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Introducing Luke Bergman

久々に、好きな音楽家のリストに新しい名前が加わりました。
シアトルを拠点に活動するマルチ弦楽器奏者で、Bill Frisellのアルバム『Harmony』でサイドギターやベースを弾いていた、Luke Bergmanさんです。

* いきなり余談ですが、『Harmony』、個人的にはフリゼールのここ10年くらいの中でベスト、数あるリーダーアルバムの中でも屈指と思っています。おなじみペトラ・ヘイデンと、ハンク・ロバーツ、ルーク・バーグマンとの4人編成。タイトルの通り、ほぼ全ての曲でフリゼル以外の2人ががっつりコーラスしています。

昨年『Harmony』ではじめて名前を知って、その時には「へー、Cuong Vuのバンドでベース弾いてる人なのかー」と思ったくらいで深く追求していなかったのですが、ふと気になっていろいろ聴いてみたら、これがとんでもなく面白い人でした。

まずはこちらをお聴きください。

クォン・ヴーやフリゼルからは想像もつかなかった方向性!
チェンバー・ポップというんでしょうか。
この曲を含む『WORX』は、チルドレンズ・ミュージックの趣もある、飄々とした(でも毒っ気もある)インスト10曲。
日本の感覚で言えば、NHKっぽいというか、徳澤青弦/anonymass、栗コーダーカルテット、Pepe California、MOOSE HILLといったあたりの名前を想起します。

『WORX』について、こちらのプロフィールには「ドンキーコングがホールマーク・ムービーだったとして、そのサントラみたいな音楽」との記載がありますが、わかるようなわからないような……。
おそらく誰かからの評ではなく、本人の弁でしょうね。ふざけてるなー。


続きまして、『Sliding Through the Years』と名付けたられた、スチールギターのインスト・シリーズから、モンクの「Ruby My Dear」。絶妙!

このシリーズは全てカバー曲。対位法的なアレンジ、ミニマムな演奏(曲の時間も非常に短いです)の良さもさることながら、選曲がとにかくウケます。
サン・ラ「Love In Outer Space」、マイルス&ギルの「Boplicity」に、スターウォーズ「ヨーダのテーマ」、なぜか Seal「Kiss from a Rose」があったかと思えば、Deerhoof(!)まで。
それらに「Timeless Oldies on Pedal Steel Guitar」という副題をつけて、駅前やサービスエリアで売っていそうなパッケージにしているところも、気が利いているというか何というか……。


ほかにも、例えばセルフ多重録音アカペラでエンヤの曲をやってみたかと思えば、

訥々としたボーカルがぐっとくる、ジョニ・ミッチェル「Both Sides Now」のアシッドフォーク的カヴァーがあったり(これ、ほんとすばらしいです)、

かと思うといきなり、完コピ?と思うくらいにストレートなオマージュの、ハービー・ハンコック「Butterfly」カヴァーや、

マライア・キャリーの曲を流して、ヴォコーダーで勝手にセッションしている動画があったり。どこまで本気でどこまでふざけているのかわかりません。


こちらは「SPEAK」というユニット(?)の2011年作。情報が少ないんですけど、Discogのクレジットを見る限りでは、氏が中心となっているプロジェクトのようです。
打って変わってジャズ的というか、Cuong Vuの音楽と通じる感覚もありつつ(実際にCuong Vuが参加もしている)、もう少しポストロック寄りのテクスチュア。


「Thousands」というプロジェクト(* 現在は参加していないけれど、元々は彼とKristian Garrardという人の二人組だった模様)は、物悲しいインディ・フォーク。
(なお、現在のThousandsには、元 La Luz の Abbey Blackwell が参加している模様。)


シアトル人脈からか、Fleet Foxes の Christian Wargo による別プロジェクト「Poor Moon」に参加していたりもします。これも良いです!


彼が率いるポップバンド(?)「Heatwarmer」では、よりコミカルでキッチュな側面が強調されます。

「My Song 25」という曲名も最高。(Macにデフォルトで入っている簡易DTMソフト「GarageBand」では、新規ファイルを名称未設定のまま保存すると「My Song いくつ」になるんですが、そこから来ているんだと思います。)
この半分冗談、半分本気な80sオマージュは、まるでヘヴンリーボーイズですよね。『WORX』でもところどころMONG HANGのことを思い出したし、もしかしてケイタイモさんと通じるものがあるのかも?


作品によってサウンドや手法はこんなにバラバラで、その振れ幅がこれだけ広いにも関わらず、概観すると、どこか一貫したキャラクターが立ち上がってくる感じがありますよね?
うまく説明できないけれど、ポップとアヴァンギャルドに乖離がない、というか。
ふざけていたり、シニカルだったりする中に、急にぐわっとストレートなセンチメンタルが漂う、という塩梅については、(音楽性はぜんぜん違いますけど)とんちピクルスさんとか、SUPER BUTTER DOG当時の永積崇さんとかを連想したりもします。根暗というか、根は真面目な人なんでしょう。
ちなみにご本人のツイッターも、アカウントはふざけ倒してるけど、ここ最近のツイート/リツイートはほとんどがBLMの真剣なものだったりして、まさに氏の音楽と通じるような印象を受けました。

オマケにこんなネタ動画も。

知るほどにすっかり魅了され、このひと月くらいで、おそらく公開されている全作に近い音源を追いかけてしまったのでした。
ウェブサービスによって聴ける音源が微妙に違ったりするので、気になった方は以下チェックしてみてください。
Bandcamp
SoundCloud
YouTubeチャンネルその1
YouTubeチャンネルその2
Bandcamp (Heatwarmer)


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