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米倉涼子主演のドラマ「国際霊柩送還士」の現場へ

海外で亡くなった人は、どうやって日本に帰ってくるのか。
遺体搬送にまつわる驚きの現場をレポートする。

遺体は当然のことだが自分では歩けない、話せない、飛行機には乗れない。
帰国するには、誰かの助けがいる。
その誰かとは…。

蒸し暑い夏の日、
 特殊帰国者の送迎に同行させてもらうため、黒のジャケットで家を立た。
夏の陽ざしをどんどん吸収していく。
湿度も高く。じっとりと汗ばんでくるが、この日はダークな色の服でなければならなかった。

この日「特殊帰国者」の搬送現場に同行が許された。
それは米倉涼子主演ので注目された「国際霊柩送還士」の現場だ。

特殊帰国者というのは耳慣れない呼び方だ。
葬儀社や遺体搬送の会社などでは、空港まで迎えに行く帰国者のことを特殊帰国者と呼んでいる。
生存している人間ではない。
何らかの事情により遺体となって帰国する人たちだ。

「遺体は生きている人間のように、自分で飛行機を乗り降りし、歩いて出入国審査のゲートに向かうことも、パスポートを見せることもできない」
当然のことだが、自分の足で帰国し、パスポートを呈示できない彼らには、通常とは違う手続きが必要になる。

特殊帰国者となってしまう原因は様々だ。
病気もあれば事故もある。事件に巻き込まれたり、災害にあう場合もある。
きれいな身体のままならいいが、損壊したり、腐ったり、焼けしまっている場合もある。

帰国する時には、どのような遺体でも、亡くなった国の法律に則った方法で
エンバーミングを施される。
エンバーミングは遺体を衛生的に防腐保全するための処置であり、生前のような容貌に整えるためのものだ。
そうして家族の待つ場所へと搬送される。

この時、海外で亡くなった邦人をスムーズに帰国させて家族のもとに帰すのが、ドラマでいう「国際霊柩送還」
そして、日本国内で亡くなった外国人を家族の待つ場所へ送る、というのも「国際霊柩送還」だ。
これを行うのが、国際霊柩送還士になる。

だがこの名称、実在する会社が商標登録しており、他の会社は使えない。
名称が使えないので、国際霊柩送還士という資格もない。
あるのはエンバーマー資格だが、これも国家資格ではない。
エンバーマーは、遺体にエンバーミングを施すための資格になる。
一般的には海外搬送や遺体搬送、霊柩搬送、遺体送還という名称が使われている。
ここでは、霊柩送還と呼ぶことにする。

霊柩送還する会社に到着する。
今日の行き先は成田国際空港だ。

特殊帰国者は、空港に9時半到着予定。
米国からの便は、予定よりも1時間近くずれる場合がよくあるという。
遅延ならばこちらが待てばいいだけだが、早まると特殊帰国者や遺族らを待たせてしまう。
悲しみの最中、旅行帰りの人々が行き交う空港のロビーで待たされるなど、遺族にとっては耐え難く、辛いはずだ。
待たせることがないようスタッフたちは早めに出発準備を進めていた。

壁にかけられたホワイトボードの一番上に書かれていたのは、クライアントの名前、生年月日、身体的特徴、帰国便。
特殊帰国者は50代男性だ。

今回はこの男性とともに妻が、同じ便で帰国するという。
妻を出迎えるための手順と、送還手続きについて、スタッフでエンバーマーのA氏が説明を始めた。

これから送還現場だ。

※写真はイメージです。

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