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取材に当たり、最初に聞かれたのは「遺体は怖くないか」だった。

海外で亡くなった人は、どのように自宅へ帰ってくるのか。
取材した遺体搬送の現場をレポートする。

きれいな遺体かもしれないし、事故にあって悲惨な遺体かもしれない。
もしかすると腐りかけているかもしれない。
海外から搬送され帰国してくる遺体、そしてその現場とは、どのようなものだろうか。

見習い助手という名目で、この日、同行取材させてもらうことになった。同行取材にあたり、最初に聞かれたのは「遺体は怖くないか」だ。

けっこうな割合で遺体を見たことが無い人や、怖がる人がいるらしい。
怖くはないが、エンバーミングされた遺体がどんなものか想像がつかない。
「大丈夫です」と答えると
「欧州からの特殊帰国者がいるが、同行するか? 来るなら6時集合」
これが同行取材の2日前。
人の死はいつ訪れるかわからない。

同行取材にあたり、出された条件は、遺体の尊厳を守ること。
彼らの指示に従うこと、そして遺族への質問はなしだ。
興味本位だけの取材はお断りなのだ。
その気持ちはよくわかる。
人の死を扱う現場は、安易に入り込める世界とは違う。
送還業務を手掛けるこの会社では、遺体の尊厳を守るというポリシーがあるため尚さらだ。

「お願いします」と即答すると
「今回のケースは夫婦で一緒に出掛けた旅行先で突然、夫が亡くしてなってしまったもの」と説明された。

妻は遺体と一緒の便で帰国する。
旅行中の出来事のため、妻が喪服を着ているということおそらくない。空港は葬儀の場ではなく、通過点のひとつ。
狭い到着ロビーは周りの目もある。
喪服は目立つから、なるべく目立たない黒かグレーの服装でと指示された。

同行するスタッフの服装も黒のカットソーに黒のパンツ。
霊柩車の運転担当者もグレーのスーツだ。

1日の流れをスタッフたちと確認。
運行管理者が運転担当者と、車の設備や状態を1つづつ確認しながら点呼。
法律で、霊柩車の運転担当は許可者から点呼を受けなければならないと定められている。

葬儀社によっては、早朝や夜間の点呼など面倒くさがってやらない所も多いと聞いていた。
律儀な点呼理由を問うと、運行管理者はなぜそんな当たり前のことを質問するのかというような表情を浮かべ、神経質そうに眉間にシワを寄せた。
「細かなことに手を抜き始めると、最終的に全部の仕事にそれが影響する」
この仕事は細かな事の積み重ねから成り立っている。

到着予定より遡ること3時間前、大型霊柩車に乗り成田空港へと出発した。
乗った瞬間、病院特有のホルマリンや消毒薬の臭いがするのではと思ったが、臭いは何もしなかった。
「もっと、独特の臭いがするのかと思いました?」と運転担当に聞かれ
「エンバーミングした遺体を載せるというので、臭いかと思っていたが、臭わないんですね」と答える。
「一度、送迎した後は徹底的に消毒しますからね。稀に棺が木製だけで、エンバーミングの処置がひどい場合、臭うこともあります。換気をきちんと行い、きっちりと消毒すれば臭いは残らない」

木製だけでという理由は、棺を開けた時にわかった。

今日がどうなのだろう?という思いが、一瞬頭をよぎったが
「今日は大丈夫でしょう」と、涼しい顔で笑われた。

※写真はイメージです。

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