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なぜ人はフェイクニュースや陰謀論に騙されるのか?

フェイクニュースや陰謀論は今に始まった話ではありません。むしろ、歴史上、ずっと私たちと共にあったはずです。

フェイクニュースや陰謀論といった、「嘘」に人が騙される理由はいくつかあり、そして、誤解もあります。そこで、今回は以下の2つについて説明します。


①「人間にとって、複雑な事実よりも、わかりやすい物語のほうが理解しやすい」
②「フェイクニュースを広める人の多くは、善意でやっている」




①「人間にとって、複雑な事実よりも、わかりやすい物語のほうが理解しやすい」

 多くの人は、人間は賢いと誤解しています。世界について何でも知っていて、宇宙船を打ち上げるほどの技能も携えていると。 
 しかし、実際には、すべてを把握している個人はいないどころか、ほとんどの人は、チャックやトイレの仕組みすら理解していません。人は、実際よりも賢いと思う傾向にあります(参考)。

 さらに、人間の脳は20万年前の狩猟採集民のころとたいして変わっていないため、データ・統計・科学的知識よりも、わかりやすい物語のほうが理解しやすいです。
 だから、多くの人がアニメや漫画を好きになる一方で、M理論や社会脳仮説を容易く理解できる人間はいないし、暗算では、2桁の四則計算ですら難しいのです。



 事実は直感とは違います。 だから勉強が大切だし、自分が信じたいものを、根拠なく信じるのは危ないことです。

 昔、人々は、病気が流行れば悪魔や怒れる神の仕業だと考えました。
 また、世界は、水や火でできていると思っている有名な哲学者もいました。
 しかし、事実は、人間が想像するものとは違い、そして複雑でした。

 病気は細菌やウイルスによって引き起こされ、人間の細胞の構造や免疫、ウイルスのゲノムなどについて詳細にわかるようになったのはせいぜい19世紀以降からです。
 それは、元々、動物の一種の霊長類であり、狩猟採集民である私たち人間には無理もありませんでした。狩猟採集民の目は、小さい物を見る機能を携えていなかったのです。

 また、私たちが見える世界は原子によってなりたっています(逆に言えば、観測できない範囲が宇宙の大半を占めていて、その正体はダークマターとダークエネルギーです)。
 そして、原子は素粒子によって構成されていて、その形状や性質については、実は、今でも科学者によって意見が分かれていて、研究の真っ最中です。




 つまり、人は、世界を、前者のように「物語」で考えがちだけれど、事実は物語ではないので、人間には理解しにくいのです。


 フェイクニュースに騙されないためには、このことを意識したいです。
 たとえば、「コロナは風邪だ」「ワクチンで人が10年後に死ぬ」というのは、事実ではなくても、とてもわかりやすい物語です。
 そして、少なくない人々が、公的機関の情報よりも、こうした「物語」を発信する、疫学の素人のユーチューバーを信じています。ユーチューブやツイッターでは、「コロナウイルスの種類」「RNAの性質」すら全く知らない人が、とてもわかりやすく、危険をあおり、そして誤った情報が広がっています。

 このことはとても懸念されるし、教訓とすべきかと思います。


②「フェイクニュースを広める人の多くは、善意でやっている」

 そして、よくある誤解は、「フェイクニュースを広めるのは、悪い人だ」というものです。
 しかし、これは私個人の考えですが、どれほどの悪行であっても、ほとんどの場合は、本人の善意によって行われているのではと思います。



 私たちのイメージでは、フェイクニュースを広める人は、この画像のような悪者で、「他人に間違った情報を与えて、その人を病気にしたい」と思っているというものでしょう。
 しかし、多くのケースでは、そのような考えで、情報発信をしているようには思えません。むしろ、たいていは、単に誤った情報を信じ込んで、「自分は世界の裏、本当の事実を知ってしまった。政府や専門家は悪者だ。反抗しなければ」と考えているように思います。
 世の中には、他にも信じられないような、人を傷つける言動が見受けられますが、それも本人の中では正当化されているのです。たとえば、部下を罵倒する傲慢な上司は、罵倒を「教育」だと考えているわけです。

 そして、そのうえで私たちが気をつけなければならないのは、「自分が加害者にならないこと」です。
 というのも、人はたいてい自分が正しいと思い込んでいるので、たとえば、誤った情報、考えを強く持ってしまったら、それを払しょくすることは難しいからです。
 フェイクニュースに関して言えば、何が正しく、何が誤っているかを判断することは簡単でない場合も多いため、誰でも誤った情報を信じる可能性はあるわけです。

 このことを知っていれば、それらしい根拠を提示する、手の込んだフェイクニュースにも騙されにくくなるのではないでしょうか。
 わかりやすい話には注意をすること。なぜなら、世界はたいてい人間にとって複雑であるため。このことをぜひ念頭に置いておきたいものです。


【参考にしたい文献】
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリが解き明かす、 世界的陰謀論の虚偽と欺瞞。The New York Times記事翻訳を全文公開|Web河出 (kawade.co.jp)


【加藤の詳細について】

―加藤将馬:著者、講演家、幸福学&ビッグヒストリー研究家

・加藤将馬のウェブサイトはこちら

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