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小倉竪町ロックンロール・ハイスクール vol.23

 北九州市の中央部に位置する中央町に建てられたレインボープラザ(北九州市勤労会館)の地下1階には多目的ホールがあり、学生主催のライヴやダンスパーティーがよく行われていた。今回出演することになった「スプリング・ライヴ」も、うちの高校の2年生が主体になって企画したもので、その中心になっていたヤツが友だちだったのでボクらのバンドも誘ってくれた。
 出演バンドは10バンドでチケット代は100円。しかも日曜日の昼から開演だったので、ライヴハウスのチケットに比べると断然買ってもらいやすかった。主催者から渡された10枚のチケットをそのまま西北女学院のグループに渡したら、すぐに全部で売れたと連絡があったので、追加で5枚手配してもらった。ゲンちゃんも大正女学館の女子にお願いして10枚全部買ってもらったらしいし、セイジくんは3年生に、ショウイチはヤンチャな後輩グループにチケットを売りさばいたようだ。

 出演者はうちの高校の2年生が組んでいるバンドなので、その友だちがたくさん来ていた。チケットをたくさん買ってくれた西北女学院からは1年生と2年生のグループがそれぞれ友だちを誘って来ていた。日曜礼拝の帰りにそのまま来たのか、制服姿の女子もいる。それに加えてゲンちゃん目当ての大正女学館グループも来てくれたし、会場の女子率は高く華やかに感じた。スタジオやライヴ会場での地道な営業努力がこのライヴで実を結んだのかもしれない。
 うちのバンドは6番目、控え室があった上手からステージに出ると西北女学院の女子が最前列に陣取っていて拍手をしてくれた。もちろん2年8組のクラスメイトも前の方に来てくれている。
 友だち同士のライヴという気安さもあり、緊張することもなく、楽しくのびのびと演奏できた。
 アンプ等は個人所有の機材を持ち込んでいたので、“3年生を送る会”の時のようにマーシャルやJCのような高価なアンプはなく、音はチープだったが、その方がうちのバンドには合っているように思った。“3年生を送る会”が終わってからスタジオ練習はしていなかったし、このライヴではリハーサルすらなかったけど、今までで一番バランスが良いように感じた。

「ゲンさ〜ん! キャっ!」
「セイジさ〜ん! セイジさんカッコイイ!」
「マコちゃん!」
 女子の黄色い声援がうれしかった。
「ショウイチ!」
「ショウイチ! コラっ!」
 ショウイチには2年8組や硬派軍団の野太い声援が飛んでいた。
 セットリストはライヴハウスの時と同じだったが、「カモン・エヴリバディ」を演り始めると10人以上の女子が前の方に出てきて踊りだしてくれた。ショウイチもうれしかったのだろう。エンディングの“カモン・エヴリバディ”と連呼するところはショウイチが合図を出してから、3度フレーズを繰り返して終わることになっていたが、その合図がなかなか出なくて、いつもの倍くらい繰り返した。
「ゲンちゃん!」
「セイジくん!」
「マコト!」
「ショウイチ! コラっ!」
 曲が終わるたび声援と暖かい拍手…。
 しかも「ジョニー・B・グッド」では、サビの「Go! Go! Go Johnny! Go! Go!」のところを踊っていた女の子たちが一緒に歌ってくれて気持ち良かった。
(えっ! オレたち急にどうなっとると?)
 すっかり4人とも舞い上がってしまい、アンコールの声が聞こえるとすぐにステージに戻り、2曲も演ってしまった。
「ビートバンドからダンスバンドに進化できたかの…」
 ショウイチがうれしそうに楽器を片付けているボクらに言った。
 ライヴ終了後に、PAを手伝いに来ていた北九州ロックンロール界の重鎮ジェフさんから褒められたとゲンちゃんが喜んでいた。
「今日のバンドの中では、お前らが一番マシやった」
 ボクもニュー・ドブのヒデさんからお言葉をいただけてうれしかった。

 ただ、“3年生を送る会”が終わった翌日、セイジくんからうちのバンドを辞めたいと言われていた。小定期的にライヴハウスに出演している人気バンドから誘われたので、そのバンドで入りたいそうだ。
「オレ、本気で音楽をやりたいけん…」
 そう言うセイジくんを止めることはできなかった。
 セイジくんがいないノイズは考えられない。ライヴハウスの出演予定は全て白紙になった。
 しかも活動停止を知った先輩バンドのベーシストが、ゲンちゃんを新しく組むバンドに誘ってきた。
「オマエは才能があるけん、ルースターズの池畑さんに近づけるように、オレがお前を鍛えちゃる!」
 ゲンちゃんはそう誘われたので迷っていると言っていた。
 セイジくんがいなくなった。ゲンちゃんもいなくなる…。
(せっかく楽しくなり始めたのに…)


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