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インクルーシブ哲学へ①:辻堂海岸ワンデイキャンプ

2023年10月29日
 
■イベント:Fox Project 辻堂海岸ワンデイキャンプ
■場所:神奈川県藤沢市辻堂海水浴場
■主催:こたえのない学校
■協力:サーフライダーファウンデーションジャパン、ナミニケーションズ、リノア、須磨UBP
 
 
今日は、みんなで波に乗る日だった。
波に乗れそうな人も、乗るのが難しそうな人も、みんなで海に入って波に乗る。
 
たくさんの人が来ていた。
僕は、たくさんの人の中にいると、緊張してどうしていいかわからなくなる。
しかも、そこは、いつもの教室でもないし、酒場でもない、初めての感覚がする場所。
僕は先生として呼ばれたのではなく、ただ人に出会いに来た一人の人間。
 
哲学は主に言葉を使う。
でも、そうだとすると、言葉を使わない人や、言葉が苦手な人とは、一緒に哲学ができないのだろうか。
言葉の限界を超えて、もっと大きな哲学がしたい。
それを「インクルーシブ哲学」と呼んで、始めてみたいと思った。
けれども、何をすればいいのか、わからない。
だから、まずは人に出会いに来た。
とにかく会いたいと思って、会いに来た。
 
それなのに、どう話しかけてよいのかさえ、わからない。
それどころか、順番に回ってきた自己紹介さえ、ままならない。
僕は隣の人が言ったことを真似しながら、それにちょっと付け加えるようなことを言っただけだった。
 
たくさんの人がいて、どうしていいのかわからない。
僕はここにいて許されているのだろうか。そんな気持ちがわきあがってくる。
雨上がりの砂浜。手で少し掘ると、湿度が増していく。
波の中で砂粒がキラキラしている。
きれいな貝殻や石がぬれている。
そういうものを見たり触ったりしているほうが、僕には合っている。
人に出会いにきたのに。
 
子どもの頃からそうだった。
入学したばかりの小学校にはたくさんの人がいて、僕はどうしていいのかわからなかった。
ダウン症をもつ女の子が同じクラスにいて、その子のそばにいると安心した。
その子のそばにいることが多かった。
 
海の人たちは明るかった。
太陽と潮風をたくさん浴びた笑顔は、底抜けだった。
水陸両用の車いすに乗った子と、一緒に波のリズムに乗っていた。
言葉を使わないやり取りが、そこにはあった。
 
さまざまに変わる子どもたちの表情を、僕はただ見ていた。
 
僕は膝まで海につかって、波のリズムを感じていた。
みんなで同じリズムを感じていた。
みんなと一緒にいる感じがしてきた。
 
波に乗る時間が終わって、ビーチクリーンをする時間になった。
僕はごみ袋をもって、プラスチックや花火のごみを拾った。
十代の男の子がいた。
「もうごみはないんじゃないかな」とつぶやいていた。
「もうぜんぶ拾っちゃったかな」と僕は言って、「こんなに拾ったよ」と言いながら、袋の口を広げて見せた。
男の子は袋の中をのぞきこんで、小さな声で「ほんとだ……!」と言った。
 
僕はここにいて許されるのだろうかという、どうしようもない気持ち。
その男の子は、許すとか許さないとかいう感じではなかった。
許すとか許さないとかを超えたところにいると思った。
僕はここにいて許されるのだろうかという気持ちが、癒された気がした。
 
リノアに集合して、みんなで床に座って話をしていた。
さっきの男の子が隣に座ってくれて、僕に話しかけた。
よく聞き取れなかったので、「帰りたいの?」と聞いてみた。
そうではないようだった。
言っていることはよく聞き取れなかったけど、どうしていいのかわからないという感じはしなかった。
その子が横にいてくれると、何とも言えない安心感に包まれた。
 
男の子のお母さんが驚いた様子で僕に話しかけて、「この子は人を見た目で判断することがまったくなくて、自分のペースを守ってくれない人が一瞬でわかるから、自分から話しかけるということはまずないんですよ」と教えてくれた。
 
僕を包んだ安心感は、この日一番のプレゼント。
本当にありがとう。


▼次回


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