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四方糾える縄の如し 職人危機回避の原則論

波乱含みの幕開けとなった2024年も今週になって本格的に動き始めました。
年の初めは誰もが気持ちを新たにして、今まで出来ていなかったことに挑戦する気概を持つと思います。私は建築業界ではまだまだ珍しい職人の育成や、組織改革をテーマにした研修会や講演を行なっている関係で、毎年、この時期に多くのお問い合わせを頂きます。
今年はとみにその傾向が強く、年明け早々から毎日の様に訪問を受けたり、オンラインによるmtgや事業説明を行なっています。そして、お会いした方全てが私が理事長を務めている職人育成のキャリア教育の高校の運営団体、一般社団法人マイスター育成協会と、世話人を務めている経営実践研究会に合流し、共に活動したいとお申し出頂いています。
10年以上前から危惧されてきた建築業界の職人不足問題、その他の業界でも圧倒的な人材不足が表面化し、喫緊の課題として認知されてきているのを新しい年を迎えてこれまでに無いほど強く感じています。

職人危機顕在化の証左

本日は某国内最大大手の住宅建材、機器メーカーのSV(スーパーバイザー)向けの研修会にオンライン登壇をする機会を頂きました。昨年末にそのメーカーフランチャイズのビルダーや工務店向けの代理店を営まれている経営者向けに講演した「令和モデル経営と人材育成」のテーマをもう少し深掘りして要諦を再度解説してもらいとの依頼でした。
住宅建材、機器の販売店は地域のビルダーや工務店をサポートする立場にあり、メーカーは販売代理店と共にそれらのサブユーザーの課題解決に取り組む立場だということで、インサイトを良く理解しておきたいとの趣意です。
大手メーカーのSVばかりを集めて私が職人育成、職人不足解決のスキームを説明することは非常に稀なことですが、これもまた、職人不足がボトルネックになって業界全体の業績が低迷することへの危惧であり、既にそれが顕在化していることの証左です。
しかし、残念ながら、職人危機に早い、上手い、易い、牛丼の様な解決策は存在しません。それは長年の業界の悪習が生み出した根の深い問題だからです。

利益を追い求め、本質を切り捨てた結果

現在の建築業界で誰もが求めているのは、如何に早く、簡単に、手間とコストをかけずに職人不足問題を解決できるかです。モノづくりの仕事をしているはずの建築業者は本来、モノづくり人材の育成を行なって然るべき。そんな当たり前のことが非常識になってしまって久しい現在の建築業界では、職人育成も正規雇用しての内製化も殆ど全ての事業所で行われていません。
職人を雇用、育成するノウハウも、それを行う人材もいない上に、職人正規雇用を行うには社会保険や厚生年金など、福利厚生を手厚くするコストがかかります。その原資を生み出せない事業所も少なくありません。全く改善する余地がないのが現状です。
現場でモノづくりを行う職人の重要性は誰もが理解しているにもかかわらず、殆ど全ての事業所がそこに踏み込まなかった最大の理由は、主にコストの問題です。モノづくり企業にとっての生命線であるはずのモノづくり人材の育成、雇用よりも目先の収益を選択して、職人達を個人事業主のフリーランス扱いで経営から切り離しました。圧倒的に知識を持たない職人達も表面的な自由が得られると勘違いしてそれを受け入れました。その結果、誰も職人育成をしなくなったし、できなくなりました。

根本的問題はビジネスモデル

この度の研修会で私が大手メーカーのSVさん達に伝えた内容のインサイトは、職人不足の問題は、若者に入職してもらうことや、職人を集めることではなく、企業としての在り方を見直し、ビジネスモデルそのものを変革、変容させるしかないとの根本的なアプローチです。若者に働きたいと思われる職場にするだけでなく、一人前になった職人達が自分のやりたい、得意な仕事が出来て、経済的な安定、安心を手に入れ、そして世の中の人、地域の方に感謝される、そんな生きがいを持てる事業を行う必要があります。これまでの財務指標のみでの良し悪しではなく、人が生き甲斐を持って働けているか、地域や社会に貢献して感謝されているかが良い会社の指標となるべきで、マイスター育成協会ではそんな経済性と社会性を両立した企業の認証制度、未来創造企業の認定取得を強く推し進めています。

在り方から始めるべし

日本には古くから三方よしの商売観が根付いています。商売は信用と信頼が全て、ビジネスは全てのステークホルダーの幸せの追求を諦めるべきでは無いと、崇高なその理念を日本人の殆どが知っています。世界中にWin−Winの概念を広めた「7つの習慣」で有名なスティーブン・R・コヴィー博士は大の日本好きで、繰り返し日本を訪れて、世界に類を見ない数で存在する日本の長寿企業にその成功の秘訣を学んだと言います。現在の信頼を軸にした原理原則系と呼ばれるマーケティング理論の元は間違いなく日本にあり、コヴィー博士やドラッカー博士の示したマーケティングやマネジメント理論には三方よしの概念が色濃く影を落としています。
三方よしはやり方ではありません。誰も取り残す事なく幸せにする意図を持つ在り方です。持続可能性の高い事業を行うにはこの基本的な理論を理解しておく必要があり、職人育成はその上に立たなければ成り立ちません。建築業界は経営者の今だけ、金だけ、自分だけ思考が職人危機を招いたと知るべしです。

切り捨てて当たり前の思考

自分だけ、自分達だけ良ければ良いとの利己主義をまずは捨て去る、地域や社会に貢献する、課題解決を事業そのもので行う。その様な在り方を明確にすることで、その事業所は存在意義を認められる様になります。職人の採用、育成はそのベースから始めるべきであり、これが出来なければ、よしんば職人の採用が出来たとしても、一人前になって活躍する頃には独立や転職されて全く社内に人的なリソースが蓄積されないままになります。当たり前と言えば当たり前ですが、実際にはこの当たり前に目を向ける事なく、職人を道具の様に観て扱う経営者が建築業界では圧倒的多数を占めているのが現実であり、だからこそ未曾有の職人危機が訪れているのに他なりません。
新年の所感のnoteにも書きましたが、1÷2=0.5との数式に違和感を持たない日本国民は残りの0.5を切り捨て、置き去りにしている事に気づきません。まず、その思考回路から見直しが必要です。

四方糾える縄の如し

私が代表を務めている一般建設業の事業所、株式会社四方継では、4年前に脱建築を掲げて事業ドメインを転換しました。地域の住民の安心と安全、快適な暮らしをつくる建築は非常に重要な役割を担うやりがいのある仕事です。しかし、設立20周年を機に、自分達が地域に生かされて来た事実に正面から向き合い、地域の活性化に貢献する企業へと生まれ変わりました。
それは、事業は四方八方の人々と深く、そして思いやりの心を持って関係性を結ぶことこそが本質であると気付いたからです。四方の人をつなぎ、お互いに支え合うコミュニティ、もしくは共同体を構築する事こそが、我々が本質的に向き合う事だと事業も目的を再設定しました。
四方糾える縄の如く。立場や属性を越えて、多くの人と人が深く強く信頼で結びつく事こそが世の中に溢れかえる社会課題も、企業が抱えるありとあらゆる問題も解決する根本にあるのは誰でも理解出来ると思います。職人危機の問題も同じ文脈で扱わなければ根本解決に至ることは無い。そんな風に今回、かなり強めの口調でSVさん達にお伝えしました。少しでも本質に気付き、在り方を見直す企業が出て来たら嬉しい限りです。

四方循環のリング

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