夢罪2

『この世界で夢を見たものはみなバケモノになる...』

 一
俺はバケモノになった人間のリストを作る仕事をしている
俺はこの仕事に誇りを持っている
この国で夢を見たものはバケモノに変わる
だから、この国では夢を見ることは罪なのだ
俺が今作っているのは犯罪者のリストなのだ
そしてこの罪が許されることはない

年々、バケモノへの仕打ちはひどくなっていった
それに伴い、バケモノになる人間は減っていったが、
それでも1年で3万人ほどいる
俺はバケモノになったことがないのでわからないが、
きっとドラッグのようなものなのだろう
そう考えると気持ちはわからなくもない
俺自身、ドラッグには揺れたのだ
しかし、たいていの人間と同様に俺は踏みとどまった
やっていいことと、いけない事の違いは分かる
バケモノになるやつらは未成年禁止のルールを破る男子のように、
ブランド物のために援助交際に手を出す女子のような心理なのだろう
目先の欲にとらわれた、愚かな人間だ
そのために人間界を追放されるのに
しかし、バケモノたちは人間界から追放された後、どこへ行くのだろう
バケモノたちのユートピアがあり、そこで幸せに暮らすと聞いたことがあるが、
実際のところどうなのだろう
まあ、そんなことは知らなくていい
世の中には知らなくていいこともあるのだ
たとえ愚か者と笑われてもいい
俺は俺なりに、幸せを追求するだけだ

 二
私は化け物になりたい
異型のものとして、人から忌避されるバケモノに
バケモノの存在を知ったときから10年が経つ
しかしにバケモノになれずにいた
それでも私はバケモノになりたい

私はバケモノのことをたくさん調べた
バケモノになった人がどんな仕打ちを受けるのか、
そんなことから、バケモノになった人がどんな生活をするのかまで、
実に様々なことを調べた
しかし、バケモノの成り方だけはわからなかった
何故かそれだけが記録にないのだ
そして私自身、バケモノに会ったことがないので、聞きようがない
バケモノにあった事がある人に話を聞いたが教えてくれない
そんなにも語りたくない理由なのか
一体どんな理由なのだ
知りたい
私はその一心で調査を続けている
時報がなった
もう深夜2時らしい
そろそろ食事をとって寝る時間だ
化け物に憧れてから私の生活は変わった
朝6時起床は変わらないが、食事は一日一食、お風呂は週に一回入ればいい方
睡眠時間は3時間にも満たない
人はそんな私をバケモノという
どこがバケモノなものか
本当のバケモノはもっと崇高なものだ
でなければ、こんなにも労力を費やしたりしない
自殺のできない私にとって、バケモノになることは、私が死ぬ唯一の方法なのだ

 三
俺は金持ちだ
金持ちになって、この世に金で買えないものはないとは本当だったと知った
俺には四肢がない
しかし金がある
四肢になる人間などいくらでもいるが、金の代わりはない

俺は金がなかった
あらゆる臓器を売った
それでも金がなかった
その事に絶望した
自殺を試みたが何をしても駄目だった
首吊り、飛び降り、飛び込み
何も俺は死ぬことはなかった
あらゆる自殺方法を試した翌日 驚いた
全身が金になっていたのだ
ベッドにも金粉が付いている
偽物じゃない
俺は家有頂天になった
しかし俺は金がなかった
だからまず腕を売った
これまでの何より高く売れた
そして足も売った
俺はそこでやっと貧困から脱した
初めて金持ちになった
今では唾液を売って生活している
当然唾液も金だ
あまり金にならないがいくらでも出るので、それなりの生活は維持できた
たまにしつこい客が来るが、その時は尿を売ってやる
量が多く安いので大喜びだ
しかし当然以降の取引はしない
俺は今の生活をとても満足しているから
金さえあれば迫害されることはない
化け物に幸せになってないと言ったやつも、金を与えればコロリと対応を変えた
結局世の中金がすべてなのだ
幸か不幸かは金が決める

 四
私は今とても幸せだ
ベッドの上では見れなかった世界が見れる
ベッドの上ではできなかった友達ができる
そんな小さなことでも私にとっては幸せなのだ

私は生まれついての白血病だった
うつらないとわかっていても人はそれを避けるものだ
だから私には昔から友達がいなかった
そして小学校を卒業すると同時に入院生活が始まった
それはひどく退屈なものだった
そして普通の人が高校を卒業できる年になると、私は死を宣告された
涙は出なかった
最初からわかっていたことだ
だがその晩、猛烈に生きたいと思った
私はこの世界のことを何も知らない
たったそれだけで涙が出た
翌日私は退院した

私は毎日がとても楽しい
かつて見れなかった世界を見ることができる
かつてできなかった友達ができる
それだけでとても幸せだ
バケモノになって辛さを感じたことは一度もない
この体は死なないのだ
それは何と素晴らしいことだろう

 五
私は人生で一度も幸せだったことがない
それはバケモノになってからも変わることはなかった

私はいつもひとりだった
根暗な女の子だったから、友達ができなかったのだ
女の世界は男をほど単純ではない
女で根暗など、生きている価値がないのだ
しかし私は願った
願ってしまった
友達が欲しいと

バケモノになった私は、当然人間から避けられた
化け物と友達になればいいと気楽に考えていた
そして自分で思っていたよりも、あっさりそれは実現した
しかしそれも長くは続かなかった
私と友達になった者は、皆人間の姿に戻ってしまうのだ
バケモノでありながら人間
バケモノの世界に居場所はなかった
人間界に帰っても元バケモノは相手にされない
友達はみんな死んだ
みんな自ら命を絶った
だから私はいつも一人だ
誰も近寄らない
こんなことなら人間のままでよかった
幸せだったことはないが、希望を感じることもなかった
バケモノになった
そして幸せにもなった
しかもそれも一瞬だった
長い目で見れば不幸の時間の方が長い
人生は不幸の量で決まる
ちっぽけな幸せなんて圧倒的な不幸の前では無意味なのだ

 六
私は誰でもない、普通の少女だった
勉強もできた、運動もできた、彼氏もできた
でも普通の少女だった
私はシンデレラに憧れた
誰でもない女の子がお姫様に変わる話だ
そして私はお姫様に生まれ変わった

朝起きて鏡を見ると赤と青のオッドアイになっていた
SNS にアップすると偽物じゃないかと言われはしたが、評価が高かった
翌日起きると髪が真ん中で、赤と青に分かれていた
目と同じだ
SNS にアップするとそこまでして人気を取りたいかと言われたが、評価は高かった
翌日起きると爪がネイルをしたようにまた赤と青に染まった
SNS にアップした
もう批判は来ず、高評価ばかりが並んだ
翌日テレビの取材が来ることになった
テレビ出演の朝、私は絶叫した 完全に体が赤と青に分かれていたのだ
テレビは家にまで来て、ズカズカと部屋に入り込み私の姿を映した
その日の SNS は今までで一番高評価が多かった

私は有名人になった
化け物は実在する証拠として全国放送されたからだ
そして私は人間界を追放された
しかし私は有名こんな形で有名になりたかったわけではなかった
バケモノになってから両親の言葉を思い出した
「この世界では夢を見てはいけないよ
夢を見ると化け物になってしまうからね」
今ではその言葉の意味が分かる
しかしそれを伝える両親はいない
でも迎えてくれる人たちがいる
バケモノが実在する証拠を見つけたとして私はバケモノ界で、アイドル的な人気を博していたのだ
人間とバケモノの幸せって何も変わらないんだね
なら何で喧嘩しているんだろう
少女は分からなかったが、ファンのため笑ってステージに立った
割れんばかりの歓声が少女を包む

 七
あるところに変わった人間がいた
人間でありながらバケモノの世界へ潜り込み、バケモノとして生きていた
ある日、人間とバケモノの幸せは変わらないから、我々は仲良くできるとの趣旨の講演を聞いて身震いした
これだ、男は即座に自分のすべきことを理解した
それから男はすぐに行動した
しかし男が人間界戻ると死んだ扱いになっていた
そんな男がバケモノとの融和を訴えるのだ
当然白い目を向けられる
「誰があんな奴らと仲良くするか」
「俺たちを騙して食うつもりなんじゃないか」
「そもそもバケモノとつるむメリットがない」
「お前、本当はバケモノなんじゃないのか」
散々な言われようだった
しかし男は諦めない
今度はバケモノ界で人間との融和を訴えた
街中でスピーチをしていると男は 刺された
殺したバケモノたちが笑う
「誰があんな奴らと仲良くするか」
「俺たちを騙して食うつもりなったんじゃないか」
「そもそも人間とつるむメリットがあるのか」
「こいつ、本当は人間なんじゃないか」
一通り罵った後でもう一度お笑い、殺して良かったと安堵する
そして男は、誰にも気にとめられることなく死んでいった

 八
俺はバケモノだ
人を殺す悪魔なんだ
そう叫んで男はスクランブル交差点の真ん中でナイフを振り回す
何十人も刺され、辺り一面血の海だ
警官が現場に到着し、男は撃たれた
死体を調べる警官が驚く
「こいつ人間だぞ
どうする責任問題じゃないか」
その場にいた上司が頭を抱え、そしてついにひらめく
「こいつはバケモノになりかけの人間だった
だから撃った
何も問題はなかった」
「さすが部長」
周りの警官が囃し立てる
薄れゆく意識のなか男は悔しさに涙を流した
「あの人の言っていたことは所詮不可能なのか
しかしあの人の居場所を奪った人間だけは許せない
俺は不器用だからこんなことしかできないが、これで少しでも世界が変われば」
そして男は自爆スイッチを押した

この事件は人間界でもバケモノ界でも大々的に報じられた
一方はは融和するべきだと、もう一方は滅ぼすべきだと
人間界とバケモノ界、どちらがどっちの反応したかどうかは皆さんの判断に任せる
そして皆さんが化け物にならぬよう、願う所存である
いや私が決めることではないのかもしれない

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