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【連載第5回】『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』大研究/最終回直前! 第5話「真実」で描かれたもの

MCUドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を、アメコミライターの傭兵ペンギン氏に解説していただく本コラム。連載第5回目の今回は、最終回に向けて緊張感が高まるエピソード5「真実」で描かれた、アメリカが抱える問題について考察してもらいましょう!

※この記事ではドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第5話の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。

文:傭兵ペンギン

やり残したこととそれぞれの思い

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の第5話。フラッグスマッシャーのメンバーを殺害してしまった新キャプテン・アメリカの前に、ファルコン&ウィンター・ソルジャーが姿を現わして、ついに両者が対決。戦いの末に盾を失ったジョン・ウォーカーは職も失う一方、サム・ウィルソンは取り戻した盾が持つ意味と改めて向き合うことに……。

それぞれがやり残したことに決着をつけながら対決に向かっていく、まさに最終回直前らしい展開。ベトナムで米軍が行った戦争犯罪を帰還兵たちが告白する公聴会から名前をとったキャラクターでもある、ウィンター・ソルジャーが主人公の作品で、軍に任命された帰還兵のヒーローが不名誉除隊となって行き場を失う展開など、アメリカの抱える社会問題をえぐりながら、予告にあったバディものっぽさも(やっと)出てきて、脚本の上手さに驚かされるエピソードでしたね。

ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ伯爵夫人って?

今回のエピソードでおそらく視聴者が最も気になったであろう人物は、突然出てきたヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ伯爵夫人でしょう。彼女は1967年の『Strange Tales』誌内の『Nick Fury Agent of S.H.I.E.L.D.』のエピソードで初登場したキャラクター。S.H.I.E.L.D.の凄腕エージェントであり、ニック・フューリーとは恋人関係であったことでファンにはよく知られています。コミックでの特徴は髪に白いラインが入っていることなのですが、ドラマでは紫色で再現されていましたね。

ちなみにヴァレンティーナのコードネームはエージェント14で、70年代の『キャプテン・アメリカ』誌ではシャロン・カーター(エージェント13)がリーダーの女性部隊「フェム・フォース」の一員として、キャプテン・アメリカと共闘。その当時はキャプテン・アメリカを誘惑しており、シャロンのライバルのような立ち位置でもありました。

ヴァレンティーナはそれからもS.H.I.E.L.D.のエージェントとして活躍を続け、シールドの副長官にまでなった人物。そんな長めの歴史があるキャラクターなのですが、2009年から展開された『Secret Warriors』誌でフューリーを裏切って密かにヒドラのリーダー「マダム・ヒドラ」になっており、さらに実はフューリーと出会う前からソ連のエージェントであったことが明かされる……という衝撃的な秘密が明らかなったキャラクターでした。

そのエピソード以降、コミックにはほとんど登場していなかった彼女ですが、ここにきてドラマに登場したのは驚きです。不名誉除隊というかなり厳しい状態に置かれてしまったジョン・ウォーカーに接触するようですが、本連載第1回で紹介したように、ジョン・ウォーカーがUSエージェントとなる布石なのかも?

演じているのが『となりのサインフェルド』(90年代に人気を博したテレビドラマ)などで絶大な知名度を誇るジュリア・ルイス=ドレイファスですし、これから重要キャラクターになっていく、なんならニック・フューリー級のキャラクターに成長するかもしれませんね!

コミックでヴァレンティーナの活躍が読んでみたいという人は、とりあえずキャラクターの生みの親であるジム・ステランコが担当した『Strange Tales』誌内の『Nick Fury Agent of S.H.I.E.L.D.』と、その続編『Nick Fury Agent of S.H.I.E.L.D.』誌をチェックしてみるのが良いでしょう。コミックでの初登場時のセリフは、ドラマ版の初登場のセリフを彷彿とさせるものとなっていますよ!

日本ではヴィレッジブックスから『ニック・フューリー、エージェント・オブ・シールド』として両誌まとめてたものが販売されています。ヴァレンティーナがメインキャラクターというわけではないですが、そのクラシックなスパイ映画を彷彿とさせるカッコいいアートは後の作品にも多大な影響を与えているので、ぜひこの機会に読んでもらいたい一本です。

黒人をキャプテン・アメリカにしない

気になる新キャラクターは出てきましたが、今回のエピソードのハイライトはなんといっても、サムがイザイアの元を再訪した場面で交わされる会話でしょう。

イザイアが語る過去は第2回で紹介したコミック『Truth: Red, White & Black』のストーリーとほぼ同様。コミックでサムとイザイアが出会うことはなかったのですが、ドラマで描かれた二人の会話は「ぜひコミックでもやってほしかった!」と思うほどの重みのあるやりとりに仕上がっていました。

その中にある「奴らは絶対に黒人をキャプテン・アメリカにはしない」というセリフは、第0回でも紹介したライターのニック・スペンサーによる『Captain America: Sam Wilson』(未邦訳)での展開を彷彿とさせるものでした。

同誌はサム・ウィルソンがキャプテン・アメリカになってからの2つ目のシリーズで、サムがキャプテン・アメリカとして活動をする中で、アメリカ政府やS.H.I.E.L.D.との関係を絶って、組織ではなく市民のために戦う独立したヒーローとなることを決断するも理解を得られず、政府やメディア、市民から激しいバッシングを受け、苦境に立たされていくという物語。

今回のエピソードでイザイアと改めて話をしてサムが至ったであろう結論はまさにこの「市民のヒーロー」としてのキャプテン・アメリカとなることなることなのではないでしょうか。となると、これからさらに厳しい展開が待ち受けている予感もしますが……。

今回のエピソードのエンドロールにはニック・スペンサーの名前が入っており、やはり影響を受けている様子。ドラマ同様、アメリカの抱える問題をテーマにした作品であり、またこの連載で繰り返し紹介しているマーク・グリュエンワルドの『キャプテン・アメリカ』誌のオマージュがとにかく多く、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が気に入ったという方にはぜひチェックして欲しい一本です。今回ファルコンの翼を引き継いだ(?)トレスやUSエージェントことジョン・ウォーカーも登場しますよ……!

単行本としては『Captain America: Sam Wilson - The Complete Collection』というタイトルで2分冊で発売されています。

そしてどうやらドラマ版のファルコンは新たなコスチュームを入手するようですが、果たしてコミック版の雰囲気を踏襲しているのかも気になるところ。ちなみに、ファルコンの翼はコミックではブラックパンサーに頼んで作ってもらったものだったりするので、そのオマージュになっているのかも。

そんなファルコンの新コスチュームだけでなく、影で動いていたシャロン・カーターの真の目的、バトロックの再戦などとにかくいろいろなことが山盛りなのは確実な最終回……それでは次回まで、コミックを読みながら楽しみに待機しておきましょう!

↑ファン待望の邦訳版が5月中旬に発売予定! 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』

↑ドラマに登場するキャラクターをもっと知りたい人にオススメの大辞典! 『マーベル・エンサイクロペディア』