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High Output Management を読んで

この本は、驚くべきことに今から35年以上前の1984年に発刊された『High Output Management』という本がベースになっています。著者は、アンドリュークローブ、世界最大の半導体メーカーであるインテルのCEOです。

この本で書かれていることは、一貫して、マネージャーがいかにチームのアウトプットを高めるか?と言うことです。

生産とは何か?

第1部では、マネージメントの前の段階、つまり何かを生産するとはどういうことを表すのか?と言う定義を、朝食工場を例に行うところから始まります。

生産とは、何かをインプットし、労働力で何かの活動が行われ、何かがアウトプットされることです。本書では、このプロセスを下記のような図で表しています。

労働力を利用して行われる生産活動には、様々なステップが含まれます。これらの様々なステップを、なるべく早く、そしてなるべく高品質で行い、最後のアウトプットである朝食を作り出すことが高い生産性といえます。

生産効率を上げるための2つの大きなステップ

労働力を利用して行われる様々なステップの中で最も重要なステップは「リミティングステップ」と呼ばれます。

リミティングステップ=「すべてのステップの中で、最も時間のかかるプロセス」

生産性を考えるときには、必ずこのリミティングステップ(最も長い、もしくは最も困難、もしくは最も要注意、または最も費用のかかるステップ)から流れを組み立てることが最も大切です。

そして、もう1点重要なポイントは、生産プロセスの中で、できる限り価値が最低の段階(つまり初期の段階)で問題を解決するということです。システムを構築する場合、最終テストの前の単体テストの段階で発見に努めるべきだし、採用の課題を解決するには、無駄な母集団を形成する前に課題を解決すべきなのです。

箱の中身を可視化するための「指標」

生産活動がうまくいっているかどうかをどのように判断すれば良いのでしょうか?このために必要なものは、良い指標です。マネージャーの仕事とは、従業員と朝食を運ぶことではなく、正しく指標をセットし、その指標を適切な粒度でモニタリングし、より生産性を高めるために手を打つことなのです

生産性を上げるためには
⏰すべてのステップの中で、最も時間のかかるプロセス(リミティングプロセス)から流れを組み立てる
💡生産プロセスの中で、できる限り価値が最低の段階(早い段階)で問題を解決する
📔正しい指標をセットし、その指標を適切な粒度でモニタリングし、より生産性を高めるために手を打つ

マネージャーのアウトプットとは何か?

第1部で「生産」の基礎が説明され、いよいよ第2部からは、チームの生産力を上げるためにマネージャーが行うべき事を一つ一つ細かく解説しています。

まずは、マネージャーのアウトプットとは何でしょうか?

重要なことは、「アウトプット」と「アクティビティー」には大きな差があるということです。計画を作ったり、方向付けをしたり、経営資源を配分したり、人材育成をしたりすることは、アクティビティーであり、すべてはアウトプットを高めるための手段でしかないということです。

💡マネージャーのアウトプットはチームのアウトプットの総量である
💡アウトプットとアクティビティには大きな差がある

マネージャーのアウトプットがチームのアウトプットであることを考えると、マネージャーが、自分のリソースをもっともチーム全体がレバレッジできることに利用し(手段)、チーム全体のアウトプットを向上させる(目的)ことがもっとも重要なのです。

3つの大切なマネージャーの活動

自分のリソースをレバレッジさせるために必要な3つの大切なコアアクティビティが紹介されています。

マネージャーにとって3つの大切なコアアクティビティ
💡情報収集
💡情報発信
💡決断

適切な決断を下すためには、適切に情報を集める必要があります。そのため、多くの時間を情報の収集をする必要があります。また、マネージャーは自身が考えている優先順位や重点事項、目標などを正しくチームに伝える必要があります。そして最後にそれらを総合的に判断して決断する必要あるのです。

この先は、マネージャーの生産性を高めるためにどのような工夫ができるのかについて、かなり具体的な方法論が紹介されます。興味のある方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。

リミッティング・ステップ、つまりわれわれの作業で「卵」にあたるものは何かを確認しなければならない。
第二の生産上の原則は、類似したタスクの「バッチ処理(まとめてやること)」である。
「委譲する人」と「委譲される人」は、どのように問題を解決していくかについて、共通の情報基盤と共通した業務処理上の考え方を持たなければならない
 人には誰でも、自分でやるのが好きなので手放したくないという単なる理由から、ほんとうのところは人に〝任せたくない〟何かが必ずある
マネジャーの問題の処理の仕方にひとつの〝型〟を設けることである
ミーティングはマネジャーが仕事を遂行する〝手段〟そのものにほかならない
「時間の使い方のうまいマネジャーは、自分の問題について自分のほうから話しかけないが、部下の側に、部下の問題をどう話させるかは知っている」

決断

予想に硬くありませんが、決断こそがマネージャーのもっとも本質的な仕事の1つであると本書でも書かれています。

意思決定の過程に参加することは、あらゆるマネジャーにとって、毎日毎日行なう重要、かつ本質的な仕事のひとつである。

では、理想的な意思決定のプロセスとはどういうものでしょうか?もちろんマネージャーがすべてを独断で決めていくことが理想的ではありません。

本書では3つのステップに分けて決断のプロセスを分析しています。

まずは自由討論。チームの中で全ての意見や問題点がオープンに議論されます。

次は明確な意思決定。ここで重要なことは、どれだけ同意が取れなくても意思決定をするということです。多くの問題では、すべての参加者の同意が取れて意思決定がなされることは稀です。様々な意見がある中で、マネージャーは明確な意思決定をする必要があるのです。

そして最後が、個人がどんな意見を持っていても、決まった決定に対して、完全な支持を取り付けることです。自分がそう思っていなくても一度意思決定が行われたら、その議論に参加した全員が完全な支持を行う必要があるのです。

つまり

マネージャーは、明らかに意思決定段階に到達していれば、たとえコンセンサスが生まれていなくても、上級者が地位のパワーを使って意思決定を行う必要がある

ということが大切なポイントなのです。

最大限のアウトプットを出す組織を作るためにハイブリット組織にする

第3部では「最大限のアウトプットを出すチーム」についての議論が展開されます。

どのような組織構造にするのかはマネージャーの頭をよく悩ませるポイントです。この本では、即応性とテコ作用の最善の組み合わせを求めてバランスを取るハイブリット組織こそが重要だと紹介しています。

ハイブリット組織とは、日本的に言えば、事業部別組織と機能別組織が1つの会社の中に両方存在する状態です。たとえば各事業部にそれぞれ営業部がある(=分権化)一方で、会社全体の中に大きな営業本部が存在する(=集権化)といったイメージです。別の例でいえば、事業部ごとに採用を担当する人事部がある(=分権化)一方で、会社全体には大きな人事本部がある(=集権化)ということです。

経営管理の成否は、集権化と分権化との調和にかかっている
「グローブの法則」を提示したい──「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」

キーマンには兼任させよ

そしてもう1つの重要なファクターは、二重所属制度、つまり日本的に言えば「兼任」です。

たとえば、あるエンジニアが事業部とシステム本部の両方に所属し、事業部長とシステム本部長の両方の指揮監督下に置くというものです。これにはかなり驚かされました。というのも、外資系企業の多くは、兼任やレポートラインが複数に分かれることを避ける傾向にあるからです。しかし著者はこの問題について明快に答えています。

人はもっと単純明快なものを求めようとするだろうが、現実にはそんなものは存在しない(中略)インテル社がハイブリッド組織になったのは、あいまいさが気に入っているからではない。他のこともすべて試みてはみたが、他のモデルでは、あいまいさこそ少ないものの、とにかくうまく機能しないのである。ハイブリッド組織とそれに付随する二重所属制度の原則は、民主主義と同じで、それ自体が偉大なわけではない。たまたま、組織化が必要などの事業においても、それらが最善の方法であるにすぎない
🚨厳密な機能別編成組織(機能別組織)= 概念的には明確だが、社内の同種のグループを、ほんとうに顧客が望むものがわからないままに市場から引き離してしまいがち
🚨高度に使命中心型の組織(事業部別組織) =明快にピシッと規定された所属関係と明確であいまいさのない目標を絶えず持つことはできるかもしれないが、その結果生じる物事の分断状態は、非能率と、全体としての不充分な業績をもたらす。

つまり、

💡最大限のアウトプットを出す組織を作るためには?
機能別組織でも事業部別組織でも、結局はうまくいかず、正解は組織をハイブリット型にして、それぞれのキーマンを兼任させる以外にない

というのが結論なのです。

最大限のアウトプットを出す人員を育てるためには?

最後の第4部では、「育成」について議論がされます。

High Output Management では、マネジャーの最も重要な仕事は、部下から最高の業績を引き出すことです。それに対してマネージャーが行えることは、「訓練」と「動機付け」です

👍遂行実績を向上させるための方法
1. 各人の能力を上げる
2. 各人のモチベーションを上げる

著者は、マネージャーができることは、もともとモチベーションのある人が活躍できる環境を作ることであり、モチベーションを高めることではないと断言しています。そして厳しい書き方のように感じますが、モチベーションが上がるということは遂行行動(つまりアウトプット)がよくなることであり、アウトプットが変わらないモチベーションの変化など何の意味もなさないと断言しています。

人間のモチベーションという「ブラックボックスに切り込んだ窓」になることはあるが、それはわれわれの望む成果でもアウトプットでもない。われわれが望むのはある特定の技能水準における遂行業績向上ということである。

これだけ読むと、著者はモチベーションを上げるための行動をすることは無意味であり、モチベーションが高い人の能力を訓練によって上げるだけで良いという理論を展開しているように見えますが、そうではありません。モチベーションそのもののコントロールなどはできませんが、それを動かすための材料となる「欲求」は制御できると言っています。

モチベーションは〝欲求〟という観念に密接に連結しており、それは人々に〝心理的動因〟を起こさせ、やがてそれが〝モチベーション〟になる。

つまり、マネージャーはメンバーの「欲求」を正しくコントロールすることで、その生産物であるモチベーションに対して影響を与えることができるのだと主張しています。

人間の欲求はマズローの理論で理解する

著者はマズローの理論によって欲求を構造的に理解し理論を展開しています。

マズローによれば、まず衣食住など生理的な欲求、安全といった人間の基礎的なの欲求がベースにあります。これらが満たされることは必須です。

帰属意識への欲求は次に優先されます。どこかの組織に所属していたいという欲求から心理的動因が起き、モチベーションが起きるわけです。しかし、これらで誘発されるモチベーションは、朝起きて会社に来るモチベーションであり、高いパフォーマンスを出したいと思わせるモチベーションは、残りの2つに依存します。

次に生まれるのは尊敬や承認への欲求です。たとえば総会で表彰されたい、昇格したい、他人より給与を上げたいなどはここに入ります。たしかにこれらの欲求によって人間は高いパフォーマンスをあげたいと思う心理的なモチベーションが生まれます。

しかしこれまでの4つの欲求には最大の問題があります。それは一旦実現するともやは刺激にならないということです。

1. 生理的欲求:衣食住を最低限確保される
2. 安全 / 安定に対する欲求:病気になったり子供が生まれたりした時も安心して働ける
3. 帰属に対する欲求:この組織の一因でいたいという欲求
4. 尊敬 / 承認に対する欲求:他人から尊敬されたい、一目置かれたいという欲求

😱課題: これらの欲求は一旦実現するともやは刺激にならない

しかし、最後の「自己実現への欲求」だけは、仮に実現しても、より高みへと人を推し進めてくれるのです。たとえば、毎日何十時間も練習する音楽家は、たとえ他人から天才と言われても自分の能力に満足することなく練習を続けます。それは自己実現への欲求から来るモチベーションなのです。

5. 自己実現に対する欲求: 自ら設定したゴールを超えたいという欲求

👊仮に実現しても満足することはなく、より高い目標へと自分を推し進めてくれる

つまりマネージャーは、メンバーが自己実現に対する欲求によって自らを刺激し続けられる環境、つまりモチベーションが自給自足の状態になるところまで早く押し上げることが大切なのです。

金銭的欲求の2つのパターン

メンバーの金銭的欲求には2つのパターンがあります。

💰絶対額の増額を求めている場合
安全性の欲求から生まれている→動機付けに最低限必要
💰他人との比較やマーケット比較から増額を求めている
承認の欲求から生まれている→お金はあくまで1つの尺度でしかない

欲求を正しく理解すると、同じ金銭的欲求でもまったく違う欲求から来るものであることがわかると思います。

具体的なマネージメント手法、人事考査、問題社員への対応、面接、フィードバック、給与設定、1 on 1

クライマックスとして第4部の後半からは、非常に具体的なマネージメント論について切り込んで行きます。どのようにメンバーをマネージメントすればいいのか?評価はどうすればいいのか?問題社員が起きた時にどう対処すべきなのか?いい面接とは?いいフィードバックとは?給与の設定はどうしたらいいのか?などについてです。

ここでは1つ1つ紹介しませんが、一貫して「いかにチームのアウトプットを上げるか」という目的に徹底的に沿った理論展開となっています。興味がある方はぜひ本を取ってみてください。

【感想】冷徹に思えるほど徹底的に生産性と成果にコミットした理論展開

アウトプットこそがマネージャーが求めるものであるという徹頭徹尾一貫した主張から、すべての論理が展開しています。正直冷徹にほど思えるほどでした。経営者が真に求めるべきことが書かれているのだと思います。

もちろん、この本のベースが書かれた1984年は、インターネットもなければ、産業構造もまったく異なります。情報流通の速度は無限に速くなり、複製コストは無限に安価になりました。その差は多少なりとも考慮すべきだと思います。しかし、一方で35年前にベースが作られた理論であっても、現在に通じるものが多く書かれていたのも事実です。

この本が名だたる経営者に読み継がれているのは、この本がマネージメントにおける古典であるからだと思います。守破離で言えば長く守られてきた「守」。一読すればマネージメントに関するもっとも重要で核心的な部分を知ることができます。そして、迷った時にも、古典は多くのことを教えてくれます。

きっと近い将来、迷った時にまた手に取ることになる1冊だと感じました。


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