見出し画像

バイバイ、ショーター。

18歳の夏、まだリリースのなかったウェイン・ショーターの新バンドがどうしても見たくて、0泊・在来線乗り継ぎで斑尾に行った。
知っているどのジャズとも違う、体験したことのない即興・相互作用での音楽の構築のされ方に、何が起こっているのかわけがわからなくて衝撃を受け、後にセットリストを見て知っている曲をやっていたと知ってまた驚いた。
翌年の「東京JAZZ」(初回)にも来日すると知り、すぐチケットを取った。
(余談だが、このイベントは席が埋まらなかったのか関係者招待をだいぶバラまいていた模様で、何ヵ所からもその誘いがあり、チケットを発売日に買ったことを後悔した。)

Wayne Shorter、Brian Blade、Danilo Perez、John Patitucciというこのカルテットでの3枚のアルバム=『Footprints Live!』、『Beyond the Sound Barrier』、『Without a Net』は、間違いなくショーターのキャリア最高峰の作品で、70歳代にして金字塔を更新したことも衝撃的だった。
(しかもそれが「枯れた味わい」とかでは全然なく、最高峰にギンギン!)


作曲もテナーも最高だけど、ショーターといえばやっぱり、あの「プペッ」「ぴー」というソプラノだ。
だいぶ前、ショーターを聴いた妻が「ハタ坊みたい(な音楽)」と言っていて、この人はなんて良いことを言うんだろう、と思った。

赤塚にせよシュルレアリスム絵画にせよ、ユーモアと不穏は紙一重なところがあり、それはショーターの音楽についても同じことが言えると思う(真面目な人は怒るかもしれないけれど、あの「プペッ」「ぴー」は、聴きようによってはコミカルにも取れる)。
また、ショーターは、上記のカルテットのコンセプトに「de-compose」という言葉を使っている。デリダを読んでいたり面識があったかはわからないけれど(おそらくなさそう)、その音楽からは「脱構築」という言葉も頭に浮かぶ。
あるいは、コルトレーンとそのフォロワー的なブリブリと吹きまくるサックス以上に「スピリチュアル」だという言い方もできる。
とにかく、「プペッ」「ぴー」が生み出す宇宙は唯一無二で、ジャズの枠組みを超えて個性的な音楽家だった。


好きな作品を挙げたらきりがない。
Weather Reportや60年代ブルーノートの諸作はもちろん、参加作もたくさん聴いた。
ジョニ・ミッチェルやスティーリー・ダンへの客演もあるんですよ。(って、この長文をわざわざ読んでくださっているような方は、きっとみなさんご存知かと思いますが。)
若い頃の自分(と当時の時代感覚)にとっては、80年代の諸作はなかなか厳しいものに感じられていたけど、vaporwave以降の耳には『Phantom Navigator』や『Joy Rider』は「めちゃめちゃアリ」だと思う。(『High Life』は正直まだキツい。)

『Native Dancer』はミルトン・ナシメント/MPBを世界に紹介したという点で記念碑的な作品だけれど、ブラジルの側からのネガティブな証言(ショーターは現地ミュージシャンとの共演は嫌々・渋々で、めちゃめちゃ感じ悪かったらしい)を読み聞きしてから少し印象が変わった。そう言われてみればたしかにちぐはぐなアルバムではある。
1987年のLive Under The Skyのビデオ(Wayne Shorter、Dave Liebman、Richie Beirach、Eddie Gomez、Jack DeJohnette)もよく見たなあ。

NHKで放送された、わりと近年のショーター、ハンコック(とホランド&ブレイドだったか、ロン・カーター&ディジョネットだったか)のライブ映像で、終演後のインタビューで上気したショーターが「better than democracy!!」と連呼していたのも強烈に印象に残っている。
字幕では「音楽でより良い世界を作ろう」みたいにぼやかしてあったことも含めて。
10年遅れてデモクラシーの限界を痛切に思い知ってますよ……。

訃報を聞いて、ショックやびっくりや悲嘆というよりは、いつかくる日がとうとう来てしまったね、という感じだけど、やっぱさみしいですね。
刺激的なたくさんの音楽をありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?