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アメリカ西部のビーイング系? 90年代カントリーの世界

誰に請われてもいないのに唐突にNAVERまとめみたいなエントリを書きます。

vaporwaveやシティポップの文脈によって、長らくダサさの代名詞だった80年代サウンドの再評価(再解釈)も進んだ現在、我々の耳にとって最もダサい音楽はなんでしょうか?
はいそうです、90年代のポップンカントリーですね。
オーセンティックなカントリーやアメリカーナからいなたさを抜き去った、ハードロック流行の残り香を感じるテクニカルな演奏とキラッキラな音作り、ダイアトニックのトライアドとセブンスしか出てこない進行に、これでもかという王道美メロ、もちろん全員テンガロンハット。
日本のビーイング系〜ビジュアル系とも通じる音楽性・時代感と、垢抜けなさの代名詞=カントリーとが悪魔合体した音楽、ポピュラーミュージック史における残されたダサさの最後の砦。
揶揄してますけど、大好きなんですってば。
今日はそんな90年代のカントリー、いわゆる(?)「CMT系」(※)の名曲たちを、みなさんと聴いていきたいと思います。

※CMTは、当時盛んだったカントリー版MTV的チャンネルの名前。友人のyohei shikano氏がこの呼び方を使っていて、同時期のオーセンティック寄りやオルタナティブなカントリーと区別するのに便利だなと思ったので、拝借しました。

1. Achy Breaky Heart / Billy Ray Cyrus (1992)

今となっては「マリー・サイラスのお父さん」とか「Lil Nas X騒動を助けに現れたおじさん」としてご存知の方のほうが多いのではないでしょうか。
辰吉カットの系譜に、ウエスタンシャツじゃないシャツ(且つジーンズにインしていない)というスタイルも、カントリーに於いては珍しくてモダン(?)。
いわゆる一発屋なんですが、この曲はディズニーランドの「カントリーベアーシアター」でも歌われるほどスタンダード化している、あまりに巨大な一発。
この1曲で、この記事で取り上げようとしている音楽がだいたいどういう路線か、わかってもらったかと思います。

2. Blue Clear Sky / George Strait (1996)

イントロのフィルイン(テケドゥンドゥンドコ)から最高にアガります。
きっちり2拍・4拍スネアのドラムに、|たーーたたーーー|というベースのパターン、これが90年代ポップンカントリーの基本形ですね。
ジョージ・ストレイトは80年代から一線で活躍する、このジャンル最大の旗手の一人。SSWではなく、楽曲は作家の手によるものです(彼に限らず総じてそのパターンの方が多いです。演歌と同じシステム)。
どれだけ人気がある(あった?)かというと、彼主演の「大スターが身分を隠して恋愛する(みたいな話だったと思う……たしか)」ストーリのアイドル映画が作られるほど。

3. I Cross My Heart / George Strait (1992)

というわけで、その映画「Pure Country」から、挿入歌バラードを聴いてみましょう。(主題歌の方もいいんですけどね。)
ブリッジ、動画上2:30頃からの進行は、この辺の楽曲にはめずらしい凝った作り。
転調して間奏になだれ込むスチールギター、うおーーー、ってなりません? もちろんなりますよね?
他にも好きな曲ありすぎるんですけど、ジョージ・ストレイトばっかりになってしまうので、ここまでにして次いきますね。

4. Should’ve Been A Cowboy / Toby Keith (1993)

ウケるなーこのビデオ。。
ハイスクールものの敵役に描かれる粗野・乱暴なバカの典型みたいな見た目ですが(失礼)、実際この人、イラク戦争反対を表明した女性グループに対してだいぶハラスメント的な罵りをしたり、フセインのケツに突っ込んでやれ的なことを歌ったりしていた人でもあります。
(一方、今日のカントリーがそういうステレオタイプな「田舎の保守」だけのものではない、というのは、先日発売された大和田俊之先生編『ポップ・ミュージックを語る10の視点』(アルテス・パブリッシング)に収録されている、永冨真梨さん「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性」にも書かれていましたね。気になる方はご一読を。)

5. Wide Open Spaces / Dixie Chicks (1998)

上記トビー・キースとケンカした女性グループが、こちらのディキシーチックス。
おそらくカントリーファン以外の音楽リスナーも意識した作りで、ここまでのと比べてだいぶ聴きやすくできてますよね。
ちなみに、2016年にはビヨンセと共演したりもしています。Country Music Awardsに他ジャンルのスター、しかも黒人が登場したのは、けっこうすごいことかも。曲は微妙なんですけどね……。
この曲が彼女たちの最初のシングル。98年、aikoと同時期のデビューですね(だからなんだ)。


6. Sending Me Angels / Delbert McClinton feat. Vince Gill & Lee Roy Parnell (1997)

ディキシーチックスからの流れで、だいぶポップなやつをひとつ。
これなんか、ぜんぜん普通に名曲・名演ですよね。ダサくない!
Frankie Miller & Jerry Lynn Williamsのカバーなんですけど、オリジナルと聴き比べると、カントリーの風合いがどう効いてるかよくわかります。
高い美声でコーラスをしているヴィンス・ギルは、カントリー界のマイケル・ボルトンか、はたまたスティングか、みたいな人。今はさらに太っています。
ちなみにこの曲、コラボレーションで権利関係が複雑なのか、配信になく、デルベート・マクリントンのベスト等にも収録されておらず、まあまあ入手困難なんですよね。アップロードありがたや。

7. Walkin’ the Country / The Ranch (1997)

こちらはちょっと変化球で、オーストラリア産のカントリー。
YouTubeのタイトルでネタバレしてますけど、ニコール・キッドマンの夫、キース・アーバンがやっていたバンドです。
私これ、中3で行ったカナダ(初海外)でたまたまジャケ買いしたんですよ。めっっちゃ聴いたなあ。

8. Chattahoochee / Alan Jackson (1992)

ここで一句。
テンガロンハットのままで泳ぎけり  酒井匠

アラン・ジャクソンも名曲多数で、このジャンルの代表選手の一人ですが、2、3で挙げたジョージ・ストレイトと比べると、ちょっと通好み(?)というか、渋好みな感じがあります。(「これで……?」と思うでしょ? そうなのよ!)
イントロ大賞、優勝!の一曲。


……なんか文章がややダレてきた感があるので、曲だけ3つ、どどっといきますね。

9. She’s Got It All / Kenny Chesney (1997)

10. I’m In A Hurry (And Don’t Know Why) / Alabama (1992)

11. I’m From the Country / Tracy Byrd (1998)

あははー、いえーい。
サムネイルだけでもたまらないでしょ? 聴いたらもっとたまらないですからね。

では、続いては、女性アーティストを3曲。

12. How Do I Live / LeAnn Rimes (1997)

ご存知の方もいるかもしれません、映画「コンエアー」主題歌です!
チャイドル的にデビューし(さくらまや的な。このパターンもカントリーは多い)、一世を風靡したリアン・ライムス。
タワレコに「カントリー界のセリーヌ・ディオンかホイットニーか?(顔はビョークか?)」って手書きPOPがあったの、覚えてるなー。

13. This Kiss / Faith Hill (1998)

女性アーティストといえば、これもわりと一般的にも有名な曲かと。
この8年後には、テイラー・スウィフト(当時16歳)が登場するわけです。なんとなくシーンの連続性が見えると思います。

14. Don’t Be Stupid (You Know I Love You) / Shania Twain (1997)

リアン・ライムス、フェイス・ヒルときたら、シャナイア・トゥウェインも忘れてはいけません。
「You’re Still The One」が一番有名かと思いますが(まさかのジョンスコも演奏している!)、もう少しカントリーっぽさ(?)がわかりやすく残っているこの曲を。
シャナイアは、98年の「DIVAS LIVE」に、アレサ・フランクリン、マライア・キャリーらと並んで出演しており、当時いかに彼女(およびこのシーン)が興隆していたかわかります。

15. My Maria / Brooks & Dunn (1996)

B.M.Stevensonのカヴァー。 私自身は慣れのせいもあるんですけど、ここまでお付き合いくださった皆さんも、もはやブルックス&ダン版の方が良く感じてきてませんか……?
日本カントリー界では、大野義夫さんがこの曲を歌い、云十年ぶりに新曲がレパートリーに!と話題に。

※余談ですが、日本のカントリー界、というものがあるんです。おそらく進駐軍向けから始まったんでしょう、本場のヒット曲のカバー(コピー)を演奏する邦人バンドが今なおいくつもあって、そのライブは、カントリーラインダンスを踊りに来る邦人男女(紙袋にウエスタンブーツとテンガロンハットを忍ばせて出勤、退勤後着替えて登場)で賑わっています。ペトロールズ/東京事変の長岡亮介氏も、実はこの界隈出身。今でもその手の仕事も続けていると聞いてぶったまげました。大野義夫さんは、御年89歳の今も現役で活動していらっしゃいます。ヨーデルが得意。

16. Little Rock / Collin Raye (1994)

HR/HMがそうであるのと同じように、このジャンルに於いても、「ストリングスが入った歌い上げバラード」は定番路線のひとつです。
もし自動販売機に入っていたら「リバーブふか〜い」って書いてある感じのアレです。
しかし、これもPVものすごいな。カントリー。。。

17. I Still Believe In You / Vince Gill (1992)

ヴィンス・ギルは、こういう「バラード芸人」みたいな側面がある一方で、ギターの名手でもあり、オーセンティック寄りなカントリーもバリバリこなします。
6の「Sending Me Angels」でもコーラスしていましたけど、客演がめちゃめちゃ多い人。
声が楽器というか、この声色が欲しくて呼ばれるんでしょうね。という意味では、エミルー・ハリスのような存在かも。(FNS歌謡祭の徳永英明、と言おうと思ったけど、もうちょっと良いものですね。)(あの徳永英明もそれはそれで可哀想なんですけどね。)

18. It’s Your Love / Tim McGraw (1997)

バラードをもうひとつだけ。
こうして並べて聴くと、90年代って前半と後半でけっこう音作りが違うんだなー、と実感しますね。
この曲は13で挙げたフェイス・ヒルとのデュエットです(ティム・マクグロウとフェイス・ヒルは実際に夫婦)。


カントリーって、何と言うんですかね、総じてこういう「おいしさ」を厭わない・恥じない音楽なんですね。
例えばJerry Douglassとかにしてもそうですよね。ちょっと恥ずかしいことをガツンガツンやってくる。大好きなんですけど、手放しに褒めにくい感じがあるんです。
そこがHRやフュージョン的な性質と相性が良いところでもあるんだと思います。

あ、ちなみにティム・マクグロウ、この界隈では涼しげ(?)で都会的な部類と思いきや、こういうトホホな曲もあったりするから油断できません。

19. Put Some Drive In Your Country / Travis Tritt (1990)

きりがないので20曲で終わりにしようと思います。つまり、これがラス前です。
トラビス・トリットは、この界隈ではロック色が強めで、ギターヒーロー的な性格もあるミュージシャン。イーグルス曲やストーンズ曲のカバーもよく知られています。
この曲は、いまウィキペディアを見たら、ロイ・エイカフ、ジョージ・ジョーンズ、ウェイロン・ジェニングスへのオマージュでもあり、サザン・ロックとカントリーをフュージョンした音楽をやるんだという子どもの頃からのテーマを達成した曲、なんだそう。なるほど感ありますね。

20. Friends In Low Places / Garth Brooks (1990)

はい、真打登場です。当時マイケル・ジャクソンを抜いて観客動員数のギネス記録を持っていた(はず)、ガース・ブルックス。
実際low placesにいる人が、I got friends in low placesと歌われて怒らないのか、というのも不思議な気がしますが、みなさんピュア(?)なんでしょうか……。
この曲は「川の流れのように」あるいは「翼をください」くらい、いや、もっとかもしれない国民歌のニュースタンダードで、カントリーになんか一切興味がないNYやLAの人ですら、空で歌えたりします。
「冒頭のアルペジオ4音(1コード分)だけで大歓声が鳴り止まない」という映像を幾度も目にしました。(例えば、ガースのライブでなく、ジャスティン・ティンバーレイクのライブですらこうなる!という。※ナッシュビル公演)
それくらいアメリカ国内では有名な曲を、このグローバルなインターネット社会にあって(配信やサブスクと徹底抗戦している人ではありますが)、おそらく日本の多くの人は知らない、という現象も、なかなか面白いですよね。


いかがでしたでしょうか?(←書いてみたかった!!)

90年代カントリーは、同級生がビジュアル系やHR/HMに夢中な頃一人こういうのに熱中していた、私にとっては恥ずかしながら「ルーツ・ミュージック」のひとつでもあります。
趣味の良い音楽に飽きた方、あるいはいろいろ掘りつくして新たな鉱脈が欲しい方、こんな世界もありますよ!

挙げたものの中にはサブスクに無いものもありますが、ここで載せなかった曲も含めて約2時間40曲のプレイリストを置いておきますので、興味を持った方はこっちも聴いてみてくださいね。
ではではー。


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