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【連載最終回】『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』大研究/最終話「世界はひとつ、人はひとつ」

MCUドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を、アメコミライターの傭兵ペンギン氏に解説していただく本コラム。連載最終回となる今回は、感動的なシーズンフィナーレとなった最終話「世界はひとつ、人はひとつ」を考察してもらいましょう!

※この記事ではドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。

文:傭兵ペンギン

最後の戦い

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の最終回となる第6話。GRCの会議を襲撃したフラッグスマッシャーズの前に現れたのは、ファルコン改めキャプテン・アメリカ! ウィンター・ソルジャー、シャロン・カーター、そしてキャプテン・アメリカを解任されたはずのウォーカーがお手製の盾を手にそれぞれ戦いに挑んでいく……。

ついにキャプテン・アメリカとなったサム・ウィルソンによるド派手なアクションをどんどん見せながらも、圧倒的な密度の脚本で今まで語ってきた物語のテーマに沿った結論をクリフハンガーにせず描ききった、凄まじい最終回でしたね。製作総指揮であり最終話の脚本も担当したマルコム・スペルマンの手腕を見る限り、このシリーズだけでなく今後のMCU作品にいろいろと関わっていくんじゃないかという気がしてなりません。

特に素晴らしかったのが、サムがGRCの委員たちを諭す場面。

「この盾を持つ俺に嫌悪感を抱く人が何百万といる。今この場でも偏見の視線を感じ取れる。それは変えようがない。だが隠れはしない。俺には超人血清も金髪も青い目もない。俺が持つ力は”より良い世界を造れる”と人を信じる心だけ」

このサムの言葉には、この作品が描こうとしていたもののすべてが凝縮されていたといっても言い過ぎではないでしょう。その前後のやり取りを含め、こんなに「今の世界」に刺さるものをやってくるとはドラマが始まる前は思いもしませんでした。

キャプテン・アメリカのコスチュームデザイン

それにしてもサムのキャプテン・アメリカのコスチュームがコミックのまんまのデザインで驚かされました。映画『アベンジャーズ』第一作のときのキャプテン・アメリカを彷彿とさせる鮮やかさであり、今までのサムのコスチュームと比べ肩や首周りの厚みが増してよりたくましくなった雰囲気になっていますよね。

元となったデザインはライターのリック・リメンダーが自身の担当した、サム・ウィルソンがキャプテン・アメリカとなる『All-New Captain America』誌のために、アーティストのカルロス・パチェコとともに作り出したもの。そのコンセプトの一部はバリアントカバーになっています。

リック・リメンダーがドラマの最終回の公開に合わせて行ったツイートによれば、当初マーベル側は羽のないデザインを求めたものの、リメンダーは反対し、羽のあるものになったのだとか。今回のカッコいいアクションを見る限り、結果として大正解でしたね。

そしてサムがキャプテン・アメリカになる一方で、ジョン・ウォーカーはついにU.S.エージェントに。コミックでもおなじみの黒基調のカラーリングとなり、今後の活躍に(心配しながらも)大きく期待したいところ。なんなら単独ドラマでもいけるはず!

ウィンター・ソルジャーの物語

全体を振り返って、今回のドラマを語ろうとするとついついサム・ウィルソンがキャプテン・アメリカになる道がメインになってはしまいますが、ウィンター・ソルジャーが過去に苦しみながらも、サムの助言を受け、最終的に折り合いをつける方法を見出していくというのも重要なストーリーでしたよね。

コミックではウィンター・ソルジャーことバッキーはサムよりも先にしばらくキャプテン・アメリカになるのですが、最終的には「ウィンター・ソルジャー」だった頃の知識を活かして、世界の危機を未然に防ぐことが自分の贖罪の道であると見出し、ウィンター・ソルジャーに戻ることを選ぶという展開が描かれました。

このあたりのバッキーの道筋が知りたいという方は、第0回でも紹介した『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』(ShoPro Booksから電子版発売予定!)、『デス・オブ・キャプテン・アメリカ』(ヴィレッジブックス刊)、イベント「フィアー・イットセルフ」の後日譚である『Fear Itself 7.1: Captain America』(単独エピソード。未邦訳)を読むとがっつり味わえるはず。

これらはすべて犯罪もの、スパイものを得意とするライターで、ウィンター・ソルジャーの生みの親でもあるエド・ブルベイカーの才能が遺憾なく発揮された長いキャプテン・アメリカの歴史の中でも屈指の名ストーリーアークの一つだと思います。

ちなみにウィンター・ソルジャーは映画に登場し大人気キャラクターとなりましたが、エド・ブルベイカーはその使用料を全然もらえておらず、映画の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)にカメオを出演したことでもらったお金のほうが大きかったということをYouTubeの配信番組で語っていました。この手の問題は、権利を出版社が持っているアメコミ原作の映画でよく起こっていることなのですが、本当に残念だし、どう考えても大ヒットしてるんだから、ちゃんとお金を出してあげて欲しいところ。

この後もエド・ブルベイカーは『Winter Soldier』誌(2012年/未邦訳)を続け、こちらではウィンター・ソルジャーがソ連時代のエージェント仲間でありかつての恋人でもあるブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフとともに過去に決着をつけていくというストーリーを描いています。単行本としては『Winter Soldier by Ed Brubaker: The Complete Collection』(未邦訳)で、先ほど紹介した『Fear Itself 7.1』もおまけで入っているので、合わせて読むことをオススメします!

あと、ドラマではスティーブ・ロジャースが月にいるという都市伝説が描かれていましたが、コミックではウィンター・ソルジャーは宇宙からの脅威から地球を守る秘密の戦いを繰り広げていたことがあり、もしかするとそのへんが元ネタなのかも。ちなみにそのストーリーが描かれた『Bucky Barnes: The Winter Soldier』誌(未邦訳)はとにかくマルコ・ルディによるアートが凄まじく、一見の価値ありなシリーズとなっています。

バッキーがこれからのMCUでどう活躍していくのかも非常に楽しみ。コミックのように宇宙に行く展開もあるかどうかはわかりませんが、個人的にはキャプテン・アメリカとなったサムと共に戦っているところがもっと見たいですね。『キャプテン・アメリカ&ウィンター・ソルジャー』の映画版ができるんじゃないかな……という気もしますが、果たしてどうなるか。

そして次のMCU作品となる『ロキ』は6月11日16:00からDisney+で日米同時配信予定。コミックで全体の元ネタになってそうなところは予告からはつかめず、一体どんな作品になるのかまだまだ検討もつきませんが、SFドラマ『ドクター・フー』っぽいノリになりそうな予感。とにかくしばらく時間はあるので、コミックを読みながら楽しみに待機しておきましょう!

邦訳アメコミ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』5月20日 発売予定!

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https://www.amazon.co.jp/dp/4796878157/

〈内容紹介〉
かつての冷酷な暗殺者、ウィンター・ソルジャーことバッキー・バーンズ。空を駆けるヒーロー、ファルコンことサム・ウィルソン。旧友である二人は、大量の犠牲者を出す前に、ヒドラの次なる総統を明らかにするために奮闘する。新たな敵の正体とは?そして新たな世界中の希望となる人物は誰だ?

〈収録作品〉
『Falcon & Winter Soldier』# 1-5

〈著者情報〉
デレク・ランディ[作]……ライター。代表作であるヤングアダルト向けファンタジー小説『スカルダガリー』シリーズは、欧米では2007年から現在まで続く人気作である。コミックの仕事としては、マーベル・コミックスで短編や増刊を手がけたあと、本書に先立つ2019年に『ブラック・オーダー:ウォーマスターズ・オブ・サノス』を発表した。

フェデリコ・ビチェンティーニ[画]……アーティスト。2019年に『アブソリュート・カーネイジ:マイルス・モラレス』を、本書に続いて『アメイジング・スパイダーマン:ラスト・リメインズ・コンパニオン』を手がけている。

中沢俊介[訳]……翻訳家、ライター。主な訳書に『ドゥームズデイ・クロック』『バットマン/ミュータント タートルズ』シリーズなどがある。

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。