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手の皮がすっぽりと手袋のように抜け落ちて…

海外で亡くなった人を帰国させる、日本で亡くなった外国人を故国へ送るという霊柩送還。
その遺体搬送の現場をレポートする。

「エンバーミング」は、日本の葬儀ではなじみがないだろう。
遺体を火葬する日本では、その必要がないのだ。
しかし、土葬を主流とする欧米諸国では、いまや葬儀に欠かせぬ技術となっている。

古くなるが、1992年の米映画に『永久に美しく』という映画ある。
ロバート・ゼメキス監督、ブルース・ウィリス、メリル・ストリープ、ゴールディ・ホーンが共演し話題になった。
年齢からくる容貌の衰えに悩むメリル・ストリープとゴールディ・ホーンが秘薬を飲み、若く美しいまま蝋人形のような身体になっていく。
だが喧嘩や事故で身体はバラバラになり、皮膚が剥げていく。
それを修復していくのが、ブルース・ウィリス演じる美容整形外科の夫。
この夫が死体相手に行っていたのがエンバーミングの1つだ。
この時代、遺体の修復やメイクは日本では珍しく、棺の中に眠る遺体に丹念にメイクを施していく姿は、かなり衝撃的なものだった。

エンバーミングは、死体防腐処理、または遺体衛生保全と訳され、遺体の消毒、防腐処理と、必要に応じた修復などの技術のことを指す。
その主な目的は、
①遺体を安らかな姿にし、元気な頃の表情に復元する
②遺族への感染症を防ぎ、触ってお別れができるようにする
③防腐処理をすることで、時間の制約なくす

日本で行われているエンバーミングは、全身を消毒し、血液を抜いてと防腐液と入れ替え、腹部に小さな穴をあけて、腹腔部にある残存物を吸引して防腐液を入れ、身体全体を防腐処理する。さらに服を着せ、遺体の表情を整え、メイクを施す、というものである。

遺体を安らかな姿にし、お別れできるようにすると言えば、2008年に公開された本木雅弘主演『おくりびと』の思い出す。
遺体に清拭を行う湯灌の静かで厳かなシーンは人々に感動を与えた。
あの映画の後から、湯灌に付き添う遺族が多くなったと聞く。

霊柩送還では、湯灌を行うことはない。
エンバーミングした遺体、修復作業した遺体はミイラと同じ。
腐らないよう防腐処理をしており、乾燥しているのだ。
きれいなミイラは、腐ることなくカラカラに乾燥している。
遺体も防腐液を入れて乾燥させているので、水につけることはできない。
湯灌すると、カップラーメンの麺ごとく、遺体の皮膚が膨張する。
閉じていた傷口が膨らんで弾け、防腐液や体液が流れ出すこともある。
かろうじて皮膚がついてい遺体だと、手首を持った途端に、手の皮が手袋のようにすっぽり抜け落ちてしまうこともある。
湯灌している最中に、濡れたタオルでこすった顔の皮膚が、ベロっとむけてしまうこともある。
だが、それをわからず湯灌させてしまう業者が時々いるらしい。

乾燥がひどい国々から送られてくる遺には、顔や手足に油分の強いクリームを塗って皮膚が破けないように保湿されてくる。
せっかく保湿した皮膚も、湯灌によって油分が抜けてしまえばどうなるか。乾燥が急速化して、遺体の損傷がひどくなる。

水死などで水に浸かった遺体も、引き揚げられた後から急激に乾燥が進む。海や川で溺れて亡くなったり、お風呂で溺死した外国人などの場合なども、エンバーミング後に乾燥を防ぐため、洋服で覆われていない顔や手足にクリームを塗って、送還する場合がある。

ロシアのレーニンや中国の毛沢東などは、数年に1度、エンバーミングをし直し、注入されている防腐液を交換する。
そして表面の乾燥を防ぐため、皮膚にはクリームが塗られているという。

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