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スマートに女性を誘うのに最適なアイテムは鰤

女性をスマートに誘いたいというのは男の永遠の課題かもしれない。

誘うというのはいわゆる求愛行動であるものの、その形は様々。校舎裏に呼び出して「好きです付き合って下さい」と告白するみたいな青春ど真ん中な誘いもあるだろうし、ホテル最上階のバーで飲みながら「部屋をとってある」とキーをチラつかせるなんてきざったらしいドラマのような誘いもあるだろう。

もしも瞬時に最適な方法が導き出されるならば、世の中に恋愛ドラマなどというエンターテイメントは存在しないかもしれない。様々な方法があるからこそ人は悩むのだ。


4組の加藤は美しい声で鳴く

人間は言葉を使えるのでさりげないアピールも出来るのだが、動物全体に対象を広げると大変だ。オスは求愛行動として大きく羽を広げたり美しい声で鳴いたりしなくてはならない。これが人間だったらどうだろう、思春期の中学生男子がクラスメイトの女子に向かって美しい声で鳴くのだ。上手くいけばいいが問題は失敗した時である。

「オイ、アイツ美しい声で鳴いたぜ」

「ユミちゃんに向かって美しい声で鳴くとは身の程知らずが」

「たいした美しい声だぜ」

失礼ながら男子中学生は基本バカなので間違いなく茶化しのオンパレードが始まる。多感な年頃の少年少女は些細なことで心に傷を負ってしまうので、できるだけスマートに愛を表現したいというのは当然の欲求だろう。


ではどういったものが良い誘い方なのかを考えてみよう。

もちろんその誘いが良いか悪いかなんてことは人によるので、よく聞く「イケメンに限る」なんてのはもはや定番化したネタではあるものの、自分が好意を持っている相手なら何でもいいという心理を表しており言い得て妙である。とはいえ大部分の人が正解、もしくは合格点だと考える解答も存在する。そういったものを求めて人は恋愛ハウトゥ本やデートテクニック特集みたいなものを頼るのだ。

それこそ中学生ならば「好きです」とストレートに伝えるのも悪くはないが、大人の世界にあっては具体的な行動を伴わない誘いはあまり意味がない。多くの場合は好意があることはその前段階で認識しているものなので、好きですかそうですかそれでどうしますかという状況に陥ってしまうのだ。

だからといって己の気持ちを具体的に表現し過ぎるのも良くない。「我性交を所望す」などと言ってしまうストロングスタイルは完全に変態のそれだし、通報されて半径200m以内接近禁止命令くらい出されてしまってもおかしくない。


こういった時に最も無難な解答は“なんらかのレジャーに誘う”である。

「食事に行こう」「映画に行こう」「花火大会に行こう」これらは当然ながら嫌いな相手にかける言葉ではない。レジャーの方がメインであり、共に楽しむ同士を求める場合もあるだろうが、異性を誘い一対一で遊ぶ場合の多くはデートと言われる状況となる。そしてこれらのレジャーへの誘いは断られたところで日程が合わなかった、あるいはレジャー自体の魅力が無かったという体裁を保つことができるため、最も傷つく人が少ない誘い文句であると言える。


しかし男女の駆け引きはそれだけで終わるほど甘くは無い、さらに発展した段階として部屋へ招くというステージが存在するのだ。

「僕の部屋でオトナの花火大会をしませんか」

「あら素敵、今夜はどんなねっとりした花火が打ちあがるのかしら」

などという会話が成立するほど仲が深まっているなら問題無いが、多くの場合はそうもいかない。というかねっとりした花火とかいう女はちょっといやだ。

部屋に招く場合もレジャー戦法が応用できるが、問題はその選択である。

一昔前は「家でDVDを観ないか」という王道の戦法が蔓延っていたが、動画のネット配信が一般的になった昨今、わざわざ家で映画鑑賞という行動はあまり魅力的に映らないかもしれない。むしろDVDなどと口走った日には、おいおいコイツはブルーレイどころかDVDかよ、今どき動画配信サイトにすら加入してないのかとなじられ、さらにはみえみえの口実である家で映画は「我性交を所望す」と同義ととられ200m以内接近禁止命令の危険さえある。うかつな行動が死を招くのだ。


やはりここは家でのイベントも食事関係が最もスムーズである。たこ焼きや餃子などをワイワイ楽しむ◯◯パという文化も定着しており、大皿に大量に盛られた食品もSNS映え満点だ。

しかしここでも対象メニューのチョイスという問題が立ちはだかる。意中のあのコを誘おうという場合、部屋で一対一のシチュエーションでたこ焼きや餃子はいささか大仰である気もするし、匂いも気になる。たこ焼き機やホットプレートの常備があるかも心配だ。家に招くことに成功したはいいがそこであらためてたこ焼き機を調達するなど至難の業、天下のamazonお急ぎ便も明日まで待てと言うことだろう。


選ばれたのは鰤でした

もう正解を発表してしまうが、女性を誘うのに最も適した食材は鰤である。漫画『BLEACH』の別称である鰤で腐女子を一本釣りじゃいとかそういう話ではなく、スズキ目アジ科の海水魚である鰤だ。

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現代日本において鰤は猛烈に優れた食材なのだが、馴染みが無いという方もいるかもしれないのでそのストロングポイントを以下に羅列してみる。


・美味い、脂が乗ったしっかりとした味わいが楽しめる。寒い時期が寒ブリと呼ばれ特に美味いと言われているが夏も普通に美味い、ズルい。

・刺身や味噌漬け、煮ても焼いても美味い、魚料理界でもオールレンジ死角無しで八面六臂の活躍をみせる魚類屈指の受け上手。

・養殖技術の発達によって質の良いものが安価で手に入りやすい。一年を通して品質が安定しているため迷ったら鰤で間違いはない。

・出世魚の代名詞として縁起も良くイベントにピッタリ。ハマチ、イナダ、ワラサ、メジロ、モシャコ、ツバス、どれも鰤の別称。

・血流改善や生活習慣病予防に効果が見込めるエイコサペンタエン酸がとれる数少ない食品の一つ、頭も良くなると言われている。


どうだろうか、ちょっと考えてみただけで5つもの強力な鰤の魅力が明らかになってしまった。これはもうペンタゴンと言ってもいいだろう、無敵だ。

鰤の魅力の前では小手先の恋愛テクニックなど児戯に等しい。

「ウチに鰤がある」

これだけでいい、多くを語らずとも鰤が万事うまく運んでくれる。魚が持つ生臭ささえも夜の男女関係を連想させるメタファーとして機能するシナジーが発生し、欠点さえ長所になるという恋愛全肯定アイテムだ。

恋に恋する年頃の少女のために『ちゃお』『なかよし』『りぼん』といった少女漫画雑誌の付録としてもオススメしたい。誌面では美少女キャラが「今月の付録はみんなの恋愛必勝アイテム、鰤(切り身)だよっ☆」などと紹介するのだ、最高かよ。


いくら魅力的でも見せつけるのは品が無いのではないかと思われる方には「匂わせ」テクニックがオススメだ。ジャケットの内ポケットなどにブリカマあたりをさりげなく忍ばせておくといい。

あの人なんか生臭いなぁと最初は不審に思っていたあのコも、上品に顔を覗かせるブリカマを見た瞬間「素敵ッ!! 抱いて!!」と恋に落ちることを疑う余地は無い。恋愛上級者ならばこのテクニックに「匂わせ」だけでなく、体臭かと思わせた原因が鰤だったことの「ギャップ」、さりげなく演出された「オトナ」、そしてジャケットの痛みを気にしない「リッチ」といった、強力なテクニックが隠されていたことにも気が付いたことだろう。いや、正確に言うとテクニックではなくそれ自体が放つ魅力が結果的にテクニックになっていると表現した方が良いだろう、鰤を持つものは全てを手にすると言っても過言では無い。


恋愛だけではない、冷蔵庫に鰤が常備されているだけで心のゆとりも違ってくる。鰤があると思えば自然と毎日が楽しくなり自信も湧いてくるというもの、全面的にポジティブな効果が期待できる。身体の悪い部分は全部治って仕事も大成功の連続で出世しまくり、異性にもモテモテで宝くじに当たって実家の庭で石油が産出というYouTubeの早口で喋る広告動画みたいな生活もそう遠いものでは無い。そうなると鰤がある冷蔵庫のことはグレートブリテン、ブリタニア、ブリーザ様。などと状況限定の固有名詞をつけて呼んでも良いかもしれない。

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魚類のように潤いのある生活を

ここまで読んでいただいた方は鰤の魅力が伝わったことと思うが、どうか冷静に行動して欲しい。鰤を駆使することで彼女と良い関係を築けることはほぼ確実とはいえ、その先に幸せがあるかどうかはわからない。魅力的なのは鰤であってあなた自身ではない、鰤はきっかけであってその後充実した生活を送れるかどうかはあなたの努力にかかっているのだ。

鰤市場も乱さないよう気を付けて欲しい。毎日朝から並んで買い占める、執拗に問い合わせをする、鰤が無いことを理由に店員を恫喝するなどもってのほかである。現在問題になっているコロナウィルスにも鰤が効くわけではない、どうか勘違いしないでいただきたい。


鰤と共にある生活が真に光り輝くかはあなた次第。さぁ、冷蔵庫をグレートブリテンにしてあのコを誘い、ツヤツヤでヌメヌメの生活を送りましょう。

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