、アルコールでも散らない(←こすり傷で焦げか?)、アセトンで軽く拭いても落ちない。おそらく擦って焦げたか何かで染料顔料ではないのだろう。この時点で色を染め替えることを決心した。薄茶色は傷が目立つので多少修復してもバレバレだし、ワックスを塗り固めてごまかすのは嫌いだからだ。

ちょうどエドワードグリーンにはダークオークアンティークという色があり、この色の靴を新品で買ってもいいかなと思っていたところなので、この色にしようと決めた。

<2.ほつれの補修>

状態を見ているときに右靴の外側の羽根の根本の縫い糸の末端処理がだめになり、糸の端がぶらぶらしてほつれていることに気がついた。5針分くらいの糸が緩んでいて羽根全体がぐらついている。これは中古靴ではよくある。よく見ればタンの縫い目もだめになっている。レザークラフト道具はひと揃い持っているので同系色の糸を選んで補修することにした。

まずは羽の根元から処理する。ほつれた糸をふた針分程度ほどき、結べるだけの余裕を作り、羽根の裏側で結び直して固定した。次に同系色の糸を用意し、結び直した目のさらにひとつ手前から縫っていく。5針ほど縫って端まで来たらひと針折り返して裏側で結んで処理。本当は結び目で結ぶのではないのだがこれで十分。これで羽根のグラつきもなくなった

次にタンのほつれの処理だ。一旦糸をぐるりとカットして取り除いてから縫い直した。

<3.汚れ落とし>

縫いのほつれは修復できたので、改めてしっかり汚れ落としをスルことにした。クリーナー→丸洗い→アセトンで徹底的に汚れや色を落とす。

まず市販の靴クリーナーとしては一番強力なサフィールレノマットリムーバーでワックスを落とす。はクリーナーでびたびたにして数分放置し、その後雑巾で擦り落とす。このクリーナーは臭いので、この作業後、靴をベランダに移して一晩放置して匂いを落とした。

翌日は丸洗いだ。俺の使っているビオレUのボディソープと温水を使って洗面台でブラシで優しくゴシゴシした。水が茶色に汚れたら交換して新たなソープとお湯でまたゴシゴシ。それを数回繰り返すうちにだんだん水が汚れなくなってきた。これでいいだろう。ここからがすすぎだ。温水を何度も入れ替えながら洗剤を落としていく。最後は脱水と乾燥だ。軽く水を切ってタオルで拭いたら洗濯機に靴を入れ、履き口を外側にして脱水開始。数分脱水したら陰干しを一晩して乾かす。

3日目はアセトンで脱脂と脱色だ。缶入りのアセトンを用意し、セブンイレブンで買ったハンドタオルを雑巾代わりに、ベランダに出て、アセトンをたっぷり使って脱色する。元々薄茶だが、何度も繰り返すうちに少し色が抜けさらに薄いプレーンな革の色に戻った。

しかし当初から気になっていた焦げ茶色の筋は、全く消えていないので、これは染料でも顔料でもなく、やはり擦れて焦げたんだろう。

そしてここで右靴の内側サイド、土踏まずのあたり、革が折れ曲がる場所に小さな穴に気づいた。割れたのかなんなのか知らないが、これはウレタン系塗料(ネオウレタンクリヤー)で対処する。小さな綿棒でクリア塗料を傷の奥側から染み込ませる。手前は穴が空いたまま放置だ。ウレタン塗料は多少曲がる上、耐久性耐候性が高い。小さな穴なら革の繊維とウレタン塗料を接着剤代わりに穴を塞ぐ、というよりもとりあえず内部でつなげることができる。入れた箇所を乾かすのに1時間。翌日まで放置することにした。

<4.染色(失敗編)>

4日目に染色作業に入った。ダークオークアンティークというエドワードグリーンの標準カラーが目標なので、焦げ茶のスピラン(アルコール系の染料)、焦げ茶のローパスバチック(水性)を用意していた。

まずはスピランを試すが、長いのでこまかな手順は省くが、染料が染み込んで革に拡散してなかなか染まらないので諦めた。諦めたのちにスピランを落とすためにアセトンでまた脱色作業をやり直した。大きな時間ロス。

スピランが拡散するのは他でも経験済みだったので、次は染める前に「バインダー」という下地剤で処理をした。木工用ボンドのような酢酸ビニル樹脂で、恐いので水で少し薄めて全体に塗り込んだ。古い革のせいかおそらく顕微鏡レベルで大きな穴がたくさん空いているのだろう。どんどん染み込む。10分ほど放置し乾かした。

このあと二度塗り三度塗りすることになるのだが、バインダーを塗ると革がある程度固くなるので、「いいこと思いついた!、ここで傷消しすれば良いんだ!」と思いついた。で、このタイミングでつま先周辺の荒れた表面をサンドペーパーで削って傷を消していく。ここで気づかなかったら傷が消えなかった。

二度塗りして乾かしてサンディング、三度塗りして乾かしてサンディングして傷がほぼ消えた。銀面削ってしまうので別の靴で最初にサンディングしたときはビビったが、意外と大丈夫。三度目はバインダーが染み込まない感じになってきたのでその三度目で打ち切って乾燥させた。

<5.染色(成功編)>

ここでやっと本番の染色に入る。

スピランでも良かったのだが、水性のローパスバチックに切り替えて染色することにした。スピランで失敗したのでなんとなくこっちにしてみよう程度のことだったのだが、スピランと違って水性のこいつは後からやり直しが効かないので、よく考えたら少し無謀だったが、結果的には上手く行った。

染料を刷毛にとって塗り始めると、今度は色がしっかり止まるようになった。三度塗りでだいたい染め上がったので乾燥。濃色なので色むらは気にならないので刷毛を使ったが、薄い色だったら布を丸めるかスポンジで染色するのがいい。

色がついたら最後のトップコートだ。これはseiwaの「レザーフィックス艶消し」を使った。バインダーと同じように刷毛で塗るだけだ。レザーフィックスはたしか三種類あって、艶あり、プレーン、艶消し。艶消しでも十分艶は出るし、艶消しを在庫で持っていたので艶消しを使った。そして乾燥。

乾燥し終わった靴はなんとも上品な新品と見紛う出来。ただしソールはおんぼろ。そしてここからは乾燥して油分の抜けきった革に柔軟性を与える工程だ。

<6.柔軟処理(栄養補給)と艶出し>

クリーナー、洗剤丸洗い、アセトン2回で完全にカラッカラになった革だから、履く前に水分油分をしっかり与えて柔軟性を確保しておかないと多分ちぎれる。

翌日にやろうかと考えていたのだが、トップコートのレザーフィックスがしっかり乾燥していないと溶けてしまう可能性もあるなと考え(本当のところは踏めい)、二晩ほど放置して乾燥を進めた。そして3日目に処理を再開した。

まずはデリケートクリームで様子を見た。たっぷり塗り込んでラップして放置だ。1時間ほど放置してラップを剥がしたらそこそこデリケートクリームはなくなっている。レザーフィックスで表面をカバーしているのに、ある程度吸ってくれたようだ。良かった良かった。これなら次からの工程も期待できると一安心した。

次はグリセリンだ。水で3倍4倍に薄めたグリセリンをペチャペチャと塗りたくって水滴のある状態でまたラップしてこれは一晩放置した。翌日見たらしっかり吸い込んでくれたようだ。グリセリンが浸透すると革の色が少し濃くなるので薄い色の靴にはご法度だ。

最後が乳化性クリーム、いわゆる普通に売っている水と油が混ざった靴クリームだ。無職のプレーンを塗り込んでここで初めて豚毛ブラシでブラッシングした。トップコートのレザーフィックスが表面に塗料のように留まっているとすると、ブラッシングで表面はどんどん駄目になるかもとビビりながらブラッシングしたが、不思議なことに傷が付くわけでもなく、偽銀面としてレザーフィックスが機能しているように見える。

しっかり磨けば元々良い革なのでどんどん光る。そして出来上がった靴は、新品のダークオークアンティークのドーバーと見紛うばかりだ。完璧なリストアが終わった。最後に靴紐を通したところ、元々の薄茶の靴紐が焦げ茶と合わなかったので、黒の靴紐に変えて、先っちょに金具も着けてあげた。念の為1週間放置してから履き始めたが、今のところ銀浮きもなく普通に使えている。

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