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卵が先か鶏が先かの答え

最近、クライアントの経営者にお誘いを受けて担当スタッフと一緒に食事をする機会が良くあります。いわゆる接待するという感じではなく、食事をし、酒を飲みながら経営談義をする場であり、担当者を含め、自社がクライアントからどの様に見られているかをリアルに体感出来る貴重な機会だと感じてお誘いを受ける度に喜んで参加しています。

経営者が誰しも持っている迷いと悩み

私は建築事業を営む会社の代表を努めておりますが、はっきり言って、建築の実務には殆ど関わっておらずスタッフに任せています。そんな私を誘って食事に行こうと言って下さる方は建築の実務的な事ではなく、私達の事業全体、若しくは私個人、また私の発信する情報に興味を持って下さっているのは間違いありません。もちろん、好意的な意味で。
そんな方々との時間は控えめに言っても最高で、非常に楽しく有意義な時間です。昨夜もクライアントに新長田の焼き鳥の名店「かね正」をご予約頂いて担当の大工と一緒に伺いました。話題の中心は、世の中の為になる事業をしたいと思っているが、同時に収益を上げるのは必須。そのためにはコストを削り、マーケットの動向を注視して受け入れられる価格帯でのローンチが必要で、世の中の消費や志向が変容し競争が激しくなる一方の今の環境では非常に難しい、との殆どの経営者が抱える悩みについてでした。

まず、自ら生み出している社会課題に目を向ける

そのクライアントはアパレルメーカーを営んでおられ、数年前からD2C(Direct to Consumer)と言われる直接小売の事業を立ち上げられておられます。しかもペットボトルの資源再生で作った糸で靴などの製品を製造するエシカルな商品を中心とした非常に先進的な取り組みをされておられ、消費者への環境問題への意識を高める意味で非常に意義深い事業です。それでも、あくまでアパレルのカテゴリーでの事業なので見た目のデザインや実際の履き心地、そして価格帯などが重要なファクターとなるのは当然で、非常に難しい分野でのチャレンジなのだろうと私は以前から感じていました。
現在は生産現場での労働環境の改善に取り組まれているとも話されていて、社会課題解決の前に自社から社会課題を生み出さないとの姿勢は本当に素晴らしい誠実な経営者だと深く感銘を受けました。

現代の日本の残酷な事実。

そんな高い意識を持った素晴らしい経営者でも、事業を通して社会の課題を解決することの難しさを痛感し、迷いや悩みを持っておられます。特に昨今の円安は海外から資材を購入する製造業にとっては甚大な損失を与えていると共に、素材開発、生産における日本の弱さをあからさまに露呈してしまったと嘆かれていました。それは同時に収益が上がらなくなると事業は破綻するとの当たり前すぎる原則と、少子化、労働力の激減、需要の冷え込み、格差の拡大、環境問題、国際紛争、エネルギーの高騰、政治の停滞など、様々な社会課題が複雑に絡み合う、先行き不透明な今の時代、未来に安定的な収益を見込める事業など皆無に等しいという残酷な事実への認識でもあります。そんな状況で、すぐに収益に結びつかない事業に力を注ぐのは簡単なことではないのです。

答えがない卵が先か、鶏が先か問題

現在の閉塞感漂う日本が、この厳しい状況を打破して、誰もが安心して幸せを感じられる世界へと成熟を進めるには、一つずつの課題を確実に改善、解決していく他に選択の余地はないのは自明の理。しかし、厳しい経営環境にあるなかで収益に直接結びつかない社会課題に対する取り組みを進めるのは非常に困難です。こうしてみると完全にパラドックスに迷う込んだ、いわゆる卵が先か、鶏が先か問題のような答えのない問いような印象を受けますが、本当に大事なのは一体何なのか?目指すべき世界はどの様なものなのか?を冷静に、深く考えれば自ずと答えは出てくると思います。未来に対するアプローチを先送りにして、今の刹那ばかりに集中すると社会課題は増幅の一途を辿り、悪循環が回ることで取り返しのつかないことになるのは目に見えています。

人気ラーメン店での疑問

実は同じようなことを、ランチに立ち寄ったラーメン店でも考えていました。そのお店はとことん煮込んだスープにこだわった人気店でお昼時は常に行列ができる人気店でした。オリジナリティー溢れる美味しいラーメンを提供されて、満足して店を後にしましたが、特筆すべきはそのお店の店員さんの丁寧な接客でした。最近のラーメン店では水をボトルに入れて客席に並べてセルフサービスにする店が圧倒的に増えましたが、この店では店員さんが忙しい中、水を注いで回っていました。言葉遣いが丁寧なのはもちろん、退店する際にはドアマンよろしく扉を開けて外まで見送って頭を下げる徹底ぶり、おもてなしの心が伝わる接客でした。そこで私が疑問に思ったのは、人気店でしっかりと収益が上がっているから、時間と手間をかけた接客ができるのか?それともおもてなしがしっかりしているから人気店になったのか?との問いです。その答えは分かりませんが、店主、スタッフの客を喜ばせたいとの意図は、ラーメンにも接客にも現れているのは確かで、想いを行動に現しているのは間違いないと感じました。

はじめに想いありき

卵が先か、鶏が先かのパラドックスに答えはないと言われます。しかし、私が思うのは、まず初めにあるのは「想い」だということです。世の中を少しでも良くして次世代に継ぎたい、来てくれたお客様を幸せな気分で帰ってもらえるようにもてなしたい、誰かに喜ばれたい、助けたい、そんな誰しもが持っている良き心を行動に表すことから、世の中の課題は少しずつ解決に向かうと思っているし、信じています。決して、誰も自分だけ良かったら良いと思っている訳では無いと思うのです。このように考えると、生まれる前で何も考えない卵には意図や意思はなく、大人である鶏がまず意を決して物事に取り組むしかありません。事業を継続するには目先の収益は大事です、しかし、それ自体は目的になり得ないことをよく理解して、多くの事業者がほんの少しずつでも世の中を良くしたいとの想いを持ち、行動に移すしかないと思います。そんなことを考えた焼き鳥店での食事会でした。素晴らしいクライアントに恵まれていることに心から感謝するばかりです。I社長、ごちそうさまでした。

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「人、街、暮らし、文化を継ぎ四方良しを実現する」
それを私たちの存在意義として事業を行なっています。

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