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デッドプール&ウルヴァリン=カナダ政府の秘密兵器!? 「ウェポンⅩプログラム」の謎に迫る!

デッドプールとウルヴァリン。お互いに不死身であるこの二人の対決を描いたコミック『デッドプール VS. ウルヴァリン』が、4月25日頃に発売予定されます。さらに! この夏1番の話題作──映画『デッドプール&ウルヴァリン』──も7月26日に公開。話題に事欠かない二人の人気者を生んだ「ウェポンⅩプログラム」とは、そもそもなんなのか? その背景を、『ベスト・オブ・デッドプール』(『デッドプール VS. ウルヴァリン』と同時発売!)の翻訳と構成を担当した石川裕人氏に解説してもらいましょう。

文:石川裕人

『デッドプール VS. ウルヴァリン』
B5判・並製・176頁・本文4C 定価 3,080円(10%税込)
『ベスト・オブ・デッドプール 』
B5判・並製・144頁・本文4C 定価 2,970円(10%税込)

カナダ軍の秘密兵器「ウェポンⅩ」

アメリカンコミックスの魅力とはなんだろうか。長い歴史と多彩な顔を持つキャラクター。伏線を巡らし、複雑に絡み合うストーリー。西洋絵画の伝統とコミックらしいポップさを感じさせるアートワーク。魅力に感じる点は人それぞれだろうが、後付けと改変を積み重ねた膨大な背景設定に惹かれる向きも少なくないはずだ。日本で言えば、今なお増殖を続ける1年戦争中のガンダムがその例に当てはまるだろうが、マーベルにおける複雑極まりない難解設定の代表例こそ、ウルヴァリンとデッドプールを結びつける「ウェポンⅩプログラム」と言えるだろう。

「ウェポンⅩ」という言葉がマーベルコミックスの誌面に初登場したのは、ウルヴァリンのデビュー号となる『インクレディブル・ハルク』#180(10/1974)。物語序盤、国境を超えたハルクを迎撃すべく、カナダ軍は「ウェポンⅩ」の動員を命じる。その時点ではウェポンⅩの正体は謎であり、雰囲気からすると新型の戦車や戦闘機を思わせたが、同エピソード最後のコマで、カナダの魔獣ウェンディゴと戦うハルクの前に現れたのは、カナダ産の野獣(クズリ)を模した新ヒーロー、ウルヴァリンだった。

ウルヴァリンことウェポンⅩが本格的デビューを果たした『インクレディブル・ハルク』#181(11/1974)。前号では、ハルク出現の報を受けたカナダ軍将校が「ウェポンⅩを動員せよ!」と重々しく命令するので、どんな最新兵器が登場するのかと思ったら、現れたのはウルヴァリン独りという、やや出オチ感もある初登場であった。

ハルク、ウェンディゴ、ウルヴァリンの三つ巴の戦いは、続く#181(11/1974)に持ち越されたが、同エピソードが終了した時点では、個人名がウルヴァリンで、軍のコードネームがウェポンⅩとの印象で、それ以上の詳しい説明はなされなかった。今でこそ、超合金アダマンチウムの爪と骨格に超回復能力ヒーリング・ファクターの持ち主として認知されているウルヴァリンではあるものの、設定が固まるまでには結構な時間を要しており、デビュー当初は口の悪い青二才で、爪はグローブの付属物との認識だった。「ウェポンⅩ」に関しても、謎(Ⅹ)の人間兵器を示す符号にすぎなかったのである。

ウルヴァリン、X-MENのメンバーに

その後、カナダ軍と縁を切ってX-MENに加入したウルヴァリンは、『X-MEN』#98(4/1976)において、爪は出し入れが可能であり(それまでは常に展張した状態だった)、同#116(12/1978)では超回復能力の片鱗を発揮したものの、どうやって金属の爪を手に入れたのか、それが生来のミュータント能力なのか、後天的なものかは明かされないままだった。

その後の『X-MEN』#109(12/1978)で、ウルヴァリンの所有権を主張するカナダのスーパーエージェント、ウェポン・アルファが登場。アルファが所属するカナダ政府の防衛機関デパートメントHとウルヴァリンの過去の因縁が示唆された。

『X-MEN』#109(12/1978)で、いかにもカナダの秘密兵器といった風情のウェポン・アルファが、勝手にX-MENに移籍したウルヴァリン/ウェポンⅩの奪還に登場。ウルヴァリン誕生の裏には、政府絡みのヤバい過去があると示唆された。

その後も、ヴィンディケーターと名を変えたウェポン・アルファは、仲間のアルファ・フライトと共にウルヴァリン奪還を試み(『X-MEN』#120-121(4-5/1979)での出来事)、ウルヴァリンも同チームに加わるはずだったことが明らかになったものの、爪を獲得した経緯は謎のままだった。

ウルヴァリン奪還に失敗したウェポン・アルファは、『X-MEN』#120(4/1979)で、今度は仲間のアルファ・フライトと共にX-MENを急襲。カナダ政府直属のヒーローチーム、アルファ・フライトは、後に独立誌を獲得する人気チームに成長。これもウルヴァリン効果か。

その後の『X-MEN』#126(10/1979)において、爪だけではなく骨格までもがアダマンチウム製であることが示され、続く同#139(11/1980)で、かつてのウルヴァリンは、衰弱してロッキー山脈の山中を彷徨っていたところをヴィンディケーター夫妻に保護され、デパートメントHに加わったとの説明と、何らかの組織がアダマンチウムを移植し、彼を人間兵器に変えたという過去が明かされた。

ヴィンディケーターことジェームズ・ダグラスと妻のヘザーは、ウルヴァリンにとって命の恩人。遭遇時、野獣のようだった彼は、夫妻の下で人間性を取り戻す。だが、ジーン・グレイ同様、“他人の女”に弱いウルヴァリンは、ややこしいことになる前にデパートメントHを辞して、X-MENへ。

誕生から6年を経てようやく基本設定が整うあたり、ネタを小出しにしていく(時に結局、出しそびれる)ライターのクリス・クレアモントらしいと言えばらしいが、ウェポンⅩの詳細が明かされるまでには、それからさらに10年もの年月が費やされることになる。

明らかになる数々の秘密

アンソロジーシリーズ『マーベル・コミックス・プレゼンツ』#72-84(3-9/1991)に掲載された「ウェポンⅩ」がそれで、米政府とカナダ軍の秘密機関デパートメントKが共同で秘密計画「ウェポンⅩプログラム」を始動(時代的には、ファンタスティック・フォーらの誕生の少し前)。その被験者に選ばれたローガン(後のウルヴァリン)は、全身の骨格をアダマンチウムで覆う過酷な移植処置を受けることになる(この施術に耐えるには、彼のヒーリング・ファクターが不可欠だった)。

『マーベル・コミックス・プレゼンツ』#79(6/1989)より、アダマンチウム移植手術の後、徹底した洗脳処置を施されているローガン。同誌は、短編4~5話構成で隔週刊という珍しい試みが特色だった。とはいえ、X-MEN人気が顕著だった時代が時代だけに、ほぼ毎号、ウルヴァリンあるいはX-MEN関係者が登場していた。

物語は、洗脳に抗って暴走したローガンが研究施設を破壊し、雪山に消えるところで終わるが、そんな彼を発見したのがヴィンディケーター夫妻であり、偶然とはいえ、ローガンの身はデパートメントKからデパートメントHへと移る結果となった。

こうして真相が明かされてからは、それまでの秘密主義が嘘のように続々と設定が積み重ねられていく。例えば、ローガンは拉致される以前からデパートメントKと関わっており、ミュータントで構成される隠密部隊「チームⅩ」の一員としてスパイ活動に携わっていたという(後の宿敵であるセイバートゥースもその一員)。彼はその実績からウェポンⅩプログラムに抜擢されたが、ローガンの暴走により、プログラムは終了を余儀なくされる。

チームⅩ時代のウルヴァリン。後のウルヴァリン、セイバートゥース、マーベリックから成るミュータント・スパイチームとの設定。黒のスーツにゴールドの装備と、スパイにしては目立ち過ぎな印象だが、見栄えがするのか、アクションフィギュアは日本でも「スパイウルヴァリン」として発売された。

その後、デパートメントKは独自にウェポンⅩプログラムの再開を決定。この第二次ウェポンⅩプログラムの被験者の一人が、後のデッドプールである傭兵のウェイド・ウィルソンで、全身をガン細胞に侵された彼は、ローガンのヒーリング・ファクターの移植により一命を取り留める(ただしガンが治ったわけではなく、組織が死亡するそばから再生している状態)。同計画ではウィルソン以外にも、戦場で失った両手足をサイボーグ化した新たなウェポンⅩ(ケイン)など複数の被験者が存在したものの、失敗例の多さからまたも閉鎖の憂き目に遭う。

デッドプールは、誌面への2度目の登場となる『X-フォース』#2(9/1991)で、第二次ウェポンⅩプログラムの産物である新ウェポンⅩ(ケイン)と対戦。二人が既に顔見知りだったことから、デッドプールもまた同計画に関係していた過去が示唆された。

その後、ウルヴァリンの抹殺とミュータントの強制収用を目的とする第三次、ハルクとウルヴァリンを融合させたウェポンHを生み出した第四次ウェポンⅩプログラムが遂行されたが、ミュータント国家クラコアの成立と共に、プロフェッサーⅩによって廃止された(ウルヴァリンのクローンであるX-23も、ウェポンⅩプログラムの派生計画で誕生したとされる)。

なにかと因縁のあるハルクとウルヴァリンを融合させたウェポンH。ハルクの肉体にウルヴァリンの爪と骨格を持つという最強キャラに間違いないのに、それほど目立っていないのがコミックの難しいところ。小社刊『ウォー・オブ・ザ・レルムス』にも(本当に)チラッと登場。
2017年の映画『LOGAN/ローガン』でも話題になったX-23。ウルヴァリンの再現を意図したが、被験者がアダマンチウムの結合処置に耐えられないため、ウルヴァリンのクローン化に切り替えたものの、Y染色体の回収に失敗したため、女性として誕生したとの回りくどい設定。まだ成長期なため、結合処置は手足の爪のみ。

「10番目」の計画

と、ここまでウェポンⅩプログラムの流れを追ってきたが、実はウェポンⅩは数あるプログラムの一つにすぎない。初登場以来、ウェポンⅩの「Ⅹ」は、謎を意味するⅩだと思われていたのだが、2002年にグランド・モリソンが『ニューX-MEN』誌で明かした設定によれば、「Ⅹ」は「10番目」を表しており、1945年に開始された「ウェポン・プラス・プログラム」の第10次計画がウェポンⅩプログラムだというのだ。10番目というからには、それ以前に9つのプログラムが存在したことになり、以降、それらの設定が起こされると共に、様々な既存のキャラクターが計画に組み込まれていく。

以下に、これらウェポン・プラス・プログラムの概要をまとめよう。

ウェポンⅠ:1941年に米陸軍とFBIが実施した超人兵士製造計画「プロジェクト・リバース」を指す。超人兵士血清の投与とヴァイタ・レイの照射により、ひ弱な青年スティーブ・ロジャースを超人キャプテン・アメリカに変えた。1945年のウェポン・プラス・プログラムの開始時に、遡って「ウェポンⅠ」と命名された。

1941年に誕生したキャプテン・アメリカが、60年の時を経てウェポンⅩプログラムと結びつく。これこそが“後付け”設定の醍醐味。プロジェクト・リバースの詳細は、小社刊『ベスト・オブ・キャプテン・アメリカ』を参照。

ウェポンⅡ:別名プロジェクト・ブルート・フォース。動物を兵器化する実験が行われ、様々な動物をサイボーグ化したブルート・フォースを生み出した。

マーベル側から玩具会社に売り込むべく企画された『ブルート・フォース』#1(8/1990)。乗り物までデザインが用意されたものの、採用ならず。マーベルユニバースの一部なのかも怪しかったが、2019年になって、ウェポン・プラス・プログラムの一環だったとの設定が後付けされた。

ウェポンⅢ:冷戦時代、皮膚を自在に操るミュータント、ハリー・パイツァーの能力を増強。対ソビエト向けのスパイとして活用した。

ウェポンⅣ:別名プロジェクト・サルファー。失われた超人兵士血清を再現すべく、SO-2血清を開発したものの、血清を自らに投与した開発者のテッド・サリスは、怪物マンシングに変身してしまう。

マーベルを代表するモンスターヒーロー、マンシングもウェポン・プラス・プログラムの一部に。意外な人選にも思えるが、そもそも超人兵士血清の再現を目指したキャラクターなので、キャプテン・アメリカのプログラム入りに伴い、必然的に統合された。

ウェポンⅤ:別名プロジェクト・ヴェノム。S.H.I.E.L.D.が主導。ベトナム戦争中、氷河から発掘されたシンビオートとの融合による超人兵士の製造を模索した。

ヴェノム(エディ・ブロック)の誕生のはるか以前、ベトナム戦争中にシンビオートの兵器化が試みられていたというのが、ウェポンⅤの注目ポイント。計画凍結後、数十年の時を経て、物語は小社刊『アブソリュート・カーネイジ』へと続くことに。

ウェポンⅥ:別名プロジェクト・パワー。人体の強化を目的とし、その技術は後に、無類の怪力と鋼鉄の肌を誇るパワーマン(ルーク・ケイジ)を誕生させた。

濡れ衣を着せられて服役中、人体実験に志願して超人に生まれ変わったルーク・ケイジ。彼までもがウェポン・プラス・プログラムに含まれるのならば、後天的に能力を獲得したキャラクターは、全員、該当してもおかしくないのでは? ピーター・パーカーを咬んだクモも、プログラムの産物とか……。

ウェポンⅦ:ベトナム戦争中に実施。別名プロジェクト・ホームグローン。兵士を被験者に強化措置を実施。ニュークとして知られる超人兵士を生み出した。

名作『デアデビル:ボーン・アゲイン』での“活躍”が鮮烈なニューク。顔面に星条旗のタトゥーを入れた、道を踏み外したキャプテン・アメリカとの印象で、キャプテンに始まるウェポン・プラス・プログラムに名を連ねるのは、本人も本望だろう。ドラマ版が楽しみである。

ウェポンⅧ:ドラッグと催眠術によるスリーパーエージェントの制御法を模索。

ウェポンⅨ:別名プロジェクト・サイキ。洗脳によるスリーパーエージェントの制御法を模索。後にデアデビルの宿敵となるタイフォイド・マリーもその被験者だった。

家庭内暴力が原因で、限定的な精神操作、テレキネシス、パイロキネシス能力を持った第二の人格(ミュータント)が発現したという設定のタイフォイド・マリー。後にキングピンのお抱え殺し屋となるが、彼女に加えてエレクトラ、ブルズアイなどの超危険人物をも側に置いていたキングピンの懐の深さに驚く。

ウェポンⅩ:第四次まで存在。ウルヴァリン、デッドプールらを生み出した。

ウェポンXI:ウェポン・プラス・プログラムの立ち上げから関わってきた謎の科学者ザ・プロフェッサーの最後の計画という以外の詳細は不明。

ウェポンXII:ナノセンチネルの技術を応用した生体兵器。別名ハンツマン。人工環境ザ・ワールドで育てられた人造生命体で、世論をミュータント撲滅に導くことが使命。

ウェポンXIII:次世代のスーパーセンチネルのプロトタイプ。別名ファントメックス。ウェポンXIIと同じ境遇にありながら、ミュータントの側についた。

ウェポンXIIIことファントメックス。機械の父と人間の母から生まれたミュータントで、並列した3つの頭脳を持ち、フランスへの憧れからフランス訛りの英語を話す(そのくせ、フランス語はしゃべれない)など、ひと口では説明しきれない複雑怪奇な設定が、いかにもグラント・モリソン(ライター)らしい。

ウェポンXIV:強力なテレパスであるエマ・フロストのクローンを作成。数千体の中の生き残りが、現在のステップフォード・カッコーズである。

いつも制服姿。無表情。“私が死んでも代わりはいるもの”的な佇まいと、どうしてもファーストチルドレンの人と印象が被りがちなステップフォード・カッコーズ……と、思っていたら、2023年度のヘルファイア・ガラでは、言い逃れができない事態に。邦訳を待とう。

ウェポンXV:ウェポン・プラス・プログラムの完成形。別名アルティマトン。ウェポンXII、XIII、XVは同一の計画の産物と言える。

ウェポンXVI:生ける宗教と呼ぶべきウイルス兵器。無神論者以外をその支配下に置いてしまう。別名オールゴッド。

なお、ウェポンⅩ(エックス)のウェポンⅩ(テン)への変更は2002年に行われたと説明したが、1990年にデッドプールを創造したクリエイターのロブ・ライフェルドは、デザイン画のメモに「ウェポン9 プロジェクトの失敗作」と記しており、既に「Ⅹ」を数字と捉えていた模様(複数の被験者がおり、9番目が失敗作のデッドプール、10番目が成功例のウルヴァリンということか)。

また、ウェポンⅩプログラムの詳細を描いた『マーベル・コミックス・プレゼンツ』#72-84は、『ウェポンⅩ』として小社より邦訳されている。29年前の刊行ではあるが、バリー・ウィンザー・スミスの超絶アートが楽しめる貴重な作品だ。

30年近く前に刊行された、邦訳版『ウェポンⅩ』

石川裕人
翻訳家。1993年よりアメコミの邦訳に関わり、数多くの作品の翻訳・プロデュースを手がけている。

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