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取り残された子供達の社会的養護の実装 〜フェアスタート×マイスター高等学院〜

今の世界は課題に満ち溢れています。
日本に数ある課題の中でも非常に深刻な問題は人口減少ですが、日本の若者の死因の第一位は自死、せっかく宿した命を生まれる前に絶たれる件数は16万件とも言われます。生きるに値しないと判断される社会が問題の悪循環を生み出しています。
また、日本も経済格差が顕著になり、貧困に喘ぐ人が確実に増え続けています。企業は人を守ることよりも、人を必要な時だけ使って、要らなくなったら切り捨てる方が儲かると、正規雇用、終身雇用を疎み、社会保険や厚生年金等の社会保障の枠から外れて暮らす人は毎年10万人単位で増加していると言います。
そして、世の中の歪みは弱い者にその皺を寄せます。近年、児童虐待が爆発的に増え続けているのは複雑に絡み合う社会課題のアウトプットではないかと私は考えています。

日本の悲しい現実

貧困は人の心を荒めます。本当はお金なんかよりも大事なモノやコトはゴマンとあるはずですし、誰もがそれを知っているはずなのに、金銭的、物欲的な価値観に縛られ、それが手に入らないことに対して不安を募らせ不満を抱きます。結果、近視眼的に目の前の事、自分の事、目先の金ばかりに執着し始めます。思い通りに行かないことに怒りを覚え、行き場のない、やり場のない感情が暴力となって弱い者に向けられるのは想像に難くありません。
愛する子供に対して親が虐待を繰り返すのはまともな暮らしを営んでいる人には考えられないことだと思いますが、本人も意識しないままにその様な行為に及んでしまう親が加速度的に増え続けているのが悲しいですが、今の日本の現実です。

根本解決と対処

社会課題は社会の構造が生み出します。罪を憎んで人を憎まずと言いますが、本来、我が子を苦しめたい親がいるはずがありません。爆発的に増えている児童虐待の問題は日本の社会構造にその根本的原因があり、そこから正さなければ根本的解決を望むことは出来ません。しかし、同時に根本解決はスピード感を持って進められるほど単純ではなく、政治、経済、社会、そして教育等々、多岐にわたる様々なファクターの課題の本質を抽出してそれぞれを手当しながら全体との連携が必要です。荒み切った人の心を変えるのは並大抵ではありません。そんな解決不可能だと思えるような社会システムの改革も進めなければなりませんが、同時に考えるべきは今、目の前で起こっている問題への対処です。今日も何処かで悲しみ、苦しんでいる子供がおり、救いの手が差し伸べられるのを待っているのです。

新たな社会課題の萌芽

子供が親に養われ、育てられるのを家庭的養護と言います。児童虐待の爆発的な増加はそのごく当たり前だと思われていることが行われていない事実を示しています。そんな子供達は家庭ではなく社会が養うしかありません。これを社会的養護と言い、児童養護施設に子供達を引き取って育てるシステムが存在しています。
近年、児童虐待が急増しているのは社会的養護のニーズが高まっていることに他なりませんが、少子化の時代にあって施設を新しく創設する機運はなかなか生まれません。学校が次々に廃校になる時代に児童向けの施設を増やすのは本来、必要がないはずだからです。しかし、現実として家庭で育てられなくなった、もしくは家庭にいるべきでない児童が増えている現実があり、今後、また新たな大きな課題として取り上げられるようになると考えています。

社会的養護の担い手は社会

児童養護施設に入所させるべき子供が増えていて、入所する施設は増えない。この問題の単純な解決は入所する児童の選別を行い、優先順位の高い児童に絞るしか無くなってしまいます。もっと酷いのは先着順で締め切ってしまい、児童相談所のケアをつけながら、虐待しているとされる親元に戻すしかなくなります。私は児童虐待の対応について詳しくは存じ上げませんが、数字だけ見ると、今の現状も物理的にそんな運用になってしまっているのでは無いかと思います。
子供は国の未来です。社会的養護の本質は施設とその職員が行うだけではなく、社会全体で取り組むべきであり、全ての大人はこの問題に対して、知らぬ顔をして無関心を決め込むべきではなく、自分等に出来る事を考えるべきだし、行動に移すべきです。

若者目線の雇用体制の整備

児童養護施設では殆どの児童が18歳になれば、施設を出て自立する様に促されます。大学に進学すれば施設に残ることも可能ですが、10%もいないのが現実です。施設で集団生活を送っていた子供が高校卒業と同時に就職し、一人暮らしを始める。いきなり社会の荒波に小舟で送り出されるような状態で、就職先への定着率も悪く、社会に馴染めないと施設に戻ってくる若者も少なからずいるとのことです。
社会を構成している私たち事業者に出来ることは、そんな若者等をしっかりと受け止め、安心出来る安全な場を提供しながら養育、育成すること、未来を標榜でできる職場環境を整えて、将来への光を見せてやることではないかと思います。今後、あらゆる業界で人手不足が深刻化すると言われる中、自社都合だけの採用ではなく、若者等に喜ばれる雇用体制を整えて迎え入れる姿勢が必要だと思うのです。

ケアリーバーの社会への最終学歴

離職が当然の就職活動

児童養護施設から社会に出ていく子供達の為の就職先をマッチングするプラットフォームをNPO法人フェアスタートサポートが運営されています。現在、全国で約250社の事業所が登録しているフェアスタート・パートナーのサイトは、児童養護施設から出所する若者を受け入れると意思表明した企業が集まっています。このサイトを養護施設の職員さんや子供が見て、会社見学やインターンシップで就職する会社に触れることで、定着し易い環境を整えておられます。サイトには学生の職場への定着率50%以上と書かれています。
この定着率を見て、気付かされるのは、施設を出所した若者は就職後、1年以内に離職してしまうのが当たり前になってしまっていることで、もっと企業側は丁寧な受け入れを心掛けるべきではないかと感じた次第です。

ケアリーバーの社会へのソフトランディングを可能にする機関

私が世話人を務めている経営実践研究会で昨年4月に立ち上げた社会変革プロジェクトの一つ、マイスター高等学院は現場でのOJTで職能と社会人的基礎教育を行いながら高校卒業資格を取得できるキャリア教育の高校です。学生は3年間、給与も得ながら、会社の先輩について仕事を覚えます。教育係の先輩社員は教育コーチングの資格取得が義務付けられており、コーチングやメンタリングで生徒に寄り添いながら技術的な指導を行います。
生徒は3年間で見習いの過程を終えて、戦力として就職することで、大卒以上の給与を手にすると共に、未来の幹部候補生としてのキャリアパスを手にします。毎年の面談時に自分自身の成長を確認し、キャリアを上げていくことが出来る人事制度を整えるているのもマイスター高等学院の大きな特徴です。児童養護施設で暮らす子供にとってはまさに社会にソフトランディングできる体制を整えており、高校卒業後の定着率向上に大きく寄与できるシステムだと確信を持っています。
※ケアリーバーとは社会的養護を受けたことがある人

マイスター高等学院のスキーム

ディンセントワークの社会実装コミュニティー

そのマイスター高等学院を運営する一般社団法人マイスター育成協会には、現在、60社を超える会員が集っています。高校を事業として取り組む正会員だけでなく、その準備段階の準会員や協賛頂いている賛助会員も含みますが、高卒の若者の受け入れ先としては殆どが機能する事業所であることから、現在、全メンバーに対して、フェアスタートパートナーへの登録を促しています。
家庭的養護を受けられず、取り残された子供達の社会への旅立ちを支援するコミュニティーとして今後、一般社団法人マイスター育成協会がスタンダードになっていきます。事業所都合の雇用ではなく、若者等の立場に立ったディンセントワークと言われる誰もが人らしく、働きがいのある職場環境を整える志の高い事業者が集まることで取り残された子供達に対して社会としての養護を果たせるようになると考えていますし、その社会実装を叶えなければならないと強く思っています。

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人を人としてみる。
建築、地域活動、教育の分野で真の民主化を目指す活動を行っています。


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